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V-2 2003秋季造船三学会連合大会(日本造船学会)での研究発表
 
日時:平成15年11月14日(金)(1)日間
場所:兵庫県神戸市
 
概要:
 発表内容は下記の発表原稿参照のこと。
 会場からの質疑応答は以下のとおり。
Q1:油は分解して結局何になるのか?メタンか?
A1:追跡していないが、油汚染土壌ビジネスを行っているゼネコンの説明によると、水、CO2、不可溶物質などが中心。我々も追跡してみたい。
Q2:装置内実験とフィールド実験の条件の違いは?
A2:装置内実験では温度、水分が自動調整される。フィールドでは、雨ざらしで温度、水分などは屋外のままでコントロールされるものではない。
Q3:油分解微生物と堆肥化微生物の活性条件は異なるのではないか?(同上)
A3:油汚染浄化で使われるバイオレメディエーションの微生物は一般的に常温菌。バーク堆肥発酵工程はそれに対して、60〜70℃に達するので、好熱菌の割合が高いだろう。両者の機能、例えば分解対象とする油の成分も異なる可能性があるので、例えば複合化を行うことにより、スピードアップや分解油分量の増加を見込めるかも知れない。
 
所感:
 日本造船学会での発表は2年ぶり、国内の海洋関連学会での発表は昨秋のTechno Ocean 以来となる。この分野の研究者は大阪大学・鈴木敏夫教授をはじめ、本研究をよくウォッチしてくれており、チャレンジングな研究として一定の評価を頂いているようである。
 
 以下に発表原稿を掲載した。
 
日本造船学会講演会論文集 第2号
杉樹皮製油吸着材の微生物分解処理技術に関する研究
正員 斉藤雅樹* 小倉 秀**
福士久人** 山田吉彦***
永水堅****
 
Research and Development of Biodegradation Disposal for SBS (Sugi Bark Sorbent)
by Masaki Saito, Member Suguru Ogura
Hisato Fukushi Yoshihiko Yamada
Katashi Nagamizu
Key Words: Oil Spill, Sorbent, Oil Absorbent,Biodegradation,
Bioremediation, Sugi, Bark
 
1. 緒言
 海洋をはじめとする水域での油流出は環境に影響を及ぼすため、迅速な対応が求められる。油吸着材は機械的回収、海上燃焼、油分散剤、バイオレメディエーションなどとともに選択肢の一つであり、取り扱いや使用が簡便なことから広汎に用いられる。従来品の大半を占めるポリプロピレン(PP)製の油吸着材に対し、筆者らは、同等のコストと性能および低い環境負荷を実現する目的で、杉樹皮製油吸着材(SBS)の開発を1997年より開始し1)、2001年に企業化し、製造販売を行うに至った2)
 製造段階、使用段階の環境負荷低減には成功していると考えられるが、油を吸着させた後の処分段階においては焼却というPP製と同じ手段を採らざるを得ないのが現状である。そこで、さらなる環境負荷低減を目指し、微生物を利用した使用後すなわち吸油後のSBSの分解処理技術につき研究開発を行い、一定の知見を得たので、本稿にて報告を行う。
 微生物を用いて油を分解処理する技術は、食用油については古くから実用化されているが、水域への油流出で主に問題となる鉱物油については、油汚染海岸の修復技術としてのバイオレメディエーションが十数年前から米国などで実施されている。また、土壌の油汚染の浄化技術としても近年注目を集めており、例えば2003年9月に開催された「土壌・地下水汚染対策展(東京)」によると、出展76社中48社が同技術の研究開発または事業を行っている3)
 
2. 実験
2. 1 実験の概要と種類
 杉樹皮を畜糞などと混合し、堆肥化する技術は広く普及している。製造された肥料をバーク堆肥と呼ぶが、工場の処理槽内では活発な微生物活動が行われ、発酵熱で60〜70℃にも達する。この活性化された土壌菌群であるバーク堆肥生成段階の微生物を、今回の実験で使用した。バーク堆肥を油分解に用いた例は、ドイツやフィンランドなどの研究機関から数例報告がある4)5)
 手始めに知覚による予備試験として、C重油を吸着させたSBSを数m3のバーク堆肥パイルに埋め、8週間経過後に観察したところ、臭気や触感で油分を感知できない程度になっていた。油分の減少を定量的に示すため、より安定な条件にある好気発酵処理装置を用いた予備試験を行い、その後に実用化へのステップとして、バーク堆肥パイルでの一定規模の油およびSBSの分解実験を行った。
2. 2 好気発酵処理装置による油・SBSの分解実験
(1)実験の方法
 使用機材はエコアップ製T-25Sで、C重油0.6kg を杉樹皮製油吸着材(マット型15×15cm)8枚に吸着させたものをバーク堆肥とともに投入し(Fig.1)、サンプル全体で12kg(油分濃度50000ppm、濃度はいずれもwet weight)とした。
 装置は保温装置を有し、垂直軸から伸びる3本の攪拌バーを持ち、最下部のものからは空気が供給され好気活動を活性化させる構造になっている。回転頻度は1回転/分である。
(期間:2002年11月11日〜2003年1月6日)
(2)結果
 残留油分の推移をFig. 2に示す。この実験では、C重油をSBSに吸着させた後に分解槽に投入するため、SBSが原型を留める間は槽内の油分濃度が一定になり得ず、開始直後の油分は測定していない(理論上は50000ppm)。従って、1週経過時の油分10000ppmを基準に考えることになるが、開始後2〜8週はいずれも5000ppm以下のレベルに保たれており、油分濃度は低下している。また、生菌数については実験期間を通じて105〜108cfuと高いレベルに保たれている(Fig. 3)。
 
Fig.1 油吸着材投入後の分解槽内
 
Fig. 2 残留油分の推移
 
Fig. 3 生菌数の推移
 
2. 3 バーク堆肥パイルでの油・SBS の分解実験
(1)実験の方法
 バーク堆肥36m3(約18t)のパイル中に7つの水平な断面を設け、SBS(200g/枚)に1kgのC重油を吸着させたものを合計180枚設置し、油分濃度の推移を調べた。開始時の油分濃度理論値は約10000ppmである。酸素供給のための攪拌は2週間に一度とし、その際にサンプルを採取し(上、中、下部断面から各9検体を採取・混合して得た3検体)、油分をn-ヘキサン抽出重量法により測定した。なお、バーク堆肥からの溶媒抽出能力による油分濃度測定値の誤差は、予備試験で得たデータにより補正している。また、標準偏差(Fig. 4グラフ中の縦棒)は、27検体によるサンプリング精度検証の予備試験により導出した変動係数により計算を行った。
(期間:2002年7月7日〜2003年9月2日)
 
Fig. 4 バーク堆肥パイルに設置中の吸油後のSBS
 
(2)結果
 残留油分の推移をFig.5に示す。開始時の油分濃度理論値10000ppmから、6〜8週間で2000ppm前後まで低下している。また、パイル内の温度は50〜60℃程度に保たれており、通常のバーク堆肥発酵(60〜70℃)には至らないものの活発な微生物活動が行われていると考えられる。
 
Fig. 5 残留油分の推移
 
3. 結言
 本研究により得られた知見は以下のとおりである。
・好気発酵処理装置による油分分解実験では、開始後1週時点の10000ppmに対し、2〜8週時点の油分濃度はいずれも5000ppmまで低下した。
・バーク堆肥パイルでの油分分解実験では、開始時理論値の10000ppmに対し、6〜8週間後の油分濃度は2000ppm前後まで低下した。
・前者実験では生菌数が105〜108cfu程度に、また後者実験ではパイル内温度が50〜60℃程度に保たれていることから、双方ともに実験期間を通じて活発な微生物活動が行われていると考えられる。
 
謝辞
 本研究に貴重な助言を頂いた東京大学・山口一教授、九州大学・近藤隆一郎教授、広島大学・長沼毅助教授、資材をご提供頂いた九州石油(株)に御礼申し上げます。
 
参考文献
1)斉藤雅樹, 小倉秀 他:杉樹皮製油吸着材の開発と海洋流出油回収への適用(第1報), 日本造船学会論文集, 第190号, 2001, pp.287-294.
2)M. Saito, S. Ogura et.al.: Development and Water Tank Tests of SBS, Papers of IMO 3rd R&D Forum on High-density Oil Spill Response, 2002, Session III ID39 pp.1-9.
3)(社)土壌環境センター 他:2003 地球環境保護 土壌・地下水浄化技術展パンフレット, 2003, pp.18-19.
4)Joergensen, R.G. et al.: Microbial Decomposition of Fuel Oil after Compost Addition to Soil, Z. Pflanzenernahr. Bodenk., No.160, 1997, pp.21-24.
5)Joegensen, K.S. et al.: Bioremediation of Petroleum Hydrocarbon-contaminated Soil by Composting in Biopiles, Elsevier Environmental Pollution, No.107, 2000, pp.245-254.
 

* 大分県産業科学技術センター材料科学部
** 海上災害防止センター調査研究室
*** 日本財団海洋船舶部
**** ぶんご有機肥料(株)
 
秋季講演会において講演 平成15年11月13, 14日
日本造船学会







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