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II-2 誤差評価のための実験
 前年度に課題として上げられた、サンプル採取時におけるバラつきと油分濃度計測データの精度(誤差)について、各面から検討を行った。
 
1 溶媒による油分抽出の実験
 本調査研究で対象とする油はC重油である。このC重油を、サンプルであるバーク堆肥からどれだけの量を抽出できるかにつき、実験を行った。
 
(1)溶媒への可溶分の比較
 本調査研究で用いるC重油の、各種溶媒への可溶分の比較を行った。用いた溶媒は、四塩化炭素、クロロホルム、n-ヘキサンである。手順としては、C重油1gを各溶媒50mlに溶解後、ろ過し、80℃のホットプレートにて重量が平衡状態になるまで溶剤揮散させる(30〜40分程度)。80℃の乾燥機に30分入れ、保冷した後に重量変化を測定した(JIS工場排水油分試験法による)。結果を表−II.2.1に示す。
 
表−II.2.1 溶媒によるC重油可溶分などの相違
溶媒名 蒸発分(%) 可溶分(%) 不可溶分(%)
四塩化炭素 10 84 6
クロロホルム 10 81 9
n-ヘキサン 10 71 19
(測定・(株)住化分析センター)
 
 単にC重油に対する抽出能力の点では四塩化炭素やクロロホルムが優れるが、この二つは現在および今後も社会的に使用が歓迎されない状況にあることと、n-ヘキサンは各種公定法に用いられる一般的な溶媒であることから、可溶分そのものは他の溶媒より少ないもののn-ヘキサンを溶媒として用いることとした。
 
(2) バーク堆肥からの抽出量の検証
 次に、実際の油分測定を行うサンプルである「バーク堆肥」から、n-ヘキサンにてC重油がどれだけ抽出されるかを検証した。サンプルをn-ヘキサンにてソックスレー抽出(4時間)を行い、脱水・ろ過後、80℃のホットプレートにて重量が平衡状態になるまで溶剤揮散させ、乾燥・保冷後に重量変化を測定した。
 
表−II.2.2 バーク堆肥などからのC重油回収可能量/率
検体名  繰り返し測定数(n) 試料採取量(g) C重油添加量(g) 分析結果
添加回収率
(%)
回収量
(g)
濃度
(%)
C重油 1 0 0.9879 0.8043 - 81
2 0 1.0159 0.8291 - 82
3 0 1.0053 0.8184 - 81
バーク堆肥
(コントロール)
1 20.1906 0 0.0049 0.02 -
2 19.8827 0 0.0073 0.04 -
3 19.8673 0 0.0062 0.03 -
(参考)
杉皮製油吸着材
(コントロール)
1 18.7321 0 0.1845 0.98 -
2 18.7156 0 0.1833 0.98 -
3 23.4873 0 0.2244 0.96 -
バーク堆肥
(C重油添加)
1 20.0126 1.0059 0.7819 3.9 77
2 20.0001 1.0064 0.7248 3.6 71
3 19.8882 1.0202 0.7972 4.0 78
(参考)
杉皮製油吸着材
(C重油添加)
1 20.6190 0.9989 0.9494 4.6 75
2 19.0125 1.2125 1.1496 6.0 80
3 19.5145 1.0243 0.8953 4.6 69
 
バーク堆肥からのC重油回収率 平均値:75.4%(平均値)
(参考)杉樹皮製油吸着材からのC重油回収率 平均値:74.5%(平均値)
 
 表−II.2.2に示すとおり、バーク堆肥からのC重油回収率は平均で75.4%であった。また、C重油そのものの抽出率は81.3%であった。この値はII-2.1(1)の実験のものと異なるが、これはC重油そのものの違いであると考えられる。なお、II-2.1(1)の実験のC重油のみが別の種類であり、本実験(2)で使用したC重油は今後の調査研究全般で用いたものと同種である。
 また、バーク堆肥そのものからも、0.03%ほどのn-ヘキサン可溶物が検出されることが判明したため、添加したC重油の影響を見る際には今後の油分測定値から差し引く必要がある。
 
2 サンプリング精度の検証
 今回の調査研究における油分濃度の経時変化の測定は、昨年度の10地点サンプリングから、27地点サンプリングに測定数を増やす。この際のサンプルにおける油分濃度のバラツキを検証するため、実験を行った。
 本実験の1/18スケールに相当する、約2m3(1t)のバーク堆肥のパイルから、27箇所のサンプリングを行った。バーク堆肥を計量しながら小さな山(約2m3=約1tになるまで)を作った後、C重油を投入し(1%=10kg)、攪拌を行った(ショベルによる手作業)。目視により充分な攪拌が行われたと判断された段階(攪拌時間10分程度)で、上層、中層、下層においてそれぞれ9箇所、すなわち合計27箇所からサンプリングを行った(図−II.2.1)。サンプリングは一箇所50g程度とした。
 
図−II.2.1 サンプリングの概念図
 
 
 (1)〜(3)の各断面につき、(1)〜(9)の各点でサンプリングを行う。
 上からショベルでバーク堆肥を取り除き、断面(1), (2), (3)の順でサンプリングを行う。
 
 
表−II.2.3
各サンプルの油分濃度/平均値/標準偏差など
 
試料番号 油分濃度
  (%)
1-(1) 0.53
1-(2) 0.34
1-(3) 0.54
1-(4) 0.35
1-(5) 0.28
1-(6) 0.33
1-(7) 0.21
1-(8) 1.7
1-(9) 0.66
2-(1) 0.29
2-(2) 0.42
2-(3) 1.0
2-(4) 0.42
2-(5) 0.43
2-(6) 0.80
2-(7) 0.27
2-(8) 0.35
2-(9) 0.81
3-(1) 0.13
3-(2) 0.30
3-(3) 0.26
3-(4) 0.61
3-(5) 0.57
3-(6) 0.27
3-(7) 0.35
3-(8) 0.45
3-(9) 0.26
平均 0.48
 
1の平均 0.55
2の平均 0.53
3の平均 0.36
 
標準偏差σ 0.32
変動係数 0.66
95%上限 0.79
95%下限 0.48
平均値+σ 0.80
平均値-σ 0.16
 
図−II.2.2 油分濃度の度数分布
 
 結果を表−II.2.3および図−II.2.2に示す。
 理論上、1%であるはずの油分濃度は平均値で0.48%しか計測されなかった。これは、II-2.1(2)で検証した溶媒の抽出力の限界によるもの(1%→0.75%)に加え、サンプリング作業に起因する要素による減少、すなわち油は塊になりやすく小さなサジですくい上げる際にはピックアップされにくいため、油分の薄い部分をサンプリングする可能性が高いことなどが考えられる。これに、バーク堆肥そのものが含む溶媒可溶分(0.03%)による増加などの要因が総合され、この値の変化(0.75%→0.48%)が現れていると考えられる。
 従って、この0.48という数字を「サンプリング補正係数」とし、今後の油分濃度の経時変化を調べる際には、分析値そのものに加え、分析値を0.48で除した推定値をあわせて検討することとする。もちろん、分解が進むか、あるいは攪拌の回数が増すことにより、塊状の油分がほぐされるなどして、上記のサンプリングによる誤差要因が変化することも十分考えられるため、このサンプリング補正係数0.48は絶対的な信頼のおけるものではなく、あくまで今回の実験のために仮に定めた補正係数と考えるのが妥当である。







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