2-5. 海事産業
ミクロネシア連邦における唯一の船舶の整備点検用設備は、コスラエに位置する小型の乾船渠(1,000GRTまでの船舶の取り扱いが可能)である。1999年に建設されたこの造船施設は、コスラエ州と韓国企業の合弁事業であり、主に漁船と引船に使用されている。
コスラエ造船所では15人のミクロネシア連邦市民と5人の韓国人が従事している。ここでは安定した船舶の整備点検の受注がないという問題に直面している。時には、整備点検を必要とする船が到着するまでに数カ月も空くことがある。最近、この造船所の収入源の1つであった現地の延縄漁船がコスラエから撤退したため、同造船所の収入は即その影響を受けた。
コスラエ造船所の欠点は、ミクロネシア連邦の領海沖を航行する喫水の深い巾着網漁船を扱うことができないということである。日本や台湾、及び韓国籍のこれらの漁船の多くがこの領域で魚を捕獲しており、これらは潜在顧客である。岸をもっと浚渫して船の上陸路を拡張することができれば、この問題は解決が可能と思われる。
ミクロネシア連邦政府が運行する2隻の巡視船は、オーストラリア政府によって提供され、整備点検が行われている。2隻の沿岸警備船「Paluwap」と「Constitution」は、米国の沿岸警備基準に準じて米国メリーランドの現地造船所で建造され、同国によって整備点検が行われている。
80総トン超小型のシリーズ船「Micro Glory」(ポンペイ州)、「Micro Dawn」(チューク州)、「Micro Spirit」(ヤップ州)及び「MicroTrader」(チューク州:2004年2月現在、座礁のため運航されていない)は、日本の大阪所在の株式会社サノヤス・ヒシノ明昌によって建造、整備点検が行われている。これらの船は2年毎に同社の日本国内の造船所にドック入りしている。実地研究旅行用に政府が使用している上陸用舟艇「Caroline Islands」の整備点検も大阪の造船所で行われている。
(Micro Glory)
船籍に登録されている残りの船、すなわち漁船10隻と上陸用舟艇「Merian」は船級船ではない。これらの船は各州及びミクロネシア連邦政府の各部署の技術者の補助を受けながら、各船の技術者によって整備点検が行われている。ドック入れが必要な際には、その整備点検作業は、日本、台湾、韓国、シンガポール及びオーストラリアの造船所のうち見積もり金額が最も低いところに発注する。
通信建設・運輸省では、1978年に建造され老朽化が進む「超小型」級船舶全4隻の交換を行うことを検討している。しかし各州政府が、他のプロジェクトの方がより優先度が高いと判断しているため、これらの船はしばらくの間、使用が継続されると思われる。一方、中国が経済協力により貨物船を供与する予定となっており、2004年にチューク州用に1隻(建造中)、引き続きヤップ州用に1隻の建造を開始する計画である。
またミクロネシア連邦政府は、国有船舶の修理や整備点検の需要を満たし、ミクロネシア連邦領海で運行する外国籍の漁船に対しても同様のサービスを提供するための施設を建設する可能性について検討を行った。船籍に登録されている船が35隻のみであることを考慮すれば、外国船からのビジネス機会を確保することができなければ、このような施設は財政上成り立たないと思われる。
2-6. 港湾設備
4つの州は大水深港を有し、1万トン級までの船舶の取り扱いが可能である。国内の船舶輸送に関しては、各州政府が所有、運行する船が1ヶ月に2度、島間を航行している。
各州の港湾設備の概要は次のとおり。
(1)チューク州
チューク州では、長さ600フィート、喫水9mの波止場施設が1970年代に日本政府の援助で建設された。冷蔵施設はないが、20フィートと40フィートのコンテナを収納できる倉庫とコンテナヤードがある。
(2)ポンペイ州
ポンペイには、長さ1000フィートの波止場が2つある。1つは2001年に完成し、漁船が捕獲した輸出用の魚を降ろすために使用している。もう一方は州間を航行する商船や外国籍の商船が使用している。1,000個のコンテナを保管することのできるコンテナヤードがあり、1989年に建設された冷蔵施設が1つと2001年に建設された保税倉庫/積み替え用倉庫が1つある。これらの施設に通じる航路は喫水がほんの7mで、現在ここを通り抜けできる最大の船は1万GRTであるため、水深を8m以上まで深くする必要がある。
(3)ヤップ州、コスラエ州
ヤップには、長さ840フィート、喫水10mの長さの波止場がある。コスラエには、長さ550フィート、喫水10mの比較的新しい波止場がある。
2-7. 経済協力の現状
自由連合盟約(Compact of Free Association)1を締結している米国が、最大の援助供与国で、近年の平均援助額は5,290万ドルにのぼる。連邦政府歳入の約5割(連邦・州合計歳入の約7割)は米国からの財政援助である。日本は米国に次ぐ二国間援助供与国で、道路、波止場、港、漁業インフラの建設資金となっている。日本からは他に、生活を向上するための草の根プロジェクトも実施している。オーストラリアの援助は教育、健康、人材育成等の分野である。多国籍間援助では、アジア開発銀行による援助が最も多く、近年の平均援助額は800万ドルとなっている。
米国は、自由連合盟約の改定に伴い、2001年以降、援助の段階的削減を提示しているため・ミクロネシア連邦政府は、アジア開発銀行(ADB)の指導の下、政府部門の縮小、民間セクター育成等経済構造改革に努めている。アジア開発銀行による援助は、ミクロネシア連邦がアジア開発銀行に加盟した1990年以来、総額5,613.6万USドルの借款と、1,958.5万USドルの技術協力となっている。
図2. ミクロネシア連邦への国際援助
Micronesia. Fed. States
Receipts |
1999 |
2000 |
2001 |
Net ODA (USD million) |
108 |
102 |
138 |
Bilateral share (gross ODA) |
95% |
95% |
98% |
Net ODA GNI |
44.8% |
39.4% |
51.5% |
Net Private flows (USD million) |
-1 |
- |
- |
|
For reference |
1999 |
2000 |
2001 |
Population (million) |
0.1 |
0.1 |
0.1 |
GNI per capita (Atlas USD) |
1970 |
2070 |
2150 |
|
Top Ten Donors of gross ODA (2000-01 average) |
[USD m] |
1 |
UNITED STATES |
104.7 |
2 |
JAPAN |
10.1 |
3 |
AS. D B SPECIAL FUNDS |
3.5 |
4 |
AUSTRALIA |
0.7 |
5 |
UNTA |
0.3 |
6 |
NEW ZEALAND |
0.2 |
7 |
UNDP |
0.1 |
8 |
UNFPA |
0.1 |
9 |
SWITZERLAND |
0.0 |
10 |
SPAIN |
0.0 |
|
Bilateral ODA by Sector (2000-01)
Sources: OECD, World Bank.
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|
出所:OECDウェブサイト
2-8. 日本の経済協力の現状
ミクロネシアは、米国との自由貿易盟約に基づく援助が段階的に削減されていくため、経済的自立の達成に向けて、日本からの援助への期待が高まっている。また、日本との間に民間漁業協定を締結しており、日本の水産業界とも密接な関係がある。
無償資金協力では、1996年度から「離島漁村連絡船建造計画」、98年度に、「オカト港湾整備計画」「コスラエ州零細漁業支援施設改善計画」を実施し、99年度から「ポンペイ州タカティック漁港整備計画」、2000年から「ヤップ州道路整備計画」、2003年から「ポンペイ島周回道路改善計画」を実施している。技術協力では、研修員受入れ、青年海外協力隊の派遣等を行ってきており、2000年8月より漁業・海事専門学校に対するプロジェクト方式技術協力を開始している。
海運関係のプロジェクトの受注企業は、下記のとおり
離島漁村連絡船建造計画 |
極洋、日立造船 |
オカト港湾整備計画 |
エコー |
コスラエ州零細漁業支援施設改善計画 |
水産エンジニアリング |
ポンペイ州タカティック漁港整備計画 |
パシフィックコンサルタンツインターナショナル、五洋建設 |
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出所:外務省ホームページより作成
図3. ミクロネシア連邦への援助額推移
2-9. 日本の経済協力の可能性
日本がミクロネシア連邦に対して海運産業における経済協力を提供する場合には、州政府に焦点を絞る必要があると思われる。可能性のあるプロジェクトは以下の通り。
(1)コスラエ州への貨物と客船の提供
コスラエは州政府が船を有さない唯一の州であり、航空貨物便が数少ないため、首都や他の州への果実や野菜の輸出が伸び悩んでいる。
(2)ヤップ州におけるトレーニング
ヤップ州の漁業海事協会では、船の整備、水先案内及び航行に関するより実用的なトレーニングが必要とされている。
(3)ヤップ港の航路拡大
ヤップ港では港側の航路を広くする必要に迫られている。これが実現すれば、かなり大型の船が入港することができる。これは非常に重要であり、商業的に十分な収益があげられるとは思われないものの、地元経済への貢献が見込まれる。
(4)ポンペイ漁業公社の日本市場参入支援
ポンペイ漁業公社から、日本市場へ参入するための援助が要請されている。同公社の包装済み干肉とマグロの干し肉製品は既に日本に輸出されており、米国の食品医薬品局から認証を受けた製品に対して、既に日本人バイヤーは関心を示している。同公社のマネージャーが既に日本で2つの貿易博覧会に参加したが、輸出販売を阻んでいる主な問題点は、コストが高いことと貨物輸送が不定期なことである。従って、これは日本の経済協力を提供する価値のあるプロジェクトであると思われる。
(5)ポンペイの漁船用波止場の拡大/延長。
これによりマグロの出荷量が増加し、業界全体の作業効率が高まる。
(6)チューク州における観光促進支援。
この地域ではダイビング(珊瑚と難破船)市場を拡大できる大きな可能性を秘めており、これによってもたらされる州全体の経済発展における利益は注目に値する。また、船内で生活ができるダイビング船の需要もあると思われる。
1 ミクロネシア連邦、マーシャル諸島、パラオ、のミクロネシア諸国が、独立にあたって米国との間で締結した軍事的・経済的協定。米国が同諸島地域に対して安全保障上の権限を有することの見返りに膨大な援助金、米国市場向け輸出品に対する関税免除、気象・郵便・航空行政・教育・医療に関する技術協力等を提供することが約束されたもの。
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