2.4 天然ガス・ハイドレート(NGH6)輸送船
温度と圧力を一定の範囲に保つとガス中にハイドレート(水和物)が形成される。ハイドレートは大水深の海底パイプラインや氷海域のパイプライン内において配管を閉塞する事故を起こすことから、パイプラインにとって悩みの種であった。しかし、これをStranded Gas輸送の救世主とする可能性が検討されている。
ガスをハイドレートの形で輸送に利用するのは新しい概念ではない。1970年半ばに、Chevron社は「没水型船を使用してハイドレートの形の天然ガスを輸送するための方法と装置」で特許を取得した。その後、1990年代の初めに、ノルウェーの石油工学技師が180cf(約5m3)以上のガスが水和物になると1cf(約0.03m3)に体積が減る特性を輸送に利用することを提案している。
三井エンジニアリングと三菱重工業は現在天然ガス・ハイドレート輸送のフィージビリティ評価を実施中である。両社のコンセプトはともにガスをハイドレートに変えるものであるが、輸送方法は異なっている。三井はNGHをペレットの形で輸送することを検討している。三菱重工はNGHのスラリー輸送を検討している。Marathon Oil社もまた、ハイドレート輸送技術開発を積極的に行っていることで知られている。
オフショア・ガス田からのハイドレート輸送には、ガス田の生産ユニットにハイドレート生成装置を搭載し、受け入れ側に再ガス化プラントを建設する必要がある。ノルウェー科学技術大学が実施した研究によれば、オフショア・ガス田からのNGHスラリー輸送システムの構築コストは3億4,500万ドルである。これには、FPSO(Floating Production and Storage and Offloading)上に搭載されるNGHスラリー生成装置のコスト1億6,000万ドル、受け入れターミナル建設費6,000万ドル、スラリー輸送用のシャトル・タンカーの建造費1億1,000万ドルから1億2,500万ドルが含まれている。
2.5 液体燃料化(GTL)
浮体式プラントを利用したオフショア・ガスのメタノール化には数十年前から関心がもたれていた。1970年代はじめに、米国の数グループ(MarAd7とLitton Industries社を含む)が他の方法ではアクセスできないガス田を利用するために浮体式メタノール・プラントを建設するアイデアを促進していた。しかし、数多くの見込みのあるプロジェクトが提案され、このコンセプトを実現するために積極的な努力が払われてきたにもかかわらず、いまだに浮体式メタノール・プラントの建設は実現していない6これらのプロジェクトは採算性のハードルをこえられなかったようだ。
メタノールの市場が限られていたこと、また、少量のメタノールを合成するために膨大な量の原料ガスを必要とする効率の悪さが商業化が進まなかった原因と考えられる。現在、浮体式メタノール・プロジェクトで実現に最も近いのは、PetroSA社が南アフリカ沖に計画している浮体式メタノール・プラントである。同プロジェクトについてFoster Wheeler社が現在詳細なフィージビリティ・スタディを実施中であるが、今後、プロジェクトが進行するかどうかはまだわかっていない。
もっと最近では、浮体式プラントを使ってフィッシャー・トロプシュ合成(FT合成)によりガスを液体燃料化することへの関心が高まっている。この方法では、硫黄分、芳香族(アロマ分)等の不純物を含まない製品として、メタノールの他にナフサ、灯油、軽油、ワックス、ジメチルエーテル等のクリーンな燃料を生産することができるため、メタノールのように市場が限定されることはない。
世界では2つの天然ガス液体燃料化プラントが約10年間にわたって商業運転している。Shell社は日産12,500バレルの生産能力を有するGTLプラントをマレーシアのビンツル(Bintulu)に保有しており、同プラントでは1993年から商業現模で中間精製品(軽灯油、ナフサ、ベースオイル、ワックスを含む)を生産している。南アフリカのMossgas社は1993年から天然ガスから一日約30,000バレルの合成油を生産している。両プラントはともに陸上施設である。
遠隔地の石油・ガス田で使用するサイズのバージ搭載型GTLプラントに焦点をあてている企業にFMC社、Syntroleum社、BP社がある。FMC Technologies社とAccentus社は浮体式生産施設上で使用することのできる商用GTL技術を開発するためのベンチャー企業を設立した。新設された合弁会社であるGTL MicroSystems社は、日量2億cf(約570万m3)の生産能力を有する石油・ガス田をターゲットとし、オフショア・プラットフォームやFPSO船上の限られたスペースに搭載できるGTLプラント設計を開発中であり、日量100バレルの実証試験用プラントの製造が計画されている。別のプロジェクトでは、Syntroleum/Amec社が海外駐屯米軍向けバージ搭載型GTLプラントの概念を開発している。この概念は、軍用車両用合成燃料を日量10,000バレル生産する能力のあるバージ・プラントを利用するものである。同プロジェクトには米国国防総省が資金を提供している。BPは浮体式施設上で使用することができるGTLプラントの開発にも焦点を当てている。同社は、オフショア生産施設の限られたスペース上でプラントを利用するために空気分離装置を必要とせず、従来型のリフォーマー(改質装置)よりも60%省スペースのコンパクト・リフォーマーを開発中である。
しかしながら、専門家の間では、浮体式GTL施設が大型の資本投資の対象となる前に、まず陸上ベースのGTL技術に磨きをかけ、商業上の有効性を実証する必要があるという点で意見が一致している。Zeus Developmentが開催したStranded Gasについての業界会議で、専門家グループは、現在のガス改質技術はスケール・メリットに依存しており、オフショアでこれを再現するのは困難だという結論を出した。さらに、専門家グループは、浮体式プラットフォーム上でのごく限られたニッチ利用以外には、これらの技術はまったく見込みがない、とさえ言っている。
2.6 ガス発電
現在、ガスを原料とする数多くの浮体式発電所が稼動しているが、今までこれらのプラントは浅水深の内水面における係留用に設計されたバージに搭載されてきた。しかし、高電圧交流直流転換技術の進歩、海底ケーブル敷設技術の向上、ガス・タービン発電の効率向上によりオフショア・ガス田の真上に発電所を設置して、海底ケーブルを通して陸上に送電することに対する関心が高まってきている。
オフショア・ガス田でガスを電力に変える技術は実現可能と思われるが、ガス発電プロジェクトの商業的可能性を実証することが今後の課題である。大きな問題は陸までの高圧送電線の敷設コストである。送電線敷設コストはパイプライン敷設コストに匹敵する可能性がある。Stranded gasの製品化活用の方法として遠隔地のオフショア・ガス田で送電用に発電をするというアイデアは実現するとしても遠い将来のことであろう。それよりも可能性があるのはこの逆のパターンである。つまり、陸上で発電された電力を海底ケーブルを通してオフショア生産施設に送電して使用する、というものである。ノルウェーではノルウェー沖で稼動しているオフショア・プラットフォームの動力源として水力発電による電力を陸側から送ることにより、プラットフォームの動力源として使用されていたガスを商業利用にまわすプロジェクトが進行中である。
2.7 オプションの概要の比較
次のページに随伴ガスの製品化に利用することができる8つのオプションの概略をまとめた。このうち5つのオプションは、パイプライン、液化、加圧により、またはハイドレートの形で、ガスを変質させることなく輸送するものである。どのオプションでも、最終的に消費者の元に届けられる時にはガスは元の形に復元される。残りの3つのオプションは、オフショアでガスを別の物質に変え、輸送を容易にするものである。これには液状物質、メタノール、クリーン燃料、または電力の形が含まれる。これらの輸送オプションのそれぞれの開発状況、推定コスト、長所、短所、最も適した利用方法をまとめる。
これらのオプションのうちの3つ−CNG輸送、LNGのフィールド生産、FPSO搭載のGTL生産−については、後の章でさらに詳しく取り上げる。
随伴ガス輸送オプションの比較 |
輸送 オプション |
技術開発 の現状 |
初期資本 投資 |
年間操業 コスト |
長所 |
短所 |
最も適した 利用法 |
市場へのガス輸送 |
パイプライン |
実用化 |
高額だが減少傾向にある |
低 |
技術的に成熟している |
一度建設すると、埋没費用が大きい |
大型ガス田からアクセスが容易な大型の市場へ |
LNG(陸上液化基地) |
実用化 |
高額だが減少傾向にある |
高 |
距離による制限がない |
液化基地/再ガス化基地が必要、ガス田からLNG基地までパイプラインが必要 |
大型ガス田から遠距離の大型の市場へ |
LNG(洋上液化基地) |
概念設計段階 |
高 |
高 |
距離による制限がなく、生産施設の移動が可能 |
液化基地/再ガス化基地が必要、規模を小さくした場合の経済性が証明されていない |
陸上施設から離れた中型または大型のオフショア・ガス田 |
CNG |
試験・実証段階 |
低 |
中 |
柔軟な輸送システム、比較的単純な技術 |
LNGに比べ輸送できるガスの量が相対的に少ない |
小型ガス田から近距離の市場へ |
NGH |
研究・プロトタイプ開発段階 |
中 |
中 |
柔軟な輸送システム、比較的単純な技術 |
最終目的地で再ガス化が必要 |
パイプラインヘのアクセスのない小型ガス田 |
オフショアでガスを下流商品に変え、市場に輸送 |
GTL/ メタノール |
最初のプロジェクト待ち |
高 |
高 |
現在技術が存在する |
メタノール市場が限られている、メタノール化の効率が悪い |
中型から大型のガス田 |
GTL/ クリーン 燃料 |
研究・プロトタイプ開発段階 |
高 |
高 |
製品について大型市場が存在する |
クリーン燃料化の効率が悪く、オフショア用としては技術が実証されていない |
中型から大型のガス田 |
ガスの 電力化 |
研究段階 |
高い |
中 |
販売が簡単 |
海底ケーブルのコスト |
小・中型のガス田で近隣に電力市場が存在するもの |
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6 NGH(Natural Gas Hydrates):本稿では天然ガスを人工的にハイドレート化したものを指す。自然界に存在する ハイドレートは一般に「メタン・ハイドレート」と呼ばれている。
7 MarAd(Maritime Administration):米国運輸省海事局
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