欧州造船産業の知的所有権の保護
欧州造船所と舶用メーカーは激しさをます国際競争に直面している。このような環境において欧州の競争力は、革新的船舶コンセプトや最適化されたサブシステムそして洗練された設計や製品及び計画手法を用いて行く以外維持できない。
知識駆動型技術は造船所と舶用メーカーの間で、ずいぶん早い段階から作られている。造船所は、技術的かつ商業的な制約の中で、ある建造プロジェクトのコストや納期を余裕を持って算定するために、舶用メーカーに詳細な技術要件と解決策を公開する必要がある。
さらに造船所と舶用メーカーは、全てのレベルで適正な連携管理体制を確保し、各デバイスやサブシステムの技術的詳細について、緊密に協力せねばならない。造船所はまた船級とも知識を共有せねばならない。
造船所と船主の間には、船舶の知識ベースの詳細な指示と膨大な情報交換が存在する。船主は、例えばヤードのスペックや一般配置図などの情報を集め、またそのような情報は世界的に彼らの商業的または技術的会議等で開示される。その他、造船所は、R&Dを進めるために、大学や他の専門家、特にCAD、CIMや他のITコンポーネントの分野と密接な協力を行っており、それは結果的に関連造船所のノウハウを公開することとなる。
結果として、造船所は彼らと第3者のからの知的所有権侵害の定常的リスクに曝されている。
今日、著作権、登録デザイン、商標、特許は知的所有権を保護する主要な手段である。追加的手段として、「情報の秘匿」と、「特定共同作業協定」があるが、造船プロジェクトは一回限りの契約というものが一般的で、そのような場合、これら追加的手段は費用が掛かり見返りも少ないと見られる。
全面的にこれら既存の手段を利用するために、造船所と舶用メーカーは彼らのノウハウが危険に曝されていることと、結果的に競争劣位を招くことを理解すべきである。知識データベースの創設はこの目標に到達するために、欧州造船所にとっては中心課題である。
これらデータベースは、特定の船舶やコンポーネントの特徴をカバーするだけでなく、開発者や重要な特定顧客と供給者の関係も示されなくてはならない。知識データベースは知的財産権管理組織体(Intellectual Property Rights Entity、権利の集中管理組織)の構築の助けとなる。これによって、欧州造船業の知識を保護することができる。それは、造船所と舶用メーカーに対し、特定船舶の入手可能な(文書もしくは非文書)知識や、特定技術の知的財産や国際的知的所有権保護の要件や、関係技術分野の既存特許や、競合者の技術的位置付け、そして著作権侵害とその他の脅威に曝される潜在的状況を提示することとなる。そのような「知的財産権管理組織体」に向けられる全ての要求は、もちろん部外秘として扱われねばならない。そのような「知的財産権管理組織体」のコストは欧州造船関係者間で分担される。これによって、造船所と舶用メーカーは受け入れ可能なコストで知的所有権を行使するチャンスを改善出来ることになる。「知的財産権管理組織体」はまず、特許に適用される可能性がある。これは、費用面からより容易である。
比較的長期に渡る有効期間と国際的認知の上から、特許は本質的手段といえる。欧州造船所は、彼らの主要競争者の国を含めて、特許等権限維持範囲を最大限に広げていく必要がある。また、船主も、船上の船舶運用機器類の特許侵害から守られねばならない。しかし複雑で真にグローバル化した造船市場と比較すると、現行の特許保護の国際的枠組みは1925年に創設されて以来、本質的に変更されていない。多くのルールは今日では使い物にならず、時代錯誤を呈し、理に合わないとされている。特許を侵害している部品を運ぶ船舶が、その特許が登録され、保護されている国の港湾に寄港した際に、行政府が対抗措置を取ることを許さない現行の枠組みを再検討することは、造船所に改良と革新を守る正しいツールを与え、R&Dの投資を促進し、獲得した特許の造船所の利益を刺激することとなる。
欧州知的所有権の保護
問題点
・欧州造船所と舶用メーカーは極東の競争者より技術的指導力に依存している。
・造船プロジェクトにおける造船所、舶用メーカー、船主、船級、大学、他の業務提供者間の複雑で包括的なやり取りには、知識漏洩の多くの機会が存在している。
・産業界は知的所有権の保護に対し十分な確立された文化がない。
勧告
・IPR保護の既存の手段(著作権、登録デザイン、商標、特許、非公開、特定共同開発合意)は完全に活用される必要がある。
・最新技術、既存特許、ある製品やソフトの特定競合状況、鍵となる知識保持者といった情報を含んだ、造船の知識データベースが「知的所有権管理組織体」として開発・運用せねばならない。
・造船に適用できる国際特許規則を検討し可能な限り強化する必要がある。
熟練労働力へのアクセス確保
ノウハウの維持、移転、向上は造船産業の競争力のために極めて重要である。教育と訓練の分野の権能の分散はEUレベルのトップダウンイニシアティブの範囲を制限しており、ノウハウ促進上で、関連組織による共同実施活動を支援する余地がなくてはならない。
現行では、国家間移転イニシアティブヘの財政支援がレオナルドダビンチ計画によって提供されている。この計画では、すでに海上輸送と造船分野で訓練モヂュールが開発されている。パイロット計画とモビリティ奨学制度の共同支援を通じて、この計画は産業の老齢労働者の技量を向上し、知識の移転と海運の経験のある人間の再教育に貢献している。それはまた将来の技量要件の調査もと行われている。
EUは研究者間と研究分野と産業界の知識の交換と開発を促進している。目的のための基本的手段はマリーキュリー計画である。これは海外訓練とポスト学士、ポストドクターレベルの奨学制度を通じ知識の移転を支援している。海事産業は産業内の研究者を訓練するためこの支援から利益を得ている他、商業的研究知識の開発が可能となり、産業界へ研究知識が移転され、また産業と学会間で知識の交換が促進されることで利益をえている。
EUレベルで開発されるイニシアティブは、研究と教育活動によるポスト学士の創造センターや企業と教育機関が参加する地域の研究センターに関係する。この設置によって、学生の交換と、知識の移転、良い実務の拡散とEUを通した品質の認識を容易にできた。またそれは海事分野の技術スタッフ間の経験の交換を集めることに役立った。
少ない大会社と多くの下請けという構造に対して産業の発展は徐々に柔軟性と革新を進める新たな経営姿勢を要求している。
静的に組織された機能よりむしろプロジェクト関連の役割をベースにした起業を走らせるための能力を強化する管理が必要となっている。このアプローチは、企業に、長期にわたり高品質な雇用を提供し続けるようなに企業となるために要求される社会的技術的駆動力となる。EU協定第138条にしたがって社会対話の意思疎通を通じて欧州委員会に認知された分野別社会対話のための委員会を造船分野は今正式に設置した。この歓迎すべき進展は、特に労働者と企業の変化への受容性と生涯教育戦略に関して、広範な考え方の中で、技量と社会的革新に関し合同実施と合意に繋がるものである。
それ故、選択されたアプローチの独立性として、4つの具体的問題が取り上げられる必要がある。それは、管理職の訓練、造船専門家の人事交代の促進、技量の開発の支援、そして熟練工と事務職を引き付ける適切ない意思疎通政策である。
管理職の訓練は地域的と国際的内容の両面で提示されるべきである。シニアと若手管理職の間の相互影響は組織化されるべきである。知識の交換は、それらのある範囲の標準化を含み、重要である。最後に管理訓練はEU政策と規則の知識を含むべきである。
造船産業の中の技術、管理、研究のスタッフは、舶用メーカーや業務提供者を含み、EU内のどこでも仕事をし学習できる機会を持たねばならない。同様のことが様々なレベルの学生と教師にも当てはまる。
雇用者と被雇用者が例えば分野別社会対話の中で話される特定のEU基盤は、技量の開発と地域ニーズに対応する社会変革を促進しうる。
EUレベルの公的キャンペーンは維持の重要性を強調する手助けとなりまたさらに造船と修繕産業の開発の手助けとなる。
地域の公的キャンペーンはEUワイドのキャンペーンの影響を強化するために付け加えられた。
熟練労働力へのアクセス確保
問題点
・産業の性質は変化し、新たな技量への挑戦を要求する。
・欧州を横断するスタッフとノウハウの交換がまだ制限されている。
・産業界は前向きにまた引き付けられるイメージで十分にコミュニケートされていない。
勧告
・造船特有の管理訓練のプログラムが開発され確立される必要がある。
・新技量要件が分析され提示される必要があり、理想的には分野内ソシアル会話を通じてなされるべき。
・スタッフとノウハウの交換は工場から大学まで全てのレベルで組織される必要がある。
・造船産業の活力と持続可能性を示す公共キャンペーンを実施するべき。
・地域のセンターオブエクセレンスを上記勧告の実現の重要拠点として活用する。
持続可能な産業構造の構築
EU造船産業の将来の構造の検討は、全ての船型の商船建造や艦船建造、修繕と改造プロジェクト、鍵となるコンポーネントとシステムの製造といった活動について、それらは全て緊密にリンクしているため、全ての分野をカバーする必要がある。海運と防衛関連タスクの両方に関し、セキュリティー上、一定の造船能力は明らかに必要である。保守と修繕能力は明らかに安全要件と欧州の地勢的性格上必須と考えられる。
今日世界市場における欧州造船所の運営は、明らかにサイズと適用技術レベルで異なっている。一般に、小型と大型の造船所は利益が出るように運営できる。しかしながら造船業には比較すると労働集約性が残っている。労働力は、ある程度技術によって置き換えることができる。高労働コスト環境でのハイテク企業と同様に低労働コスト環境で低い技術レベルのもの作りは経済的に可能である。修繕や改造では、作業が同じものの繰り返しではないためそういった置き換えは難しい。
世界的な産業の健全性と持続可能な開発の基本は、現実の市場需要に合致した合理的投資である。経済的に非効率な設備は、市場から退出せねばならず、投資は十分な配当が達成できる分野へ集中すべきである。そのような需給のバランスの基本的仕組みは、市場メカニズムが機能するのであれば、通常は普及するものである。しかし、国際協定の欠如と競合する国家間の止まらない国家介入の観点から、欧州では、特に必要性と問題点に対応するアプローチの策定が必要となっている。
造船業は、その製品と製造方法で特有の特徴を持っている。不安定な巨大市場と産業の周期的性質が複合し、相反する目標に合致せねばならない。即ち、生産性を最適化するために造船所は特定船種に専門特化すべきであり、また市場の不安定性と周期性を乗り越えられるように、造船所は多角化しなくてはならないということである。歴史的理由で欧州造船所は平均的に極東造船所よりかなり小さい。これはある製品に特化した時に競争優位である。同時に市場の不安定状況は、高度に専門化された造船所への大きな脅威となる。特定市場分野での需要減退は、専門化した造船所にうまく適合しない代替品性製造に従事しまたは他の造船所との連携を強制されることになる。
企業レベルでは、構造変化が進んでいる。それらは特に造船所と舶用メーカー間の連携に関連している。今日、舶用メーカーは造船所の製品の約70から80%を占めている。欧州造船所は活発にこの動きを取り込み、それによって活気のある欧州舶用産業へ基盤を提供している。将来、造船所と舶用メーカー間の関係は、従来の顧客と供給者という関係から、プロジェクトのパートナーに進化するであろう。
欧州における造船所とその製品の多様性は、特にEUの将来の加盟国を考慮するとなおさらである。追加国の商船建造部門の全雇用者はEU連合15カ国より約20%多く、製造量はEU15カ国の関連数値の1/4少し上といったところである。まだ大分低い労働コストで追加国の造船所は異なる製品の品揃えに焦点を当てている。それぞれ異なる競争優位な点は、現行EUと将来のEUの加盟国間で広範な協力が既に進められている。しかしながらEUの拡大プロセスが包括的な欧州の産業統合の必要性を増大させることは隠せない。過去の抜本的なリストラの経験は、東ドイツのように、この観点で政策が未だに最適化していないことを示している。産業のリストラには、追加的なノウハウともっと旨い市場への食い込み方を提供する投資家(非政府)を重要視する必要がある。
造船所閉鎖が不可避となったとき、新たな投資を創造する観点から、これらは実施され支持されねばならない。統合助成のアイデア、可能であれば複数国間のアプローチをベースとして、造船所の閉鎖(全部閉鎖、一部閉鎖を含む)助成の現行EU規則の改定は、積極的な方法に基づき、さらに過去の欠点を修正した最初の提案となっている。
この分野の未来政策は、偏見なしにはっきりした結果の分析により検討されなければならない。2つの極端な行き方があるが、両方とも好ましくなく、墓穴を掘ることとなる。造船業に向いた手段が無い場合、10年以内に欧州で商業船建造は喪失するであろう。一方、極度の保護は米国で実施された例のように、必然的に取り返せない競争力の喪失がもたらされるであろう。
持続可能な産業構造の構築
問題点
・造船と修繕が多くの理由で欧州で戦略的産業となっている。産業構造は望まれる結果を達成するために最適ではない。
・特にアジアにおける国際的貿易歪曲や問題のある投資決定、変化するビジネスパターンに包括的に欧州は対応すべき。
・EU拡大は産業統合の追加的ニーズを創出するであろう。それはまた機会でもある。
・過去のリストラ努力が常に持続可能な結果となるとは限らない。
勧告
・行動しないことは選択肢にない。保護貿易主義はありえない。25カ国のEUは、産業政策の原則に従って、各分野への政策アプローチをさらに開発しなければならない。
・欧州の手続きの中で統合過程を容易にすべき、非効率な生産能力を削除し、新たな投資への資源に使用するといったインセンティブを提供すること。
・EUの現行閉鎖助成はより積極的なアプローチを容易にする観点で、統合助成のアイデアをベースに慎重に吟味されねばならない。
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