1. 交通バリアフリー化に関する法制度
「高齢者・身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(以後「交通バリアフリー法」)は、高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の利便性・安全性の向上を促進することを目的として、2000年5月に成立した。ここでは、同法を中心に、対象となる交通機関や施設・車両等、交通事業者の講ずべき措置、国や地方公共団体の責務について整理する。
(1)交通バリアフリー法の概要
(1)法律の趣旨
交通バリアフリー法は、高齢者、身体障害者等の自立した日常生活および社会生活を確保することの重要性が増大していることにかんがみ、以下の措置等を講ずることにより、高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の利便性および安全性の向上の促進を図り、もって公共交通の福祉の増進に資することを目的としている。
・公共交通機関の旅客施設および車両等の構造および設備を改善するための措置
・旅客施設を中心とした一定の地区における道路、駅前広場、通路その他の施設の整備を推進するための措置 |
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(2)法律の対象
1)対象交通事業
鉄軌道事業、バス事業、海上旅客運送事業、航空運送事業等の公共交通事業。
2)対象となる旅客施設
鉄軌道駅、バスターミナル等の公共交通機関を利用した輸送に係わる旅客施設。海上旅客輸送に関しては、旅客船ターミナル等が該当する。
3)対象となる車両等
鉄軌道車両や自動車、船舶、航空機等の公共交通機関を利用した輸送に用いられる車両。
(3)法律の基本的枠組み
同法の基本的枠組みは、図2-1-1の通りである。
図2-1-1 交通バリアフリー法の基本的枠組み
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資料)国土交通省ホームページよりUFJ総合研究所作成
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■基本方針の策定
同法では、主務大臣(国土交通大臣、国家公安委員会及び総務大臣)は、移動円滑化を総合的かつ計画的に推進するため、移動円滑化の促進に関する基本方針を定めるものとされている。基本方針に定めるべき事項は以下のとおりである。
・移動円滑化の意義および目標
・移動円滑化のための公共交通事業者が講ずべき措置に関する基本的要項
・市町村が策定する基本構想の指針 等
■公共交通事業者が講ずべき措置
公共交通事業者に対し、旅客施設の新設、大改良、あるいは車両の新規導入の際には、同法に基づいて定められるバリアフリー化の基準(移動円滑化基準)への適合を義務づけている。また、既存の旅客施設・車両については努力義務としている。
表2-1-1 「交通バリアフリー法」における 移動円滑化基準への適合対象
対象 |
基準の適合 |
旅客施設の新設、大改良、あるいは車両の新規導入の場合 |
義務 |
既存の旅客施設・車両 |
努力義務 |
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■重点整備地区におけるバリアフリー化の重点的・一体的推進
市町村は、基本方針に基づき、一定規模の旅客施設(「特定旅客施設」*1)を中心とした地区(「重点整備地区」)*2において、旅客施設、周辺道路、駅前広場、信号機等のバリアフリー化を重点的かつ一体的に推進するため、当該重点整備地区におけるバリアフリー化のための方針、事業等を内容とする「基本構想」*3を作成することができるとされている。
また、公共交通事業者、道路管理者および都道府県公安委員会は、基本構想に従って、それぞれ具体的な事業計画を作成し、バリアフリー化のための事業を実施することとされている。
*)事業の例としては、次のものが挙げられる:エレベーター・エスカレーターの設置、使いやすい券売機の設置、低床バスの導入、歩道の段差解消、視覚障害者用信号機の設置等
なお、海上旅客輸送についてみると、旅客船ターミナル等が基本構想の対象となりうる。
■バリアフリー化に関する情報の提供
国、地方公共団体の支援措置や必要な情報の提供などについて定められている。
(4)基本方針
■バリアフリー化の目標
基本方針では旅客施設、車両等毎に移動円滑化の目標が設定されている。海上旅客輸送(旅客船ターミナル、船舶)に関する項目は以下の通りである。
1. 旅客船ターミナル
(1)1日当たりの乗降客数が5千人以上である旅客船ターミナル
・平成22年(2010年)までに、段差の解消、視覚障害者誘導用ブロックの整備、トイレがある場合には身体障害者用トイレの設置等を実施する。
(2)1日当たりの乗降客数が5千人未満の旅客船ターミナル
・地域の実情にかんがみ、利用者数のみならず、高齢者、身体障害者等の利用の実態等を踏まえて移動円滑化を可能な限り実施する。
2. 船舶
・平成22年(2010年)までに、総隻数約1,100隻のうち約50%にあたる約550隻を移動円滑化された旅客船とする。
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なお、2003年(平成15年)10月10日に閣議決定された「社会資本整備重点計画」では、平成19年度までの達成目標として、次のように定めている。
旅客施設の段差解消:39%(H14)→7割強(H19)
視覚障害者用誘導ブロックの整備:72%(H14)→8割強(H19)
■交通事業者等が講ずべき措置
基本方針の中では、移動円滑化に向けて、公共交通事業者等が講ずべき措置に関する基本的な事項を整理し、以下の観点が重要であるとしている。
1. 旅客施設及び車両等のバリアフリー化
・旅客施設におけるバリアフリー対応施設・設備を整備し、連続した移動経路の確保
・車両等における乗降や車内での移動のためのバリアフリー対応措置
・トイレ等附属設備のバリアフリー化
2. 案内情報などの適切な提供
3. 職員に対する適切な教育訓練 |
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(2)海上旅客輸送に関するバリアフリー化の基準・ガイドライン
(1)移動円滑化基準
交通バリアフリー法では、公共交通事業者等に対して、旅客施設の新設及び大改良並びに車両等の新規導入を実施する場合の移動円滑化基準(「移動円滑化のために必要な旅客施設および車両等の構造および設備に関する基準」)への適合を義務付けている。
ここでは、この移動円滑化基準のうち、「第2章 旅客施設 第4条」および「第3章車両等」に規定されている旅客施設と船舶に関する部分を整理する(表2-1-2~表2-1-6)。
(2)移動円滑化基準に関するガイドライン・マニュアル
移動円滑化基準を踏まえ、2000年12月には、運輸省により「旅客船バリアフリー ~設計マニュアル」が策定された。これは移動円滑化基準の考え方を解説するとともに、個別の基準については、実際に旅客船を建造・整備する際の手引きとなるように仕様や図・イラストを用いて解説しており、移動円滑化基準に適合させる際の構造・寸法等を「標準的仕様」として例示している。また、同書では、最低限の基準である移動円滑化基準のほかに、より進んだバリアフリーを目指した整備を行う際に期待される水準を「推奨」として示している。
旅客施設については、国土交通省により「公共交通機関旅客施設の移動円滑化整備ガイドライン」が2001年8月に策定されており、旅客船と同様に、標準的な内容と、なお一層望ましい内容に分けて、解説・例示を行っている。同ガイドラインは、2002年12月に、音による視覚障害者の移動支援方策ガイドラインや、鉄軌道駅のプラットホームに敷設される点状ブロックに関するガイドラインを改訂する形で、「追補版」が作成されている。
*1)特定旅客施設:市町村が基本構想を作成することができる「特定旅客施設」とは次のいずれかの条件を満たす旅客施設をいう。(1)1日の利用者数が5,000人以上の旅客施設/(2)当該市町村の高齢化率等の地域の状況から見て、高齢者・身体障害者の利用数が上記の旅客施設と同程度と認められる旅客施設/(3)そのほか徒歩圏内に当該旅客施設を利用する相当数の高齢者・身体障害者等が利用する施設が存在し、当該旅客施設の利用状況から、移動円滑化事業を優先的に実施する必要が特に高いと認められる施設。
*2)地区の範囲については、旅客施設から徒歩圏内を想定しており、概ね旅客施設から500m~1kmとされている。
*3)基本構想の内容としては、次のものが挙げられる:目標時期/重点的に整備すべき地区(鉄軌道駅および周辺の福祉施設/病院・官公庁等を含む地域)/整備を行う経路、整備の内容 等
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