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7・6 船速距離計
 船速距離計は、船の速度あるいは航程を測る機械で総称してログといわれ、その原理方式から、電磁式、音響式に分かれる。
 速度の表示としては「対地」計測表示と「対水」計測表示とがあり、音響式の場合は深度により「対水―対地」を切り替えて表示することができるが、その他の方式は「対水」表示のみである。
 規則的には、「対水」表示のみを備えておけばよい。
 
7・6・1 電磁式ログ
 電磁式ログは、ファラデーの電磁誘導の法則「導体と磁界が相対的に運動するとき、導体に起電力が誘起され、この時、磁界、運動及び起電力の方向はお互いに直角の関係にあり、磁界が一定であると起電力の大きさは運動の速度に比例する。」を応用したものである。
 すなわち、静止海水に対して、船体とともに磁界が運動して起電力が発生する。測定さおの先端のセンサは内部にコイルを有し、このコイルが励磁されて磁界ができる。船が航走することにより誘起される起電力は、センサの先端に取付けられた1対の電極により検出される。
 電磁ログの構成の一例を図7・9に示す。
 
図7・9 電磁ログの構成の一例
W1: 特殊ケーブル(メーカー支給)
W2: 特殊ケーブル(メーカー支給)
 W3: TTCYS-1(NMEA0183)
 W4: DPYC-2.5(AC220V/100V)
 
7・6・2 音響式ログ
 音響式ログは、ドップラー効果「ある物体から発射された音波が他の物体で反射されて戻ってくるとき、両物体間に相対速度がある場合には、発射周波数と反射周波数の間には周波数のズレが生じ、その周波数のズレは相対速度に比例する。」を利用したものである。
 船舶では、前後、左右方向の速度を得る必要があることから、超音波を鋭いビームで四方または三方に発射し、発射周波数と反射周波数との周波数ズレを演算処理して船体速力、船体方位、対地速力、対水速力、潮流のデータを得る。
 音響式ログの構成の一例を図7・10に示す。
 ログからの外部出力信号としては、接点信号(航程:200P/nm)、デジタル信号、アナログ信号(電圧、電流)(RS-422、カレントループ)などが準備されている。
 
図7・10 音響式ログの構成の一例
W1: DPYC-2.5(AC220V/100V)
W2: DPYC-2.5(AC220V/100V)
W3: 特殊ケーブル(メーカー支給)
 W4: TTYCS-1(NMEA0183)
 W5: 特殊ケーブル(メーカー支給)
 
7・7 船首方位伝達装置(THD)
7・7・1 概要
 船首方位伝達装置(THD: Transmitting Heading Device)は、300総トンから500総トンの船舶及び乗客100名未満の高速旅客船に搭載する真方位センサである。
 THDはAISの方位センサとして用いられることを目的として新たに導入される機器であり、方位検出原理は、(1)地磁気を利用したもの、(2)外部の影響を受けない独立したジャイロ等の方式のもの、(3)電波を利用したもの等が認められているが、出力信号はデジタル信号に統一されている。
 機器は原理別に、単独で機能するもの、あるいは複合で補正するものなどがあるが、規定された方位精度に変換し、出力信号を統一デジタル化【IEC61162-2】して伝達供給するものである。
 構成はジャイロコンパス方式のようにそれ自体が真方位を生み出すものと、磁気方位を真方位に変換する機能が付加されなければならないもの、あるいはGNSSの情報から方位情報に変換しかつ平滑化しなければならないもの等があり、大きく下記の2通りに分けられる。
 
図7・11 検知部と変換部が別のもの
 
図7・12 検知部と変換部が一体のもの
 
注意:検出原理によって、制御装置に不適なものもあるので注意を要する。
 
 性能基準はIMO MSC.116(73)に定められており、機器規格はISO 22090シリーズで作成中である。
 主な性能要件を下記に示す。
(1)伝送誤差は±0.2°
(2)静的誤差は±1.0°(緯度による誤差増が認められる。)
(3)動的誤差は±1.5°
(4)追従誤差は旋回速度に応じて下記の値以下であること。
・10°/s以下の旋回速度で±0.5°以下
・20°/s以下の旋回速度で±1.5°以下
(5)少なくとも1つのデジタルインターフェイス(国際標準IEC 61162)出力を備えること。
(6)IEC 60533に規定する電磁両立性及びIEC 60945に規定する環境試験条件を満足すること。
(7)THDの機能不良若しくは電源喪失の警報表示が可能なこと。
 
7・7・2 ジャイロ方式のTHD
 ジャイロ方式の場合は、それ自体が真方位を検出するものであり、500GT以上の船舶に適用されるジャイロコンパスと同類になるが、誤差精度が若干緩和された形となっている。
 高速船用には、別に高速船用のジャイロコンパスとしてIMO及びISOに基準があり、これを適用することになっている。
 他は7・9項のジャイロコンパスを参照
 
7・7・3 地磁気方式のTHD
 地磁気を利用する方式の場合は、SOLASで搭載要求される基準の磁気コンパスにピックアップセンサを取り付けて、THDの伝送部に信号を送るものと、フラックスゲート(フラックスバルブ)で、磁場でコイルが動くことによって電気的に信号を取り出すものがある。
 いずれも伝送部で補正し、磁気方位を真方位に変換しなければならない。
 フラックスゲートの場合は、さらに基準の指北データが必要となる。
 
7・7・4 電波方式のTHD
 THDの方式の内、電波利用の方式で実用の可能性のあるGNSSを利用した方式がある。
 これは、衛星からの電波を同時受信する2つ以上の受信アンテナを備え、その情報から演算して方位情報を算出するもので、電波の欠損等の連続性を欠く衛星測位原理の特質を補うため、レートジャイロ等を用いて補正し、THDの性能基準を満たすもののみ真方位センサとして認められるものである。
 装備に際しては、衛星電波が船体構造物で遮蔽されるようなことがないよう、またマルチパスのような誤差要因となる影響を受けないような配慮をする必要がある。
 
7・8 磁気コンパス
 磁気コンパスは、磁石の性質を利用して地磁気から方位の基準を得て、船首の方向と物標の方位を測定するものである。ただし、地球の回転軸と磁極とが一致していないため常に偏差が存在する(東京付近では6度西に偏っている。)。
 磁気コンパスは、船体が持っている磁気や周囲の鉄製機器などによって地磁気の方向が曲げられ、自差を生じるので、自差修正装置により修正する必要がある。磁気コンパスの材質・構造・検査方法などは、JIS F 9101-98で規格化されている。
 なお、磁気コンパスの船首方位を方位信号として外部の機器へ出力するには、磁気コンパスの羅盆上にピックアップセンサを取付け、電気信号として出力する。また、その電気信号をVDR等へ出力するには船首方位伝達装置(THD)等で、規定された方位精度に変換し、出力信号を統一デジタル化【IEC61162-2】して、伝達することになる。
 磁気コンパスの構成を図7・13に示す。
 
図7・13 磁気コンパスの構成の一例
 
7・9 ジャイロコンパス
 ジャイロコンパスは、高速回転するジャイロスコープに指北装置と制振装置を付加し、常に北を示すようにした装置である。
 磁気コンパスが偏差や外部磁界の影響を受けるのに対し、ジャイロコンパスは、それらに影響されず、常に真北を示す点で有利である。ただし、緯度や船速・加速度・動揺によって若干の誤差を生じるので、船速距離計から船速及びGPSから船位の情報等を得て、これらの補正処置を講じている。
 ジャイロコンパス本体はマスター・ジャイロコンパスと呼ばれ、真方位を本体指示部で読み取ることができるほか、マスター・ジャイロコンパスから離れた場所で、針路の測定や物標の方位測定に利用できるように、必要な場所にジャイロ・レピータを設置し方位情報を指示して利用するほか、外部機器への真方位信号を伝達するため、ステップ信号、シンクロ信号、デジタル信号等を出力できるようになっている。
 
 ジャイロコンパスの構成の一例を図7・14に示す。
 
図7・14 ジャイロコンパスの構成の一例







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