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6・4 システムの基本概念
 図6・9にレーダーをセンサーとして衝突を回避するプロセスを図示したが、このプロセスを実際に機能させるARPAの動作の概念を機能別に大別すると、以下の四段階に分けることができる。
 
 これは、レーダーのプロッターに目標を人手でプロットすることに相当するものである。いま自船の周囲に船舶が一隻あったとすると、これはレーダーで検知することができる。すると、この目標の信号はデータ処理器で処理をされて、自船に対する方位と距離の信号として電算機に転送される。すなわち、この第一段階は必要とする相手船の位置のデータを電算機へ転送する機能であって、レーダーの情報を量子化する機能のほかに、雑音や船以外の情報を除去する機能等が含まれている。
 
図6・9 レーダーにおける衝突回避のフローチャート
 
 レーダーのプロッターに人手によってプロットする場合には3分から6分の間隔で行うのが普通であるが、ARPAでいう追尾とは、自動的に一定の時間間隔でプロットしていくことである。これは、言い換えれば時々刻々変化する目標の位置のデータを、先に検出した目標位置のデータと比較しながら、これが同一の目標であることを判定し、同時に、同一目標の位置のデータの変化を計算するために、同一の目標ごとにデータをファイルすることである。
 
 これは、前段階の時々刻々変化する同一目標の位置のデータから、目標の速力と針路を算出して衝突の危険性の有無を判定するものである。
 いま、目標の速力と針路が判明すれば、これによって自船に最も近づく点CPA(Closest Point of Approach)と、そこに到達するまでの時間TCPA(Time to CPA)を計算することは容易である。
 このCPAとTCPAを、あらかじめ自船の状況に応じて設定してある目標の最小最接近点距離(Min. CPA)及びそこに到達するまでの最小最接近点時間(Min. TCPA)と比較して、衝突する危険があるかどうかを判定するわけである。
 
 以上の事柄は、すべて最終的には表示をして操船者に知らせなければならない。この表示には、ブラウン管を用いる方法や数字表示管による方法等多種多様な方法があり、また、その表示の内容にもいろいろなものがある。主表示であるレーダー画面での表示では、物標の速度をベクトルで表すのが最も一般的である。また、図形によって他船の動向を表示するシステムもある。そのほかには、サブCRTやLEDを用いて数値のデーターで表示するものがあり、いずれにも各種の警報機能が付属している。
 
 ARPAをシステム構成の面からみると、レーダー表示器とARPAの表示器とを兼用した一体形(Integrated Type)と、レーダーシステムとは独立した別体形(Separated Type)とした二つのシステムに分類できる。
 
 前述のように、一体形とは、図6・10のようにレーダー表示器とARPA表示器とを兼用したものである。つまり、完全な航海用レーダーとしての機能の上にARPAの機能が付加されたもので、一つのシステムで両方の機能を持つものである。ARPAが出初めた初期のころは、一体形は一部のメーカーしか生産していなかったが、最近では国の内外を問わず一体形の機種の方が増加している。
 この一体形の特長は、第一に設備コストが安く、またスペースも小さくて済むということである。また、取扱いも別体形に比べると、レーダーの操作がそのままARPAの操作につながって、操作法でも優れているといえる。このようなことから、新造船には一体形の装備が増加してきている。また、商船では一体形システムと、二台目のレーダーとをインタースイッチングするシステムが主流となってきている。
 
図6・10 一体形の基本構成
 
 別体形とは、図6・11のようにレーダーから信号をもらい、専用の表示器にARPA情報を表示するものである。
 別体形の特長は、在来船ですでにレーダーが装備されている場合でも、スペースさえあれば比較的容易に取付けが可能なことである。
 別体形では、通常二台のレーダーからの信号を切り替えて入力する方式を採っている。
 ARPAだけの専用機の中には、いわゆるレーダーの副表示器としての機能を十分に持っていないものもある。
 また、別体形の場合は、接続するレーダーの機種によっては簡単にインターフェイスできないものもある。
 
図6・11 別体形の基本構成







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