4・5・3 フロントエンド
物標からの弱い反射波を受信して、これを信号として検出する場合、もし雑音がなければ、どのように小さな受信信号であっても増幅して検出することができる。しかし、雑音には、空中線から信号と一緒に入ってくる外部雑音と、受信機そのもので発生する内部雑音とがあり、雑音の存在は避けられない。したがって、受信機の性能は大略その内部雑音の大きさで決まり、一般的には、入力端と出力端のそれぞれの信号対雑音比(S/N比)を比べ、その比率〔ノイズ・フィギュア(NF)〕の大きさで表している。レーダーの場合も、その最小受信信号(Smin)は雑音の大きさに比例しているので、最大探知距離を大きくするためには受信機の信号対雑音比(S/N比)を大きくすればよいことになる。
レーダーで使われているマイクロ波の領域では外部雑音は非常に小さくて、雑音のほとんどが周波数変換器(混合器)に使用されているミキサーダイオードの熱じょう乱による内部雑音である。そこで、S/N比を改善するために周波数変換器の前に雑音の小さい高周波増幅器をもう一段付け加え、総合的にNFを上げるためにモジュールとしてまとめられたフロントエンドが使用されている。マイクロ波集積回路(MIC)とも呼ばれている。最近のフロントエンドの内部構成を図4・24に示す。
レーダー方程式で示されるように、送信出力を大きくすることと、最小探知信号を小さくすることは同じことである。このことは、マイクロ波集積回路を用いて受信機のNFを改善すれば、マグネトロンの出力を低くしても同じ効果が得られるということになる。マグネトロンの出力を低く押えられれば、この部分の発熱も小さくて済み、温度に関係する熱じょう乱雑音も抑えられ、全体として小型で信頼性の高いレーダーが構成できる。
現在のところ、このマイクロ波集積回路のNFは従来のミキサーダイオードに比べて約3dB低いものが得られているので、例えば5kWの出力のレーダーで10kWの出力に相当する探知能力が得られるということなり、ほとんどの最近の船舶用レーダーに使用されている。
図4・24 フロントエンドの内部ブロック
ミキサで作られた中間周波を十分に増幅し、第二検波器でビデオ信号に変換するまでの増幅器で、高周波増幅段を持たない受信機では、この部分が受信機の特性を大きく左右する。中間周波数増幅器としては多段の増幅器を接続して所要の利得と帯域幅を得るものもあるが、方法としては複同調増幅器、製作や調整の容易な単一同調増幅器及びスタガ増幅器等が用いられる。
複同調増幅器は、一般には、中間周波に同調する回路が一次、二次とあって、その同調用のコイルで結合したものであるが、結合度その他設計や調整が困難なため、余り用いられていない。これに対しスタガ増幅器は、各段は単一同調回路であるが、その同調する周波数と帯域幅を少しずつずらし、総合して所要の特性を得る方法である。この方法は広帯域増幅を行うのに有用な回路であり、また、同調周波数が一段ごとに幾らかずつ異なるので、帰還発振を少なくする配置ができるという特長もある。通常スタガ接続は三段一組で構成され、図4・25に示すように、中間周波数F2に同調する段とF2より低いF1及び高いF3に同調する三つの段から成っているこの両面のF1とF3は同調するQを等しく取り、F2増幅段はその半分になるようにして、三つの同調回路の総合で広帯域の増幅が行えるようになっている。
図4・25 スタガ接続の周波数
代表的な中間周波数増幅器の例を図4・26に示す。
この例の中間周波増幅器は五段の増幅回路から成っていて、初段から二、三段までは、STC/GAINで利得の制御を行い、二段目と四段目にはIAGC(瞬間自動利得制御:Instantaneous Automatic Gain Control)がある。IAGCは、ある程度以上の強い信号波が入ってくると、ダイオードで整流して前段に負のバイアスをかけて増幅度を落とし、利得を下げるようになっている。これは、強過ぎる反射信号や、他船のレーダーによる妨害波によって中間周波数増幅段で受信機が飽和すると、中間周波増幅器やFTC回路が有効に働かないので、一時的に利得を下げる必要があるためである。
図4・26 中間周波増幅器
送信時には、送受切替え回路において、マグネトロンからの送信電波が、わずかではあるが受信部側に漏れ込む。この漏れ込んだ送信パルスを図4・27に示すように周波数変換し、IF増幅し、検波した後更に増幅して同調メータを振らせる。このため、物標の反射エコーに関係なく、容易に同調をとることができる。
図4・27 同調メータ回路
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