日本財団 図書館


2・2・3 海上の遠距離におけるレーダー電波伝搬方程式
 前述のように、海面が地球表面に沿って湾曲していることを考慮しなければならないような遠距離の伝搬の場合は、図2・3のように、海面上の反射点における水平線を引いて考え、レーダー・アンテナ及び物標の高さのうち、その水平線より上の部分をそれぞれAs及びAeとする。そして、(2・4)式のHs、Heの代りにAs、Aeを入れれば、(2・5)式が成り立つ。
 
図2・3 海上遠距離伝搬図
 
 
 但し、As=Hs-(R2×Hs2)/{2×Re×(Hs+He)2
Ae=He-(R2×He2)/{2×Re×(Hs+He)2
である。このAs、Aeは、付録2に示すような略算によっている。
 以上のレーダー電波伝搬方程式は、物標がレーダーリフレクタのような点物標で、海面上のある高さに掲げられている場合は実測値と計算値が非常によく合致することが確かめられた。
 物標が船のような場合、種々の値のレーダー反射断面積を持った点物標が海面上にそれぞれの高さに分布している複合体として計算すれば、わりあいに実測値と合うことも分かっている。この計算は複雑であるので、船の総トン数に応じた等価的なレーダー反射断面積σと、有効高Heを与えて点物標とみなして計算することが考えられる。
 
図2・4 船の総トン数対σ(m2
 
図2・5 船の総トン数対He(m)
 
 図2・4は船の総トン数対レーダー反射断面積σ(m2)のグラフであり、図2・5は船の総トン数対有効高He(m)のグラフである。
 これらの推定曲線は、トン数の分かった船の反射強度を追跡測定して、R4に反比例する曲線部のレベルからσを計算し、反射強度が急激に下がる曲線部分との変曲点の距離からHeを計算して、その船のσとHeとして両対数グラフ上にプロットすることによっている。そしてこのグラフ上にトン数の異なる多くの船について測定した値をプロットして、最小自乗法によって得られた曲線に最も近くて判りやすい曲線から得られたものである。
 
 レーダーの最小探知距離とは、PPI画面の上で自船からの距離を測定し得る最小の距離のことで、(1)自船レーダーのパルス幅(パルスの長さ)、(2)PPI用ブラウン管の最小輝点、(3)アンテナの垂直方向指向性(特にアンテナが高い位置に取り付けられた場合)等で決まることになる。また、海が荒れているときは海面反射が強くなり、その雑音のために小物標からの反射が隠されて最小探知距離が遠くなることに注意しなければならない。
(1)自船レーダーのパルス幅(パルスの長さ)
 パルス幅とは、発信パルスが続く時間のことであるが、アンテナからパルス状の電波が発信されると、発信が続いている時間すなわちパルス幅に相当する長さの電波が空中を伝搬して行くことになる。例えばパルス幅が0.25(=1/4)μsであれば、3×108(m/s)×0.25(μs)=75(m)の長さの電波が飛んで行くことになる。そのレーダーの波長が3cmであれば、この電波が空中を飛んでいくようすは、一両の長さが3cmの車両を連結して、先頭から後尾までの長さが75mあるという列車が空中を飛んで行くようであるのでパルストレーン(pulsetrain)といっている。アンテナの下には自船の船体があり、その船体から75mの半分すなわち37.5mの距離以内にある物標からの反射波は、自船の船体からの反射波とつながってしまうから識別できないことになる。このように最小探知距離の大部分は、パルス幅の時間に電波が空中で占める長さの半分の距離で決まる。
(2)PPI用ブラウン管の最小輝点
 PPI用ブラウン管の最小輝点は無限に小さくすることは不可能で、一定の大きさを持っているから、画面半径を何海里の表示範囲(レンジという。)とするかによって、その輝点が占める距離が決まる。表2・2は、ブラウン管の直径が7吋及び12吋についての輝点の大きさと種々のレンジに対する輝点が占める距離を示す表である。
 
表2・2 ブラウン管の直径による種々のレンジに対する輝点が占める距離の表
ブラウン管
直径吋 
有効半径(mm)
1スイープの長さ 
輝点
(mm) 
各レンジに対する輝点が占める距離(m)    
1海里 2海里 4海里 8海里 20海里
7吋 76.2 0.5 12 24 48 96 240
12吋 127 0.5 13 26 52 104 260
 
 表2・2で分かるように、パルス幅0.25μsのレーダーでは、レンジが4海里以上になると、最小探知距離は輝点によって決まるようになる。
(3)アンテナの垂直方向指向性(特にアンテナが高い位置に取り付けられた場合)
 図2・6にアンテナの垂直方向指向性によって最小探知距離が決まるようすを示す。
 
図2・6 垂直方向指向性による最小探知距離







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION