6・5 レーダー操作スイッチとその機能
次に通常表示器の近くに配置されているスイッチと, その機能について説明する。
(1)電源スイッチ
オフ(Off), スタンバイ(Stand by), オン(On)の位置がある。
スタンバイの位置では, 電動発電機や真空管のヒーターなどに電流が供給される。
オンの位置では, 陽極電圧をはじめ, スキャナモータなど全装置の電源が与えられて作動を開始する。
オフから急にオンにされても, 機器の保安上約3分間の遅動リレーが入っていて, 急に電圧が各部にかかって破損させることのないようになっている。
(2)インテンシティ Intensity
ブラウン管の陽極電圧(又は陰極負電圧)を調整して, 電子流の速度を変え輝点の明るさを調節するもので, PPI画面の明るさを調節する。これは, 必要最小限の明るさであるようにするとよい。
(3)フォーカス Focus
フォーカスコイルの電流を調節するもので, 輝点が最小になるように調節すべきである。
(4)ビデオ Video
映像増幅回路の増幅度を調節するもので, 信号の増幅比率を変えるものである。
(5)ゲイン Gain
中間周波増幅器のグリッドバイアスを変えて, 微小な反射信号を見つけるようにするものであるが, 上げ過ぎると飽和を起こし雑音が一面に出て, 見えにくくなるし, 下げ過ぎると小物標が見つけられなくなるので, 適正にすることを心掛けなければならない。
(6)レンジ Range 測定範囲
スイープの速さを切り替えて, PPI画面の測定範囲を選定するものである。
適正に選んで必要な物標を見逃すことのないように注意しなければならない。特に捜索救助目的でレーダー・トランスポンダーの映像を探すときは, 10海里以上としてSART信号を発見しやすくしなければならない。
(7)STC 海面反射抑制
6・4の(6) 項で述べたように, PPI画面の自船近くの感度を落として, 海面反射雑音をなくするものである。しかし, 海面反射を消すとともに, 小物標からの反射も消すことになるので下げ過ぎないように注意しなければならない。
(8)FTC 雨雪反射抑制
雨や雪の反射を小さくする調節のことで, 反射信号増幅回路の接続時定数を小さくして信号の変化分だけを増幅するものである。微分回路ともいわれ時定数を小さくする, すなわち早くすることから, FTC(Fast Time Constant)といわれている。
(9)距離測定
6・4の(7) 項及び(8) 項で述べたように, 固定距離目盛又は可変距離目盛によって, 物標までの距離を測定する。固定距離目盛による場合は, スイープの直線性がよくないと比例部分が等しくないことがあるから注意が必要である。可変距離目盛は, 時々固定距離目盛と合わせて調整しておくことが大切である。
(10)方位測定
物標からの反射映像に方位カーソルまたは電子的カーソル線を合わせて測定する。点物標にあっては, 映像の中央にカーソルを合わせ, 陸岸のような場合は, 映像がビーム幅の半分づつ左右に拡大されていることに注意すべきである。
(11)同調
受信する電波の周波数帯をそのレーダーが送信している周波数帯に合わせて, 自分のレーダーが送信したパルスの反射波だけを探知するためのものである。通常は自動周波数調節(AFC)によって, 自動的に合せるようになっているが, このAFCがないレーダーでは, これによって同調をよくとって(海面反射が最も遠くまで観測される)受信状態を最良にする。特別な周波数のレーダー・ビーコンを受信したいとき, 又は特にSART信号を探したいときなどは, この同調つまみを回して調整し,陸地や海面反射の映像を消してSART信号だけ表れるようにすることもできる。このようなときは, 海岸線や他船の映像が消えるので, そのままにしておかないように注意する必要がある。
SARTは, GMDSSの機能の中で生存艇(救命艇及び救命いかだ)の発見と位置特定のための主要な手段であり, 救助船が遭難者に近づく(ホーミング)ための重要な手段を提供する。
SARTは9GHzの周波数帯の船舶用又は航空機用のレーダー電波を受信すると, 応答信号を打ち返して, 捜索船のレーダーPPI画面に一連の信号映像を表す。この場合船用レーダーは, 全く改造を必要としないという利点がある。
図6・14 SART信号が表われる原理解説図
SARTは生存艇に恒久的に搭載しておくこともできるし, 膨脹型救命いかだに持込んで, その上に取り付けることもできる。
SARTは, 手動でもあるいは水上に浮いたときに自動的にでも, 待受状態にすることができる。待受状態になっていれば, その後救助船のレーダーのパルス電波を受信したときに応答して, 周波数が鋸歯状に変化する形のマイクロ波電波を発生し, この電波は呼び掛けたレーダーに帰って, 救助船のレーダーの映像面上に約12個の一列に並んだ輝点となって信号映像を表す。この輝点はSARTの位置を始点として, レーダー映像面の外周方向に, 約8海里の長さの点列となって表示される。
この独特の信号は, 容易に見分けることができ, 救助船は生存者に近づいて救助することができる。
図6・14は, レーダー映像面にSART信号を発生するメカニズムを解説した図であり, 写真6・2は, 映像面に表示されたSART信号の一例を示している。
(1)SART信号の受信強度
図6・15はSART信号の受信強度の測定の一例であり, レーダー視認距離は船が遠ざかるときは8.0海里, 近づくときは9海里であった。この図の中に描かれた実線の曲線は理論的計算値であり, 近距離のSART信号強度は計算値より低いが, 遠距離ではよく合致しており, 計算によって種々の条件に対する予測が可能であることも実証されている。
図6・15 SART信号の受信強度測定の一例
(2)航空機レーダーによる視認距離
海上保安庁の救難用航空機レーダーを捜索モードにした場合,そのレーダー視認距離は高度500ftでは20.2海里で, 高度3000ftでは, 27.3海里であった。またレーダーを気象モードとした場合は, SART信号は視認できなかったので, 民間航空機の通常航空時の気象モード・レーダーには妨害を与えないことが実証されている。
写真6・2 レーダー映像面上のSART信号
昭和61年11月14日相模湾SART探知実験時の写真
海上保安庁巡視船「のじま」にて撮影
(3)捜索船がレーダーでSARTにホーミングするには, まずレーダーのレンジを12海里以上にして捜索するのがよい。これは前述のようにSART信号は約8海里の点列として表れ, そのレーダー視認距離も約10海里であることから理解される。
写真6・3 SARTに近づいた時の映像
昭和61年11月14日相模湾SART探知実験時の写真
海上保安庁巡視船「のじま」にて撮影
そしてSART信号を発見したならば, その点列の自船に近い方の端点に向かって行き, 点列が正横方向に向いたならば, SARTの横に来たことを知り, 点列が後ろの方向になったならば, SARTを行き過ぎたことが分かる。このようにして徐々に近づくべきである。
SARTに近づくと, SART信号が強くなり, 自船のレーダーのサイドロープで点列は多重の弧状となり, 更に近づくと写真6・3のような多重の同心円となる。しかし, このような場合はゲインを適当に調節すれば, 写真6・4のように再び点列となり, SART信号をはっきり識別することができる。
写真6・4 SARTに近づきゲイン調節した映像
昭和61年11月14日相模湾SART探知実験時の写真
海上保安庁巡視船「のじま」にて撮影
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