8・3 半導体材料
8・3・1 半導体の性質
半導体の抵抗率〔Ωm〕及び導電性については, 1・5・4項において既に述べた。これを要するに抵抗率は導体より大きくかつ絶縁体よりかなり小さい。電気伝導は, 電子あるいは正孔によって行われるのである。この特色は次のようである。
(1)低温で電気抵抗は高いが, 温度上昇とともに減少する。
(2)きわめて微量の不純物によって抵抗が著しく変わる。
(3)電圧電流特性が直接関係を示さない。
(4)光電効果, 熱電効果, 整流効果などを示す。
(1)半導体整流体の種類 これは多結晶整流体と単結晶整流体とに区別されている。
(a)多結晶整流体 亜酸化銅整流体, セレン整流体, 酸化チタン整流体等がある。亜酸化銅整流体は黒色の酸化銅からできており, 小容量のものに使用され, 70〔℃〕以下で使用する必要がある。セレン整流体は金属セレンが主体でP形半導体である。この特性は亜酸化銅整流体に比べ正方向電流も大きく, 逆耐電圧も2〜4倍高いので, 大電流容量のものに使用される。酸化チタン整流体は純粋な酸化チタン(TiO2)でなく不純物を添加して半導体的性質を帯びた青緑色のTiO2を使用したものである。百数十〔℃〕の高温にまで使用される特長がある。
(b)単結晶整流体 ゲルマニウム(Ge)の単結晶及びシリコン(Si)の単結晶であって, その一部をP形, 他をn形半導体としたP-n接合で著しい整流特性をもたしたものである。
多結晶整流体に比べ, 同一面積に対し100倍以上, 電流容量と逆耐電圧は数十倍に及ぶといわれる。また, 使用温度の最高はGeは70〔℃〕Siは200〔℃〕といわれている。
(2)光電材料 光の照射によって電気抵抗が減少することを利用して光を検出したりリレーを動作させたりするものである。この目的の材料にセレン, 硫化カドミウム(CdS), セル等がある。
(3)障壁光電池 セレン光電池は波長感度曲線が視感度曲線とよく一致しているので照度測定に適している。太陽電池は, 光エネルギーを電気エネルギーに変換する目的に使用するもので, セレン(Se)はその変換率は1〔%〕以下であるのに, シリコン(Si)のP-n接合では10〔%〕内外といわれているから無人極の通信機電源等に用いられる。
(4)電界発光材料 半導体を1枚の金属電極と透明電極ではさみ, これに交流又は直流の電圧を加えたとき, その半導体が透明電極を通して発光する現象で, 一名エレクトロルミネセンス(elecrtro-luminescence)といい照明方式として使用されている。この材料には硫化亜鉛(ZnS), 硫化カドミウム(CdS), セレン化亜鉛(ZnSe)が用いられ, これに適当な活性剤, たとえば銅, 鉛, アルミニウムなどを混入して発光能率を増大している。
(5)熱電効果材料 ゼーベック効果については5・7・1項に述べたが, これは要するに上図のように半導体をはさんで両端を金属導体で閉回路をつくる。そして, 例えばA点を冷接点, B点を熱接点とすれば, この回路に起電力が発生するということでこれを利用して温度測定に用いられる。次に, ペルチエ効果については5・7・2に述べたが, これは要するに金属と半導体の二つの接続部を同温にし, 外部電圧を加えて電流を流したとき, その接続部に起る熱の発生, 吸収現象をいうのである。この場合電流の向きを変えると, 熱の発生, 吸収の部が逆になる。そこで, ペルチエ効果の大きい材料が所望される。現在ではビスマステルル(Bi2Te3)が最も良好とされている。電子冷凍はこの原理を応用したものである。
(6)蛍光材料 蛍光材料は, 電子の運動エネルギーが熱・光エネルギーを受けて発光する材料であって, 現在蛍光灯に塗付されている蛍光物質の例をあげれば, タングステン酸カルシウム(CaWO4)青色, 珪酸亜鉛(ZnSiO3)緑色, 珪酸カドミウム(CdSiO3)燈色, 硼酸カドミウム(Cd2B2O5)ピンク色等がある。
(7)その他 ダイオード, 点接触形トランジスタ, 接合形トランジスタ, サーミスタ, バリスタ等があるがここでは省略する。
絶縁材料は電気機器の構成上重大な死命を制するものであって, その良否は機器の寿命のみならず性能にも影響すること多大である。使用される物質は気体, 液体, 固体の3体があって, これにはさらに天然物, 合成物等に分類され今日ではその種類は多岐多様にわたっている。
以下, 絶縁材料の組成上の分類と, 絶縁材料として具備すべき性質などについて述べる。なお, 船舶電気機器においては気体, 液体の絶縁物は使用していないので本書では省略する。
(1)絶縁材料の組成上の分類
分類 |
原料素材の例 |
加工材料の例 |
天然物 |
無機物 |
気体 |
空気, 窒素 |
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鉱物質 |
雲母, 水晶, 硫黄 |
雲母製品, ガラス, 磁器 |
有機物 |
繊維質 |
木材, パルプ, 木綿, 生糸, 麻 |
絶縁紙, 板紙, 糸, 布類, 絶縁ワニス, コンパウンド, ワニスクロス,
絶縁処理材, 積層材, 型造品, ゴム加工品 |
動植物性油脂 |
あまに油, 支那きり油, みつろう |
石油系物質 |
鉱油, パラフィン, アスファルト |
天然樹脂 |
ロジン, コーバル, セラック, ゴム |
合成物 |
無機
または
有機 |
気体 |
フレオン, 六ふっ化硫黄 |
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合成油 |
塩化ジフェニール, 塩化ナフタレン, シリコーンオイル |
合成樹脂 |
フェノール樹脂, ビニール系樹脂, 合成繊維, 合成ゴム |
絶縁ワニス, 積層材, 型造品, ゴム加工品 |
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(電気学会大学講座“電気材料”より。)
(2)電気絶縁の耐熱クラス
旧版「JIS C4003-1977」の基礎となったIEC 60085: 1957が, 1984年に大幅改正されたのに伴い, IEC規格と整合させた新版「JISC4003-1998」が発行された。
この新版は旧版に, 相当大幅の改正が加えられており, 定義などを正しく理解する必要があるので, その概要を次に示す。
(a)定義
イ. 電気絶縁:電気製品に使用されている絶縁材料及び絶縁システム。
ロ. 耐熱クラス:電気製品を定格負荷で運転したときに許容できる最高温度を基にして決めた電気絶縁の耐熱クラス。
ハ. 温度:絶縁の実際の温度。
ニ. 絶縁システム:電気製品において, 導体と組み合わせている単一の絶縁材料の組合せ。
ホ. 電気製品:耐熱クラスの指定が必要な絶縁を用いたすべての電気製品。
(b)改正された主な項目
イ. 旧版では, 機器絶縁では, Y種, A種, E種, B種, F種, H種及びC種絶縁に区分され, 各種絶縁に使用し得る「絶縁材料表」が参考として例示されていた。
ロ.新版では, 電気絶縁の耐熱クラスは, それぞれ耐熱クラスY, A, E, B, F, H, 200, 220, 250, また250℃を超える温度は, 25℃間隔で増し, それに対応する温度の数値で呼称する。
なお, 「絶縁材料表」が削除され, 適切な使用経験(電気絶縁システムの破壊がある場合又はない場合の使用に関する定量的又は定性的な記録のこと。)又は適切な試験によって絶縁の耐熱性を評価し, 耐熱クラスを指定することが決められている。また, 適切な絶縁材料及び絶縁システムを選択し, 耐熱クラスを指定するのは電気製品の製造業者の責任となった。
(c)新版(1998年版)と旧版(1977年版)との相違点を次表に示す。
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旧JISC4003 |
新JISC4003 |
表題 |
電気機器絶縁の種類 |
電気絶縁の耐熱クラス及び耐熱性評価 |
適用範囲 |
電気機器絶縁の種類について規定している。 |
電気製品の絶縁の耐熱クラス及び耐熱性評価について規定している。 |
耐熱クラス |
機器絶縁は, その耐熱特性によって, Y種, A種, E種, B種, F種, H種及びC種に区別する。
絶縁の種類 許容最高温度 (℃)
Y 90
A 105
E 120
B 130
F 155
H 180
C 180を超えるもの |
電気絶縁の耐熱クラスは, その電気製品を定格負荷で運転したときに許容できる最高温度を基に決める。
耐熱クラス 温度(℃)
Y 90
A 105
E 120
B 130
F 155
H 180
200 200
220 220
250 250
250℃を超える温度は25℃間隔で増し, それに対応する温度の数値で呼称する。 |
絶縁材料と絶縁システムの区別 |
絶縁システムを機器絶縁と称しているが, 絶縁材料との区別は必ずしも明確ではない。 |
絶縁システムの定義が与えられており, 明確である。また絶縁材料の組合せによる耐熱性へ及ぼす影響についても考慮している。 |
電気絶縁の耐熱性に及ぼす使用条件の影響 |
触れていない。 |
雰囲気, 負荷などによる影響を考慮している。 |
絶縁材料及び絶縁システムの選択及び耐熱クラスの指定 |
各種絶縁に使用し得る絶縁材料表が参考として例示されている。ただし, 使用した材料が当該絶縁の種類に該当するか否かは機器製造業者自身の責任において確認すべきものである。 |
適切な絶縁材料及び絶縁システムを選択する責任は, その電気製品の製造業者にある。また適切な使用経験に基づき, 又は適切な試験を実施することによって,
その絶縁の耐熱性を評価し耐熱クラスを指定する責任も, 電気製品の製造業者にある。 |
絶縁材料の耐熱性評価方法 |
触れていない。 |
絶縁材料の耐熱性評価方法としてIEC60216: 1990を参照すること, また, 耐熱グラフ, 温度指数, 相対温度指数及び半減温度幅の定義が役立つことが,
述べられている。 |
電気絶縁の耐熱クラスの指定 |
当該絶縁の種類相当するか否かを電気機器製造業者自身の責任において確認すべきものである。 |
電気製品における絶縁材料又は絶縁システムが, 適切な試験又は適切な使用経験によって, 特定の用途において特定の温度で使用できることが検証されたなら,
耐熱クラスの中から, 適切な耐熱クラスを指定できる。 |
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