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(2)電圧形VVVFインバータ
 任意低減速度運転又は省エネルギーの目的で一般的に採用される電圧形VVVFインバータの動作原理と制御法並びに主回路結線を以下に概説する。
(a)無効電力の処理
 インバータ部の電源側は直流電圧であるので,変換素子で処理された電圧は方形波に近いものとなる。この電圧を図2.113(ii)に示すような波形とみなし,これに交流電動機のような誘導性負荷を接続すると,その電流波形は
 
図2.113 方形波交流電圧に対する負荷電流形の差異
 
 図2.113(iv)に示すように矩形波ではなくて,電圧の変化に遅れた形の波形となり,電流曲線の0φ及びπ〜π+φの区間では,電圧と反対の向きの電流が流れる。この現象は誘導性負荷のインダクタンスに蓄えられエネルギーを電源側に戻すように作用し,負荷による無効電力の発生と見なされ何等かの処理手段が必要となる。下記に無効電力の処理法について説明する。
 
図2.114 電圧形インバータの基本回路
 
図2.115 (1)の期間
 
図2.116 電圧形インバータの力行時の動作波形図
 
 図2.114は,電圧形インバータの基本回路図で,説明の簡略のための単相交流出力とし,変換素子をS1・・・S4とし,点弧動作をスイッチ記号で示す。S1S4S3S2の順次点弧により図2.116のeeの実線で示すような方形波の交流出力電圧が現れる。その基本正弦波は波線の曲線で示すとおりである。
 電動機の負荷電流ieは方形波電圧の影響で基本波電流成分より幾分歪んだ形で,かつ,電圧の基本波成分より若干遅れた位相の電流で,誘導性負荷の力率関係に相当したものとなる。
 処で直流電源から流れる電流は図2.116のis曲線で示されるような形で正弦波曲線でなく一部に電流が遮断された形状をなしている。(1)の期間では電圧の位相に対し電流の位相が逆なので回生作用があることを意味し,(2)の期間では電圧,電流の位相が同方向のため力行状態にあることを意味している。(3)の期間では直流電源からの電流が疎止状態にあるので,明らかに力行状態ではないが,電動機電流は内部残留起電力により電流を持続しようとする働きがあり,ダイオードD3,D4を通じて電動機端子間を短絡した形で循環電流が流れる。
 (1)の期間では,直流電源側にダイオードD1,D4を通じて図2.115に示すように電流を帰還するように流れる。実際には平滑コンデンサに充電されることになる。
 (1),(3)の期間の電流は直流電源側から見ると電動機に仕事を与えていないので無効電流とみなされる。この無効電流の処理を行うのにダイオードD1〜D4が電動機から電源側に電流を帰還するように動作するので,これらのダイオードを帰還ダイオードと称している。
(b)インバータの電圧,周波数
 交流電動機の速度は周波数に比例するので,インバータは周波数を電動機の所要速度に応じて制御することが必要であるが,周波数だけを低く下げると電動機界磁の磁気飽和を起すので,これを抑制する目的で,出力電圧は周波数に比例するよう制御される。この比例制御により電動機界磁の磁束密度がほぼ一定に保たれるので,同一負荷電流に対し定トルク特性が得られる。
(c)出力電圧波形の制御
 電流波形の制御法にはいろいろな方法があるが,電源がほぼ一定電圧の直流から整流素子のON-OFF制御により交流に変換し,その電圧波形を正弦波に近づけると共に,電圧を任意に制御できる方法として正弦波パルス幅変調(PWM)法があり,広く採用されている。
 この正弦波PWM法では図2.117に示されるように不等間隔,不等パルス幅から成る多重パルス波形の制御信号を形成し,電圧及び周波数の所要値に応じてパルス幅とパルス間隔を変化させる。
 この不等パルス幅PWM制御法は応答性がよく,かつ,インバータ効率が高く,結線方式を適当に選べば変圧器の如き昇圧装置を用いないでも,一次交流電源電圧とほぼ等しい出力電圧が得られる。
 
図2.117 不等パルス幅PWM制御波形
 
(d)マイコンによる制御処理
 インバータの制御には多様の処理機能と迅速な処理能力が要求されるので,制御用マイコンが組込み使用される傾向にある。マイコンに通常要求される機能は,
(i)始動,停止シーケンス
(ii)インバータ保護及び電動機保護シーケンス
(iii)出力波形処理(例えば正弦波PWM)
(iv)制御用演算処理
(v)制御用定数設定
等で,これらの内(iii)は処理時間の関係上,専用のワンチップマイコンであるLSIで処理する場合が多い。
(e)トランジスタインバータの主回路
 3相交流電源に接続して使用される通常のインバータでは,コンバータ部にダイオードを使用し,インバータ部は整流素子にパワートランジスタを用い,正弦波PWMインバータを構成しているのが一般的である。その主回路は図2.118に示される。
 パワートランジスタはPWM制御されたベース信号により主電流をON-OFFして電圧と周波数が任意に制御される。トランジスタに並列に接続されたダイオードは無効電流を処理するための帰還ダイオードである。
 
図2.118 トランジスタインバータの主回路
 
(3)VVVFインバータの利点と要注意事項
(a)利点
(i)他の速度制御方式に比べ,効率が高く,低速においても損失は高速時とほとんど変らない。
(ii)広範囲に効率よく無段階の速度変化が得られる。
(iii)低周波数,低電圧において始動することにより,始動電流を低く抑えることができる。
(iv)電源力率は電動機負荷力率に関係なく,コンバータ部の整流器力率により決るので,通常の三相ブリッジ整流器結線の場合は約95%の高い入力力率が得られる。
(v)通常の運転速度が最高速度より隔りが大きい程,大きな省エネ効果が得られる。
(b)要注意事項
(i)インバータ運転専用として設計されていない通常の電動機の場合は,高調波の影響で電動機の熱損失が増加する傾向があるので,温度上昇限度に対する余裕,運転負荷の大きさ及び自己冷却効果の低速域における低減の程度等について考慮を要する。
(ii)PWMの制御の場合,電動機の低速域では高調波のために磁気音が若干発生する傾向がある。
(iii)インバータ部では非常に高速でスイッチング動作が行われるので,広い範囲の高調波成分を含有しており,大きな容量のインバータを使用する場合は,インバータが発生する高調波ノイズにより周辺にある計算機や計装機器などの電子装置へ障害を及ぼす恐れがあるので,適切な防止対策について考慮が必要である。
(iv)ダイオード,パワートランジスタ等の半導体は,回転機に比べて本質的に熱容量が小さく,過電流耐量が低いので,万一,短絡状態が生じた場合は半導体を保護するために,極く短時間に故障電流を遮断する能力のある速動特性のヒューズを設けることが望ましいが,適当なヒューズが得られないために通常の配線用遮断器を用いる場合には,その遮断特性と協調がとれるよう半導体の過電流耐久特性についても考慮する必要がある。







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