2・3・3 変流比
今二次側に負荷を接続しないで一次側に電圧V1を加えるとPコイルに電流Ioが流れる。これを変圧器の励磁電流又は無負荷電流という。このIoによって鉄心内に交番磁束φが生じ,このφがSコイルに交鎖してSコイルに起電力E2を誘導する。次に二次側に負荷Zを接続するとE2によって二次電流I2が流れ起磁力I2N2による磁束φが生じ励磁電流による磁束φを減らそうとする。しかし磁束φが減ると一次の誘導起電力E1が減少し供給電圧V1との平衡が破れるのでφは減少することができない。それでφφ2を打ち消すためにPコイルに一次負荷電流I’1が流れる。このI’1によってI’1N1の起磁力が生じ磁束φが生じる。
図2.29 負荷電流と磁束の関係を示す概念図
このφ1はφ2と反対方向で磁束φ2を打ち消すので磁束φのみが鉄心を通ることになる。故に一次と二次の起磁気力は等しく次の式が成り立つ。
一次側に流れる一次電流I1は一次負荷電流I’1と励磁電流I0とのベクトル和であるから
となる。ここで励磁電流I0は小さいので無視すると
となり
を交流比という。
変圧器の極性とは,その端子に現われる誘起電圧の相対的,時間的の方向を表す。変圧器の電圧は供給電圧の周波数に等しい変化をしているものであるが,ある瞬間を考えれば電圧の方向は一定であるから,ただ1個の巻線を考えると極性の必要はないが同時に2個以上を考える場合には極性は極めて重要である。一次側をU1V1,二次側をU2V2としたときU1V1間に適当な電圧を加えU1U2を接続してV1V2間の電圧が一次電圧と二次電圧の和が表れる場合を加極性,差が現われる場合を減極性という。船舶のみならず一般に減極性が用いられる。
V=E1-E2(減極性)
V=E1+E2(加極性)
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変圧器に定格電流を流すときの一次及び二次巻線中のインピーダンスによる電圧降下(変圧器内部の電圧降下)をインピーダンス電圧という。実際に測定するには変圧器の二次側を短絡して,一次側に定格電流を流したとき,一次端子間における電圧をインピーダンス電圧といい,定格一次電圧の百分率(%)で表わし百分率(%)インピーダンスと呼ばれる。
変圧器のインピーダンスの値は変圧器の経済的な設計,電圧変動率及び短絡電流を考慮して決められ百分率インピーダンスは変圧器の電圧変動や二次短絡電流を計算する場合に使用される。
変圧器の電圧変動や二次短絡電流を計算する場合,一般に次式で示される百分率インピーダンス又はパーセントインピーダンスと呼ばれる数値が使用される。
通常,百分率インピーダンス(Zp)は百分率抵抗値と百分率リアクタンス値とに分けて示されるが,これらをそれぞれrP%,xP%とすると,
の関係がある。
(1)定格出力
変圧器の最大出力は他の電気機器と同様に温度上昇により制限される。温度上昇の原因となる変圧器の損失は鉄損と銅損で鉄損は電圧により定まり銅損は電流によって定まる。したがって,温度上昇は電圧と電流の相乗積である皮相電力によって定まる。
定格出力は定格二次電圧,定格二次電流,定格周波数及び定格力率で二次端子間に得られる皮相電力をいい,これを普通kVAで表す。
(2)電圧変動率
無負荷と全負荷との二次端子電圧の変動をいい現わすもので,この値の大小は電球の寿命,電動機の最大出力等に影響を及ぼす。この定義は二次端子が定格周波数,定格電圧にて定格出力を出すよう一次端子電圧を決定し,これを不変に保ちつつ無負荷としたときの二次電圧の変動を定格電圧の百分率で表わしたもので,特に指定のない場合は負荷の力率は100%とする。
電圧変動率εは次式で表わされる。
VO2・・・無負荷における二次端子電圧
V2・・・ 全負荷における二次端子電圧
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この値は小さいほど良好で変動率を小さくするには両巻線の抵抗及びリアクタンスを小さくしなければならない。
(3)温度上昇
変圧器内の鉄損,銅損等の各種損失は全部熱となり各部の温度を上昇せしめることは他の電気機械と同様である。この温度上昇は各部の絶縁耐力を低下せしめるから温度上昇に一定の制限を設けてある。
なお,温度上昇は周囲温度との温度差で表し,NK規則(H編・表2.14)では次のように規定している。
変圧器の温度上昇限度
部分 |
温度上昇限度(℃) |
測定方法 |
A種絶縁 |
E種絶縁 |
B種絶縁 |
F種絶縁 |
H種絶縁 |
巻線 |
乾式変圧器 |
抵抗法 |
55 |
70 |
75 |
95 |
120 |
油入変圧器 |
抵抗法 |
60 |
- |
- |
- |
- |
油 |
温度計法 |
45 |
鉄心表面 |
温度計法 |
絶縁物を損傷しない温度 |
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(4)誘導試験
誘導試験は,変圧器の各巻線間,巻線層間,ターン間及び端子間の絶縁強度を検証するのを目的とする。100サイクル以上500サイクル以下の正弦波に近い交流電圧で,巻線に定格電圧の2倍の電圧を誘起させた場合に,次の算式により算定した時間(15秒未満の場合には15秒,60秒をこえる場合には60秒とする。)中これに耐えるものでなければならない。
(1)用途による分類
用途による分類を次に示す。
区分 |
用途 |
具体例 |
一般変圧器 |
配電用 |
照明用変圧器
通信用変圧器
電子機器用変圧器 |
特殊変圧器 |
器具用 |
表示灯用変圧器
計器用変圧器
計器用変流器
計測用変圧器 |
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注(1) |
電子機器用変圧器は一般変圧器となんら異なるところはない。ただし,雑音障害を防止する目的で一次巻線と二次巻線の間に銅板を入れこれを外箱に完全に接地することにより静電遮へいを行う。 |
注(2) |
計測用変圧器は単巻変圧器が主として用いられ俗称スライダックと称している。 |
(2)相数による分類
(a)単相変圧器
一台の変圧器で単相交流の変圧を行うものであるが,二台又は三台の組合せにより三相回路に用いられる。
(b)三相変圧器
一台の変圧器で三相交流の変圧を行う。
(3)鉄心構造による分類
鉄心に巻線を巻いた内鉄形(core type),巻線に鉄心を巻いた形の外鉄形(shell type),連続したけい素薄鋼板を巻いて外鉄形とした巻鉄心形(wound core type)がある。
内鉄形は鉄心の近くに低圧巻線を,その外側に高圧巻線を配置したものである。外鉄形は低圧巻線と高圧巻線を交互に重ねて,これを鉄心を巻くように配置したもので鉄心が巻線を機械的に保護する役目をする。
図2.30 単相変圧器の鉄心
内鉄形,外鉄形の鉄心は厚さ0.3〜0.5〔mm〕のけい素鋼板を短ざく形に切ったものを積み重ねて作る場合が多くこのような構造のものを積み鉄心文は成層鉄心といっている。成層にする理由は鉄心内に生じようとする,うず電流損を小さくするためである。
巻鉄心形は帯状のけい素鋼板を,ロール状に巻いたもので磁束の通る方向に対して積み鉄心のようにすき間ができないこと及び磁束が通りやすいように,内部の結晶を帯の長さの方向へ揃えてある方向性けい素鋼板と呼ばれているものが用いられているため小さな鉄心で多くの磁束を効率よく通すことができ,したがって,変圧器を小形,軽量化することができる特長がある。
(4)冷却方法による分類
変圧器は鉄損と銅損のため温度が上昇するが回転部分がないので熱が発散しにくい。陸上の大形変圧器には水冷のものがあるが船舶では次の冷却方式のものが用いられる。〔JG205条参照〕
乾式は(3)に示した鉄心と巻線部分(以下本体という。)を配電盤内に収めることもあるが一般には単独の箱に収めたものが用いられる。したがって,本体の冷却は箱内の空気により行われる。
油入は,油入の箱内に本体を収めたもので本体の冷却は油により行われる。
油は巻線の絶縁を保つと同時に冷却をよくする。したがって,変圧器油は絶縁耐力が大きな,しかも比熱が大きく冷却効果のよいもの(一般に鉱油)が用いられる。
以上のように油入変圧器は乾式よりも冷却効果がよいが,次のような欠点があるので船舶では主として乾式自冷式が用いられる。
(a)油に不純物,特に水分が混入すると絶縁耐力が極端に下がるので絶対に外気にさらしてはならないこと。
(b)船の動揺,傾斜で油の漏れるおそれがある。
(c)油の点検,補給,清掃が必要で保守の面で煩わしい。
(d)油気による汚損などで居室に装備するには不適当。
(e)火災の危険性がある。
(f)重量が重い。
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