(10)励磁方式による分類
交流発電機には界磁巻線に直流励磁電流を流すため,励磁機が必要である。船舶用交流発電機は,その殆んどが自励式又はブラシレス式で両方ともスペース節約の観点から励磁部品の大半を発電機本体上に搭載する励磁装置架乗形が多く用いられる。
(a)分類
|
名称 |
励磁電源 |
(i) |
自励式 |
静止励磁器〔三相リアクトル,可飽和変流器,整流器〕 |
(ii) |
ブラシレス式(ブラシなしともいう) |
交流励磁機〔回転整流器〕 |
|
図2.8 各種励磁方式の概略結線図
(a)-1 自励式
G: 交流発電機 CT: 可飽和変流器
RT: 三相リアクトル S1: 主界磁整流器
F: 主界磁巻線 SR: スリップリング
BR: ブラシ
|
Gの励磁はGが発電した交流電力の一部をRTとCTを通じて直流に変換し,スリップリングとブラシを介して界磁巻線Fに電力を供給することによって行われる。
(a)-2 ブラシレス式
G: 交流発電機
F: 主界磁巻線
S: 主界磁整流器
AVR: 自動電圧調整器
Ex: 交流励磁機(回転電機子形)
F1: 励磁機界磁巻線
S1: 励磁機界磁整流器(サイリスタ)
|
Gの励磁はGに直結したExが発電した交流電力を回転子上に取付けた整流器Sにより直流に変換して供給される。一方,Exの発生電力は励磁機界磁巻線F1への励磁入力をAVRにてサイリスタS1の出力を自動調整することにより制御される。
(b)各方式の比較
(i)寸法,重量
(イ)発電機本体の寸法(軸方向の長さ)はブラシレス式は軸方向に励磁機が付くため長くなり,したがって,自励式の方が船舶用としては有利である。
(ロ)励磁装置は自励式,ブラシレス式ともほぼ同一方式の静止形励磁装置が用いられるが励磁電流を供給する方式の相違から励磁装置の構成とその出力に相当の差があり,このため励磁装置の構成品の容積,寸法は自励式よりブラシレス式の方が小さくて有利である。
そして自励式の励磁装置は発電機容量に応じて大きくなるがブラシレス式の場合は発電機容量が大きくなっても励磁装置はあまり大きくならない。したがって,ブラシレス式は大容量機に有利である。
(ii)その他
|
瞬時電圧降下 |
保守の必要性 |
その他 |
備考 |
自励式 |
直流励磁機式,ブラシレス式より小 |
ブラシ,スリップリングの点検手入が必要 整流器の保守は容易 |
実績が永いのでその意味では信頼性がある。 |
|
ブラシレス式 |
自励式より一般に大 |
点検,手入箇所が少い。 |
発電機にしゆう動する電気的部分が全くないので無線障害がない。 |
|
|
(11)給電操作方法による分類
(a)単独運転用発電機
(b)並行運転用発電機
並行運転用発電機は単独運転に使用しても差支えない。
2台以上の発電機を安定に並行運転させるには次の条件を満足させることが必要である。
(i)発電機に必要な条件
(イ)電圧の大きさが等しいこと。
(ロ)電圧の周波数が等しいこと。
(ハ)電圧の位相が等しいこと。
(ii)原動機に必要な条件
両機の速度特性が垂下特性であること。
なお,並行運転用発電機には次の点に考慮がなされている。
(i)界磁に制動巻線が施されている。
並行運転中の発電機はエンジンによる脈動トルクや負荷の急変による電力の乱調が起り易いのでこれを防ぐため制動巻線を設けてある。
(ii)横流補償装置付である。
並行運転時に両発電機の内部に発生する電圧(起電力又は内部電圧ともいう。)に差があると,横流れと称する無効循環電流が流れる。この電流と電圧の関係を分り易いように図(ベクトル図という。)で示すと図2.9のようになる。即ちA機がEA,B機がEBの内部電圧を発生していて,EAの方が図のようにEBより大きいと,その差(EA−EB)によって図中のICで示すような無効電流が両発電機間に流れる。この電流は発電機が発生する交流電圧の時間的変化によって生じる山と谷の関係が図2.10のようにずれた位相(電圧EAが最大の時,電流ICは零)で,横流という電流が流れる。
図2.9 横流と電圧のベクトル図
図2.10 電圧に対する横流の波形位相
この電流を無効電流といい有効な負荷電流(発電機にブレーキをかけるように働く電流)とはならないが,放置すると電機子に過電流が流れ過熱の原因となり,気中遮断器(ACB)が遮断動作し並行運転が不能となる。これを防ぐには横流が流れた時,内部電圧の高い方を下げ,低い方を上げるように働く横流補償装置が必要である。横流補償装置には次のものがある。
(イ)均圧線横流補償式
両発電機の界磁巻線間を均圧線で結んだもの。
(ロ)変流器横流補償式
発電機の出力回路に横流補償用変流器を設け,その二次出力を自動電圧調整器(AVR)又は自励調整装置の電圧検出回路に挿入した横流補償抵抗器に加えるようにしたもので普通一般に用いられる。
(イ)は次のような性質がある。
(i)異容量機種の並行運転には適さない。
(ii)並列投入直後は並列開放直前のように一方が無負荷,他方が負荷状態のとき横流は流れるがACBを動作させるようなことはない。
(iii)AVRが無く電圧特性の悪い発電機でも採用可能であり,また,両機にかなり電圧差があっても並列投入は可能。
〔参考〕無効循環電流が及ぼす発電機の皮相電力の不平衡について,NK規則では次の通り規定している。
交流発電機を並行運転する場合,ほぼ定格力率において運転したとき,各機の皮相電力の不平衡は,有効電力を平衡させた状態において,各機の定格出力による比例配分の負荷と各機の出力の差がそれぞれ最大機の皮相電力の5%を超えることなく運転できなければならない。
(1)漸変電圧変動特性
発電機は負荷を徐々に変化させると電圧は変化する。
定格力率で無負荷と全負荷の間において負荷を変化させたとき整定電圧の許容変動幅は定格電圧に対し次の通り定められている。
船舶設備規程(第202条) |
4%以内 |
(電圧調整器を備えつけてないものはこのかぎりでない。) |
NK規則 |
±2.5%以内 |
(非常用発電機は±3.5%以内) |
JEM |
±2.5%以内 |
(非常用発電機は±3.5%以内) |
|
(2)瞬時電圧変動特性
発電機に誘導電動機を投入すると大きな突入電流が流れて発電機の電圧は瞬時降下する。JEM1274-97(船用交流発電機)では発電機瞬時電圧特性を次のように区分している。
|
瞬時電圧変動率 |
復帰時間 |
35%以下 |
15%以内 |
1.5秒以内 |
35%超過60%以下 |
〃 |
1.0秒以内 |
60%超過80%以下 |
〃 |
0.6秒以内 |
80%超過または0.6秒以下の復帰時間が要求される場合 |
打合せによる。 |
|
図2.11 誘導電動機始動負荷投入時の交流発電機電圧の時間的変化
|