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はしがき
 近年船舶の設備は益々近代化し, それにつれて複雑化しつつある。然るに船舶の設備の殆んど全部といってよいほど電気が関連し, 電気艤装工事を必要とするものである。この意味において, 本テキストは初めて船舶電装士を心掛けられる方々のための入門書として船とはどんなものかの概要を船体, 機関, 電気の3部門にわたって言及したので, これにより船舶の概念を修得されたい。
 更に詳しいことについては, 他の専門書によって学ばれたい。
 なお, 本書は競艇の交付金による日本財団の助成金を受けて作成したものである。
 
 船舶電装士が船内で電気装備を施工するに当たって, ぜひ常識として知っておかねばならないことは, 先ず船舶の建造に必要な法規, 規則, 規格とその内容である。なぜならば, 船舶は乗組員や旅客の尊い生命財産のみならず, 大切な貨物を預って海上輸送をする任務をもち, 出発港から目的港にいたるまで, 長い航海中安全にその目的を達成するための必要上, 船舶の建造者及び艤装者はいろいろと規制をうけ, 各種の法規, 規則, 規格を忠実に守って, 完全なる工事を施工することが肝要であるからである。
 もとより, 船舶の種類, 航行区域, トン数等によって, その船舶に適用される法規, 規則, 規格の内容はそれぞれ異なり, また, その船舶が船級協会の船級登録を必要とする場合には, 登録をうけようとする船級協会規則によることも必要である。
(1)船舶法
 (日本船舶の国籍, 総トン数, その他登録に関する事項及び船舶の航行に関する行政上の権利及び義務を定めた法律)
(2)船舶のトン数の測度に関する法律
 (船舶の安全, 運航等の海事関係法令の適用基準として, また, 課税の賦課基準等として採用されている国際総トン数, 総トン数, 純トン数, 載貨重量トン数の計測算定に関する法律)
(3)船舶安全法
 (海上における人命の安全を確保するための船舶の構造設備, 検査の執行及び危険物の運送等航行上の危険防止について規制した基本的な法律)
(4)船舶安全法施行規則
 (船舶安全法の一般的運用, 検査の手続き等に対する規則)
(5)船舶設備規程
 (船舶に施設する設備に対する規定, 小型船舶以外の船舶の電気関係に対する基準はこれに規定されている。)
(6)船舶消防設備規則
 (船舶に施設する消防設備に対する規則)
(7)船舶防火構造規則
 (船舶の防火に関する設備に対する規則)
(8)船舶救命設備規則
 (船舶の救命設備に対する規則)
(9)船舶機関規則
 (船舶の機関関係設備に対する規則)
(10)船舶区画規程 (国際航海に従事する旅客船の航行の安全のための水密区画及び設備に対する規則)
(11)漁船特殊規則
 (漁船についての主として従業制限に対する規則)
(12)漁船特殊規程
 (漁船についての施設すべき事項の特例規定)
(13)小型船舶安全規則
 (小型船舶に施設する設備に対する規則)
(14)小型漁船安全規則
 (小型漁船に施設する設備に対する規則)
(15)海上衝突予防法
 (海上に於ける船舶の衝突を予防し, 船舶交通の安全のための法律)
(16)海上衝突予防法施行規則
 (海上衝突予防法により施設する設備に対する規則)
(17)電波法
 (電波関係の規則)
(18)電波法施行規則
 (電波法による施行手続等の規則)
(19)無線設備規則
 (無線関係機器の設備の規則)
(20)海上交通安全法
 (船舶の交通安全のための航行に対する規則)
(1)海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS)
(2)日本−日本海事協会鋼船規則(NK規則)
(3)イギリス−Lloyd's Register of Shipping規則(LR規則)
(4)アメリカ−American Bureau of Shipping規則(ABS規則)
(5)フランス−Bureau Veritas(BV規則)
(6)イタリア−Registro Itariano Navale規則(RI規則)
(7)ドイツ−Germanischer Lloyd規則(GL規則)
(8)ノルウエ−Det Norske Veritas規則(DNV規則)
 我が国に国籍を有する船舶は船舶安全法に基づき国の検査を受けなければならないが, 船舶安全法第8条に基づき日本海事協会が旅客船を除く船舶の船体, 機関, 帆装, 排水設備, 操舵・繋船及び揚錨の設備, 救命及び消防の設備, 居住設備, 衛生設備, 航海用具, 危険物その他の特殊貨物の積附設備, 荷役その他の作業の設備, 電気設備, 満載吃水線の指定に関する事項について, 国に代行して船舶検査業務を実施してよいことになっている。
 また, 外国の船舶にも管海官庁の検査が行われる場合がある。
 小型船舶とは船舶安全法第6条の5により, 総トン数20トン未満の船舶をいい, 一部の船舶を除き小型船舶の検査や検定は, 第7条の2により日本小型船舶検査機構が管海官庁に代って実施するものである。
注:一部の船舶とは, 施行規則第14条で定める次の船舶をいう。
(1)国際航海に従事する旅客船
(2)法第3条の規定により満載喫水線の標示をすることを要する船舶
(3)危険物ばら積船
(4)特殊船
(5)推進機関を有する他の船舶に押されるものであって, 当該推進機関を有する船舶と堅固に結合して一体となる構造を有するバージ
(6)(5)のバージと堅固に結合して一体となる構造を有する推進機関を有する船舶
(7)係留船
(8)本邦外にある船舶
 なお, 上記(1)〜(8)に掲げる小型船舶に関する事務は管海官庁が行う。
 電気機器, 部品及び材料はできるだけ, 規格に適合したものを採用することが望ましい。次にその主なものを示す。
(1)日本工業規格(JIS規格)
注:JISの後につく分類記号(例えば, JISF: 日本工業規格船舶部門を示す。)
機械 B
電気 C
船舶 F
鉄鋼 G
非鉄金属 H
(2)電気学会電気規格調査会標準規格(JEC規格)
(3)日本電機工業会標準規格(JEM規格)
(4)日本船舶標準協会規格(JMS規格)
(5)日本電線工業会規格(JCS規格)
(6)国際電気標準会議(IEC規格)
(7)国際標準化機構(ISO規格)
 船舶を分類すれば, 次のように分けられる。
 鋼船, 木船, プラスチック船(FRP船), 軽合金船, コンクリート船
 
人力によるもの ろ, かい船
風力によるもの 帆船
機力によるもの 蒸気船
内燃機船
電力によるもの 電気推進船
原子力によるもの 原子力船
 
 主なものを次に示す。
 
旅客船   旅客船, 貨客船, 港内船, 内海巡航船, 連絡船, 離島航路船, フェリーボート等
貨物船   油槽船, 撤積貨物船, 石炭運搬船, 鉱石運搬船, 殻物運搬船, セメント運搬船, 木材運搬船, 自動車運搬船, 列車運搬船, コンテナ船, 貨物はしけ, LNG船(液化天然ガス), LPG船(液化石油ガス), ラッシュ船等
特殊船  特殊作業船等 砕氷船, 海底電線布設船, 測量船, 練習船, 観測船, 快走船(ヨット), 潜水船, 引き船, 押し船, しゅんせつ船等
漁船 捕鯨船, トロール漁船, 釣漁船, 延縄漁船, 鯨工船, 鮭鱒工船, かに工船, にしん工船, 冷蔵, 塩蔵, 活魚各運搬船, 業指導船, 漁業調査船, 漁業取締船, 漁業練習船等
海上自衛隊艦船 自衛艦, 支援船  
海上保安庁船艇 警備救難業務用 巡視船, 巡視艇
水路業務用 測量船(水路測量, 海象観測)
灯台業務用 灯台補給船, 設標船, 灯台見廻り船
その他 消防船, 潜水調査船
注:旅客船とは船舶安全法第8条第1項により12人を超える旅客定員を有する船舶をいう。
 
 船舶の航行の安全を確保するため, その大きさ, 構造, 用途等に応じて, 船舶が航行することのできる区域の限度を示したもので, 次の4種に区分されている。(船舶安全法施行規則第1章及び第2章)
(1)平水区域
 湖, 川及び港内並びに特定の水域
(2)沿海区域
 日本国を形成する北海道, 本州, 九州, 四国及びそれに属する特定の島, 朝鮮半島並びに樺太本島(北緯50度以北の区域を除く。)の海岸20海里以内の水域
(3)近海区域
 東は東経175度, 西は同94度, 南は南緯11度, 北は北緯63度の線に囲まれた水域
(4)遠洋区域
 すべての水域
 漁船は, その操業形態等により他の一般船舶と同様に律し得ない事情があるから, 一般船舶の航行区域に替え, 従業制限をもって律することになっている(漁船特殊規則第2条)。従業制限は総トン数20トン以上の漁船については, 第一種, 第二種及び第三種の3種に, 総トン数20トン未満の漁船については小型第一種及び小型第二種の2種に区別されているが, これは, 従業区域と漁業の種類とを併せ考慮したもので, 次のとおりである。
第一種
・・・流網漁業, 刺網漁業などの主として沿岸の漁業
第二種
・・・鰹竿釣漁業などの主として遠洋の漁業
第三種
・・・特殊の漁業(例えば, 母船式漁業, トロール漁業, 捕鯨業, 漁獲物の運搬業務, 漁業に関する試験・調査・指導・練習及び取締りの業務)
小型第一種
・・・定置漁業, まき網漁業, 曳網漁業等を主として本邦の海岸から100海里以内の海域において行う漁業
小型第二種
・・・さけ・ます流網漁業, まぐろ延縄漁業, かつお竿釣漁業等を主として本邦の海岸から100海里を超える海域において行う漁業
注:上記の詳細については, 漁船特殊規則「第3, 4, 5, 6及び7条」及び「漁船特殊規則第3条第11号及び第4条第9号に掲げる業務を定める件」を参照のこと。
 国際航海とは, 船舶安全法施行規則第1条により次のように定義されている。
 すなわち一国と他の国との間の航海をいい, この場合, 一国が国際関係について責任を有する地域又は国際連合が施政権者である地域は, 別個の国とみなされる。
 船の大きさを表す単位をトン(ton)といい, 大別して船の容積を表すトン数と船の重量を表すトン数の2種類に分けられる。これらトン数は種々の税金や手数料などを定める基準とされる。
 船の容積を示すトン数については, 船舶のトン数の測度に関する法律及び関係法令にその測り方, 計算法が詳細に定められている。
(1)国際総トン数(トン数法第4条)
 主として国際航海に従事する船舶についてその大きさを表す指標となるもので, 船舶の閉囲場所の合計容積を算定し, この容積に定められた係数を乗じて算出した数をいい, 国際航海に従事する長さ24m以上の船舶は国際トン数証書(トン数法第3, 5及び8条)をもたねばならない。
(2)総トン数(gross tonnage G.T.)(トン数法第5条)
 我が国における海事に関する制度において, 船舶の大きさを表すための主たる指標となるもので船舶の閉囲場所の合計容積を算定し, この容積に定められた係数を乗じて算出したトン数をいう。
(3)純トン数(net tonnage N.T.)(トン数法第6条)
 旅客又は貨物の運送の用に供する場所とされる船舶内の場所の大きさを表す指標となるもので貨物倉, 満載喫水, 旅客定員から算出する。
(1)排水トン数(displacement tonnage)又は排水量(displacement)(トン数法第50〜58条
 船舶の水面下の体積と同容量の排除した水の重量は, アルキメデスの原理により, 船の重量と等しいが, この重量をトン数で表したものを排水トン数又は単に排水量という。計算方法としては, 上記の体積をメートル単位で計算し, 淡水ならばその比重1, 海水ならばその比重1.025を乗ずれば排水トン数が求められる。なお, 船舶に貨物, 旅客, 燃料, 食料等を満載した場合のトン数を満載排水トン数又は満載排水量といい, これらを積まない場合のトン数を軽荷排水トン数又は軽荷重量という。自衛艦などの大きさを表すときに用いる。
(2)載貨重量トン数(deadweight tonnage)(トン数法第7条)
 船舶の航行の安全を確保することができる限度内における貨物等の最大積載量を表すための指標となるもので, 人又は貨物その他定められた物を積載しないものとした場合の排水量と基準喫水線に至るまで人又は物を積載するものとした場合の当該船舶の排水量との差をトンにより表したもので, 普通貨物船の大きさを表すのにこれを用いる。
 上記において述べたようにトン数には種々あるが, 船の種類により言い表し方が一応決っている。例えば, 自衛艦では排水トン数, 客船では総トン数, 貨物船では載貨重量トン数というようになっている。普通の貨物船における各種トン数のおおよその割合を参考のため次に示す。
 
トン数の種類
 各種トン数の割合
総トン数
100
純トン数
62(60〜63)
排水量
210(200〜230)
載貨重量
150(120〜200)
 
 イギリスで15世紀頃, 船が積みうる量を酒樽の数でもって表し, これによって税金を取ったことによる。
 この樽を叩くとタン(tun)という音がするので俗にタンと呼ばれ, 幾タン積みの船と言うようになったが, いつしか, トン(ton)ときまったそうである。
 樽に酒をつめた重量が2,240ポンド(1,016kg)すなわち1英トンに当たる。また樽は252ガロン(40.3立方フィート)の容積があるから1ガロンは0.160立方フィートの単位が今日でも使用されている。
(1)船舶建造者はなぜ船舶に関係ある法規, 規則等を守って建造しなければならないかを述べ, かつ, 電気に関係ある法規5つをあげよ。
(2)国の検査と日本海事協会検査との関係を述べよ。
(3)小型船舶とは如何なる船舶であって, かつ, これの検査はどこが行うか述べよ。
(4)船舶の種類は分類の仕方によって幾つに大別されるか。このうち, 推進動力による分類を細別せよ。
(5)旅客船の定義を述べよ。
(6)船舶の航行区域を定めた趣旨を述べ, かつ, 区域名を記せ。
(7)国際航海の定義を示せ。
(8)漁船の従業制限の趣旨を述べよ。
(9)船舶のトン数の種類をあげ, そのうち総トン数について説明せよ。
(10)載貨重量トン数について説明せよ。







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