はじめに
21世紀の高速海上輸送を担う新形式超高速船テクノスーパーライナー(TSL)は、高速で旅客・貨物を安定して輸送できる画期的な船舶であり、トラック輸送からのモーダルシフトの推進や新たな高速輸送ネットワークの構築により、我が国海上輸送の発展に大きな役割を果たすものと期待されている。
しかしながら、低コストで信頼性の高い保守管理システムが確立されていないこと等、新技術の使用環境が未成熟であることが事業リスクを高め、事業普及の障害のひとつとなっている。この障害を克服し、TSLを用いた新たな海上輸送事業がその高速性を活かしつつ、信頼性、経済性を兼ね備えた革新的な輸送サービスとして定着するために、最適な運航支援や保守管理を行う、TSLトータルサポートシステム(総合的な技術支援システム:TSS)を開発し、同システムに基づく保守・管理・運航支援サービスを広く提供する体制を整えることが不可欠となる。
TSSは以下のシステムより構成されている。
「高度モニタリングシステム」
運航中の船舶の船体構造応答、機関性能、気象・海象状態について各種センサによって自動計測するとともに、そのデータを解析処理し、陸上の支援施設とデータの送受信を行うシステム。
「運航支援システム」
当該データをもとに、荒天時にも安全な航行を確保するとともに、気象海象予測、潮流予測及び動揺予測/低減をおこなった上で、最も安全かつ経済的な航路を選定するシステム。
「保守管理システム」
同データ及び保守整備記録をもとに、機関、シール、船体の分析評価を行い、TSLの高い就航率を確保しつつ、最適な整備方式によって保守管理費用の低減を図るシステム。
本開発は、平成13年度から平成16年度までの4ヵ年度の計画であり、平成13年度は主に基礎技術の開発を実施した。その成果を踏まえて、平成14年度から平成16年度にかけて高度モニタリングシステム、運航支援システム及び各保守管理システムの構築並びに実船による総合試験とシステムの検証を行う計画であり、本年度はその第2年度目にあたる。
本報告書では本年度実施した開発内容を報告する。
1.トータルサポートシステム(TSS)の概要
TSSの構成システムである「高度モニタリングシステム」、「運航支援システム」及び「保守管理システム」の概要を以下に示す。
全体構成を図1-1に示す。
a)高度モニタリングシステム
船上で計測した保守管理システム、運航支援システム等のデータを船陸間において効率よく送受信可能とするためのデータ処理、データ圧縮、送受信手法等を開発するものであり、これにより、膨大な船上計測データの陸側への通信ができ、海陸一体となった航行支援、保守管理が可能となる。
b)運航支援システム
船上データと、一般的な気象、海象、潮流等のデータを組み合わせ、気象海象予測、潮流予測及び動揺予測/低減を行った上で、最も安全且つ経済的な航路を選定する手法を開発するものである。これらにより、高就航率の確保、運航スケジュールの保持、燃料の節減を可能とする。
c)保守管理システム
推進機関、浮上機関やシール等の性能及び劣化状況を把握し、故障早期検知及び性能診断により安全運航とオーバーメンテナンスの回避を可能とするシステムであり、以下の4つの要素システムから構成される。
1)推進機関保守管理システム
ガスタービンのデ一夕を蓄積、解析して、機械的な異常状況を検知するとともに、性能低下状況や劣化状況の把握、故障箇所の特定等を行うシステムであり、ガスタービンの正確な稼働状況把握により、適切な保守整備がなされると共に長間隔開放整備が可能となる。
2)浮上機関保守管理システム
浮上機関の正確な稼動状況把握により、適切な保守整備がなされると共に開放整備間隔の延長等が可能となる。これにより経済的な保守整備方式を確立することができる。また、分散配置される浮上機関のモニタリングを実施し常時監視することにより、軽量高出力浮上機関の長時間高負荷運転が可能となる。
3)シール保守管理システム
シールの最適利用を可能とするシール観測・保守管理システムであり、シール観測システム及び保守管理手法の確立により、シールの最適利用を図ることが可能となり、シールの使用期間を延長することが可能となる。
4)船体構造保守管理システム:
モニタリングデータによる船体各部の応力評価、蓄積されたデータの解析による疲労寿命評価を行うシステムであり、これにより構造安全性を保持しつつ最も経済的な航行を確保することが可能となる。また、長期的な応力応答の把握により、最適な保守整備が可能となる。
図1-1
|
|
TSLトータルサポートシステム
全体構成
|
(拡大画面:148KB)
|
 |
|