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ISO/TC8の戦略的対応に関する基礎調査
(その2-IMO資料一覧)
 
1. 目的
 IMO(International Maritime Organization: 国際海事機関)は、船舶の安全に関わる様々な分野において、条約、コード、決議等の形で船舶に関係する性能要件、試験方法等を規定している。それらが多岐にわたり、また、それらの新たな制定や見直し、廃止等が順次行われるため、現在の状況把握に多大な時間を要する状況である。
 IMO自身もこの問題を把握しており、その時点で有効である船舶安全関係資料の一覧をMSC/Circ.815として1998年11月に発行したが、その後、アップデートされていない。
 本調査は、これらの状況から、MSC/Circ.815をもとに2004年1月までにおけるIMO資料を調査し、一覧表を作成することを目的とする。
 
2. 調査の内容
 IMO関係資料の内、機器の性能要件又は試験方法関連の規定に最も関係が深く、また、文書量が多い総会決議(Assembly resolution)、MSC決議及びMSCサーキュラーについてのリストをEXCELで作成し、それらのタイトル和訳、対象物件及び種別を調査する。また、救命・防火関連の基本的なIMO資料に関する概要を作成する。
 
2.1 基本的なIMO資料の概要
 IMO資料の中から、主に救命・防火関係の基本的な資料について、規定された背景及びその概要をまとめたものを付属書1に示す。
 
2.2 IMO総会決議について
 原則として2年毎に開催されるIMO総会において採択された決議で、安全に関わる勧告、機器の性能基準等が規定されている。非技術的内容のものを除き現在有効とされるものについて、第23回総会(2003年12月)分までを収録した。付属書2に示す。
 
2.3 MSC決議について
 総会の開かれる年は春1回、それ以外の年は、春冬1回開催される海上安全委員会(Maritime Safety Committee)において採択された決議で、条約の改正、コードの採択や改正等の内容が規定されている。非技術的内容のものを除き現在有効なものをMSC77(2003年6月)分までを収録した。付属書3に示す。
 
2.4 MSCサーキュラーについて
 海上安全委員会(Maritime Safety Committee)において採択されたサーキュラーで条約、総会決議等の解釈、ガイドライン、また試験方法等が規定されている。非技術的内容のものを除き現在有効とされるものについて、MSC77(2003年6月)分までを収録した。付属書4に示す。
 
3. 主な参考文献
3.1 MSC/Circ.815: List of IMO safety-related requirements and recommendations applicable to all ships and certain types of ships.
3.2 IMO-Vega: Data base, Version 8.0 (2001)
3.3 IMO HomepageよりIMO Document
3.4 IMO総会決議集、IMO
3.5 Australian Maritime Safety Authority Homepage
 
付属書 1
 
IMO資料の概要
 
1. MSC.47(66): 96SOLASIII章改正
2. MSC.48(66): LSAコード
3. MSC.81(70): 救命設備試験勧告改正
4. A.520(13): 新型救命設備に関する評価、試験コード
5. MSC/Circ.980: 救命設備の標準試験報告書
6. MSC.99(73): 2000年SOLASII-2章改正
7. MSC.98(73): FSS Code
8. MSC.61(67): FTP Code
9. A.761(18): 膨脹式救命いかだ整備事業所の承認に関する勧告
 
1. Resolution MSC.47 (66) adopted on 4 June 1996
Adoption of amendments to the international convention for the safety of life at sea(SOLAS条約第III章96改正)
 これまでLSR及びDE小委員会で審議されてきたIII章改正内容を取り込んだSOLAS条約改正であり、エストニア号の事故対応としてエキスパートミーティングにより審議され、強化されたRORO旅客船の安全対策や、我が国が提案して、現在のダビット式救命いかだに変わるものとして新たに認められたMES(Marine Evacuation System)の導入等が含まれる。
 RORO旅客船の安全性向上の観点より新たに導入された救命設備は、両面型又は自己復原型の新型救命いかだ、高速救助艇、遭難者揚収装置(Means of rescue)等であり、それらの性能要件及び試験基準はそれぞれLSAコード及び試験勧告(後述)に規定されている。また、新たに導入された救命設備としてはMESの他に、それまでのイマーションスーツの作業性を向上させると共に、救助艇やMESのクルーを対象にした耐暴露服(Anti Exposure Suits)等、実際の使用上の有効性を考慮したものが含まれており、今までより実態に即したものとなっている。
 また、当時のSOLAS第III章の中から、救命設備の技術基準を規定したC部を新たなコードとして引き離すことにより、III章自体をよりコンパクトにするとの我が国提案を元にIII章の見直し作業が行われ、III章本体としては搭載要件等技術基準以外を規定することにし、救命設備の技術基準はLSAコードとして切り離して規定された。
 
2. Resolution MSC.48 (66) adopted in 4 June 1996
Adoption of the international Life-Saving Appliance (LSA) Code(LSAコード)
 前述のIII章96改正の結果、各救命設備の技術基準をコードとして切り離したもので、基本的には従来のSOLAS第III章のC部に規定されていた内容であるが、以下の幾つかの新しい設備の導入を含んでいる。
2.1 MES (Marine Evacuation System) 海上退船システム
 現在、内航旅客船等で広く利用されている降下式乗り込み装置(シューター)を元にしたもので、滑り台式と吊り下げ式が想定されている。MESの基本構造は現在のシューターと同様で、降下路とプラットフォームを持ち、システムに含まれる数台の膨脹式救命いかだをプラットフォームに順次係留することでいかだに乗艇し、退船するものである。また、新しい構造として、プラットフォームを持たずに降下路から直接救命いかだに乗り込む型式も含む。従来のダビット式救命いかだに代わり、国際航海の旅客船に搭載することができる。
 
2.2 AES (Anti Exposure Suits) 耐暴露服
 現在のイマーションスーツの作業性が悪いことに起因して、新たに導入されたもので、救助艇のクルーやMESのプラットフォーム要員の着用を前提にしたものである。作業性を確保するため、保温性能は現在の低保温型イマーションスーツ程度であるが、フード、手袋、場合によってはブーツの取り外しが可能となっている。また、救命胴衣をその上から着用する必要をなくすため、最小限の浮力(70N)を有する。
 
2.3 RORO旅客船の安全対策として新たに導入されたもの
(1)新型救命いかだ
 エストニア号の事故で、いかだが反転したままになっていた例が確認されたこと、また、実際に人力でいかだを復正させることが困難であるため、いかだそのものに復原性能をもたせるか、又は両面共にどちらが上でも使用できるタイプとして新たに導入された。我が国はこれに基づく自己復原型膨脹式救命いかだを開発した。外国には両面型の膨脹式救命いかだも存在する。
 
(2)高速救助艇
 荒天時の救助にはパワーの大きい救助艇でないと動きが取れないとの認識から導入された。高速救助艇は長さ6〜8.5mで少なくとも20ノットの速力を持つ。荒天時の安全な進水や回収を目指して、波による運動補正装置や、ワイヤーのたるみをふせぐ特殊なダビットが要求される。近年、訓練中の事故発生や、荒天時性能が不十分である等の状況から、性能要件等の見直しが予定されている。
 
(3)Means of Rescue (MOR) 遭難者揚収装置
 エストニア号の事故時に滑り台式シューターを用いて海上の遭難者を救出した例等から導入されたもので、シューターを改造したもの、ダビット式いかだを改造したもの又は新しい構造のものが想定され、海上に浮かぶ漂流者を救助船舶に揚収するものである。現在、国際航海のRORO旅客船に搭載されているが、導入時の性能要件の検討が不十分であったとの認識により、近年、性能要件の見直しが予定されている。
 
3. Resolution MSC.81 (70) Revised recommendation on testing of Life-Saving Appliances adopted on 11 December 1998(救命設備の試験に関する勧告の改正)
 従来から救命設備の試験方法(型式承認試験基準に対応するもの)を規定してきたA.689 (17) (救命設備の試験に関する勧告)を改正したもので、それまでIMO/LSR、DEで審議されたMSC/Circ.596、MSC/Circ.615、MSC/Circ.809及びMSC.54 (66) 等の改正内容を取り込んだものである。III章96改正で導入された新規設備に対応するとともに、膨脹式救命胴衣及び膨脹式救命いかだの材料試験等が新たに規定された。
 
4. Resolution A.520 (13) Code of practice for the evaluation, testing and acceptance of prototype novel life-saving appliances and arrangements adopted on 17 November 1983
(新型式救命設備の評価、試験及び承認に関するコード)
 1983年におけるSOLAS第III章の改正作業時、当時NASAの宇宙開発等から派生したシステム工学の概念が各方面で応用され始め、救命システムの概念導入が検討された。具体的には、救命設備の開発を促進し、新たな技術開発にも対応可能なものにすることを目的として、救命システムや各設備の要件を数値的に規定するのではなく、それらが満たすべき機能要件の形で記述した原案が作成された。
 結果として、当時の検査体制や意識等とのギャップが大きすぎたため本文への導入は見送られたが、そのかわり、それらの内容が本総会決議A.520 (13) として採択された。
 現在でも、新しい設備を承認する場合はこの決議に従うとされているが、ヒューマンファクター関連等の内容が不十分なため、今後、見直しが必要とされている。
 
5. MSC/Circ.980 issued on 13 February 2001
Standardized life-saving appliances evaluation and test report forms
(救命設備の標準試験報告書)
 SOLAS第III章の96改正審議の時期と並行して、救命設備の国際的相互承認を目指した体系構築の提案がLSR23(1992年)において米国からなされたが、その後の審議で合意に至らず、せめて試験報告書式だけでも統一すれば、各国が承認する過程での性能確認が容易になるとの認識から、標準試験報告書の作成作業がDE39(1996年)より開始された。
 LSAコードや救命設備試験勧告に規定されたすべての救命設備に対するすべての要件、試験内容を含むため、膨大な作業が予想され、各国が分担しての原案作成作業が行われた。基本的にIMOで既に規定された内容のみを取り込む方向でDE43(2000年4月)に一応の原案を完成させMSC/Circ.980として発行された。
 フォーマット様式自体は分かり易く、レポートし易い形のため適宜利用されているが、細かい編集ミスや、LSAコードや救命設備試験勧告とのずれが存在し、新たな問題を引き起こす結果となっている。さらに内容修正の作業が必要との状況に対して、見直し作業の膨大さからDE小委員会も二の足を踏んでいる状態であったが、次回のDE48(2005年)より審議が開始される予定である。
 
6. Resolution MSC.99 (73) adopted on 5 December 2000
Adoption of amendments to the international convention for the safety of life at sea, 1974(SOLASII-2章改正)
 74SOLASの改正後、タンカーや旅客船の火災事故発生の度に、防火規則の改正が行われ、その結果、規則が煩雑になってきた。FP38(1993年)より第II-2章の前面改正作業が開始された。当時のII-2章は船種ごとにパートに分かれて規定されていたが、火災安全の基本要件が見えにくいとされ、新たなパート分けが検討された。また、その規定方法が仕様的であり新しい防火技術の導入が難しいため、各要件の骨子を規則毎に掲げると共に、防火機能の同等性評価方法を導入することとした。また、審議の過程で当時のII-2章に規定された防火装置・設備の技術基準に係わる要件は、FSS (Fire Safety System) コードとして分離した。
 新II-2章は、パートA(一般)、パートB(火災の発生防止と拡大防止)、パートC(区画内への封じ込め)、パートD(避難経路)、パートE(保守管理や訓練等の人的要因)、パートF(同等性の評価)等に分かれている。2000年12月に採択され、2002年より適用されている。
 
7. Resolution MSC.98 (73) International Code for Fire Safety Systems
(火災安全設備のための国際コード(FSSコード))
 SOLAS第II-2章改正作業に伴い、従来のII-2章に規定されていた防火装置・設備の技術基準に係わる要件を新たなコードとして分離したもので、EEBD(非常脱出用呼吸具)等の新たな導入を含んだ以下の内容となっている。II-2章改正に合わせ2000年12月に採択され、2002年より適用されている。
第1章 総則
第2章 国際陸上施設連結金具
第3章 人員の保護
第4章 消火器
第5章 固定式ガス消火装置
第6章 固定式泡消火装置
第7章 固定式加圧水噴霧及び水煙消火装置
第8章 自動スプリンクラー装置
第9章 固定式火災探知警報装置
第10章 資料抽出式煙探知装置
第11章 低位置照明装置
第12章 固定式非常消火ポンプ
第13章 脱出設備の配置
第14章 固定式甲板泡装置
第15章 イナートガス装置
 
8. Resolution MSC.61 (67) International Code for Application of Fire Test Procedures(火災試験方法の適用に関する国際コード(FTPコード))
 SOLAS第II-2章に規定される防火設備に対する試験方法及び承認方法について強制要件として規定することを目的に作成されたコードで、従来試験方法として規定されていた総会決議、MSC決議やISO規格等の内容を付属書として備える。
 試験を行う試験機関は主管庁が認定したものであること、また、型式承認の有効期限が5年間である等の規定がなされている。1996年12月にMSC67で採択され、1998年7月より発効している。付属書1(火災試験方法)にパート1〜パート9が規定された。
 その後、2000年12月に採択されたMSC.101 (73)により、高速船関係のパート10及びパート11が追加されている。各パートを以下に示す。
パート1: 不燃性試験(材料試験)
パート2: 煙と毒性試験(材料試験)
パート3: A、B及びF級仕切りの試験(標準火災試験)
パート4: 防火扉制御機構のための試験
パート5: 表面火炎伝搬試験
パート6: 一次甲板床張り材試験
パート7: 鉛直に支持される織物及びフィルムの試験
パート8: 布張り家具の試験方法
パート9: 寝具類のための試験
パート10: 高速船の火災制限材料の試験
パート11: 高速船の耐火仕切りの試験
 
9. Resolution A.761 (18) adopted on 4 November 1993
Recommendation on condition for the approval of servicing stations for inflatable liferafts(膨脹式救命いかだ整備事業所の承認に関する勧告)
 LSR22(1991年)にそれまで救命いかだの整備方法及び整備場の承認方法として各々規定されていたA.273 (VIII) 及びA.333 (IX) を合体して一つの総会決議にする審議が行われた。我が国は、当時発生した膨脹式救命いかだの事故(床面や気室間の剥がれ)例をもとに、どのような検査をどのような間隔で行うべきか、また、救命いかだの耐用年数を決めるべきである等、新たな総会決議A.693 (17) 作成時に積極的に審議に参加した。総会決議A.693 (17) はLSA24における改正審議の結果A.761( 18) となり、その後LSR26における審議で床面強度の模式図追加等の小改正(MSC.55 (66) )を受けて現在に至っている。A.693 (17) やA.761 (18) の原案作成時に、整備事業所の承認時における旗国及び製造者の責任分担等の問題が活発に審議されている。また、本総会決議に関連し、整備技術者の訓練、資格等についてのISO15735が作成されている。
 近年、救命艇や消火設備等の定期整備体制の構築が要請されているが、それらの一つの例として膨脹式救命いかだの整備体制が参考になると考える。







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