3.2.4 AP227 2nd Edition: Plant Spatial Configuration
*平成13年度に開催されたサンフランシスコ会議で、AP217: Ship Pipingが正式にcancelされ、AP227 2nd EditionにてShip Pipingの開発が行われることになった。
プロセスプラント、プラントシステム、シップ(船)システムの空間構成情報を交換するためのアプリケーションプロトコルを規定する。この情報には配管、HVAC(熱、換気、空調)、電装システム構成部品とともに、他の関連するプラントシステム(機器、制御装置、構造等)の形状や空間配置特性が含まれる。なお、このAPの概要を図3.2.4に示す。
3.2.4.1 適用範囲(Scope)
「プラントおよび船の配管を設計するときに適用される規格でその範囲」(適用範囲)は次のようになる。
−プラントおよび船がもつシステム」(系)の形状と「その3次元空間中の配置」(空間配置)
−系を構成する配管、機器、あるいは装置などの部品」(構成部品)の形状1と空間配置「Heating、Ventilation、およびAir-Conditioning」(HVAC)および系がもつ機能的なあるいは物理的な構成と関係
−系がもつ設計、解析、製作と検査、および据付の情報
−製作した配管を検査するための情報
−空間配置や構成の管理に必要な基礎技術の情報
−系がもつ流体の情報や運用の特性への参照
−系を設計するために必要となる構成部品の機能的な特徴や規格2
−構成部品を識別する情報、構成部品がもつ機能や性能の特性、構成部品の形状がもつ体積、空間配置がもつ位置、方向、および体積、および構成部品間の接続がもつ仕様および規格
−構成部品に関するカタログがもつ情報の識別
−構成部品を定義するカタログの識別
−構成部品および接続する構成部品の状態および空間配置
−電線、HVAC、および構成部品を接続するときの仕様
−構成部品の調達に十分な構成部品の定義
−損傷したときの解析に必要な情報
−「系を変更する要求」(変更要求)の承認、通知、および検証、バージョンの追跡、系がもつ構成部品の変更および属性の追跡
−系がもつ配管あるいはHVAC中の流体がもつ化学組成の仕様が目的とするプロセスに対して十分か判断できる仕様
−データ交換
−規格に対する「外部の参照」(外部参照)
−「標準がもつ部品」(標準部品)への外部参照
−標準部品の表現への外部参照
適用範囲の対象から外れるものを以下に示す。
−系統図3
−仕様書、標準書、ガイドライン、あるいは規格書
−配管がもつ仕様の表現
−調達の管理および材料の管理
−配管を流れる流体の化学組成の仕様
−プロセス設計および概念検討
−プラントの試験、注文、引渡し、保守および廃却
−プラントの運転
−購買あるいは契約などの商取引に関する事項
−変更あるいは承認以外の製品のライフサイクルあるいはプロジェクトを通して蓄積する情報を管理するために必要な情報
−履歴の情報
−装置の内部設計および保守
3.2.4.2 機能単位(Unit of Functionality)
「系がもつ空間配置の情報を交換するための要件」(情報要件)が定義されている。
アプリケーションオブジェクトと呼ばれる機能の最小単位およびアプリケーションオブジェクト間の関係をアプリケーションアサーションとして定義していて次のものがある。
−cableway_component_characterization ケーブルの構成部品がもつ特性
−change_information 変更要求の情報
−connection 接続
−connector 接続子
−hvac_component_characterization HVACの構成部品がもつ特性
−hvac_system_functional_characterization HVACの系がもつ機能的な特性
−hybrid_shape_representation 境界表現モデルとCSG表現モデルによる形状表現
−piping_component_characterization 配管の構成部品がもつ特性
−piping_inspection 配管の検査
−piping_system_functional_characterization 配管の系がもつ機能的な特性
−plant_characterization 系のもつ特性
−plant_csg_shape_representation 系のもつCSG表現モデルによる形状表現
−plant_item_characterization 系がもつ構成部品の特性
−shape 形状
−site_characterization 用地の特性
3.2.4.3 適合性クラス(Conformance Class)
STEPはアプリケーションプロトコルのより上位の概念にリソースという統合化された概念をもつ。
適合性クラスはこのリソースへの要件を定義する。
以下に適合性クラスを示す。
−Class-1 配管の機能がもつ情報
−Class-2 機器と装置がもつ空間配置の情報
−Class-3 系の空間配置と配管における設計がもつ情報
−Class-4 配管の製作と取付がもつ情報
−Class-5 配管の検査がもつ情報
−Class-6 HVACがもつ機能の情報
−Class-7 HVACがもつ空間配置の情報
−Class-8 電路および電線がもつ空間配置の情報
−Class-9 配管、電路、および電線を解析する情報
適合性クラスは次のように機能単位と関連をもつ。
オプション |
意味 |
A |
境界表現モデル |
B |
CSG表現モデル |
C |
境界表現モデルおよびCSG表現モデル |
H |
多胴船に関するデータ交換の適用性 |
M |
スキーマがもつ機能単位用のエンティティ |
R |
変更要求がもつ機能単位用のエンティティ |
T |
用地の特性がもつ機能単位用のエンティティ |
P |
船を除くプラントの特性がもつ機能単位用のエンティティ全般 |
S |
船の特性がもつ機能単位用のエンティティ全般 |
X |
すべてのエンティティ |
|
適合性クラスはリソースで実装されるAIMへの対応をもち下図のようになる。
3.2.4.4 シナリオ(Scenario)
これまでに提案されたシナリオの例を以下に示す。
from |
to |
to do |
エンジニア |
施工業者 |
配管の設計と組立の情報の交換 |
エンジニア |
施工業者 |
配管の仕様とサポートする文書の交換 |
施工業者 |
エンジニア |
配管の変更、状態、スケジュール、および検査結果の交換 |
エンジニア |
建設業者 |
配管およびプラントの設計と建設計画および配管の立ち上げ情報の交換 |
建設業者 |
エンジニア |
配管と順序、優先度、変更、および状態などの建設後の情報の交換 |
エンジニア |
建設業者 |
建設業者
および
エンジニア |
オーナー |
配管と配管システムを運用するための情報の交換 |
|
3.2.4.5 テストケース(NSRP0424 Version 3.0)
下図は直径3-inchの円柱状の管(P1)と押し出し加工の構成部品(PLE1)が干渉している例である。
ARMはP1のタイプをStraight pipe、ラベルをP1-1、PLE1のタイプをstructural_component、ラベルをPLE1-1としてもつ。
ARMがもつstraight_pipeエンティティは次のような階層でplant_itemが特化されたエンティティである。
ここで|は上段が汎化であり下段が特化を表し、()内はエンティティがもつ属性である。
plant_item(description name plant_item_id status)
|piping_system_component(coating_reference lining)
||piping_component(side_connector standard_point pmi_record mill_sheet_number)
|||pipe(end_1_connector end_2_connector additional_length)
||||straight_pipe(end_to_end_length end_to_end_cut_length)
下図において#10および#11はP1のインスタンスである。
ところでstraight_pipeエンティティはpiping_system_componentおよびpiping_componentの特化エンティティであるにも関わらず#10および#11のインスタンス図にはこれらのエンティティがない。
これはplant_itemの特化エンティティにplant_item_definitionが存在していてis_defined_byの役割(role)が実装されているためである。
干渉という物理的な特性はARMのplant_item_interferenceによって表現される。下図の#1がそれになる。
#5、6、7、8および#12、13、14、15は#3および#10のspatially describesの役割を切片として形状の情報をもつ。
#9および#16は干渉が生じた部分を朱色で指定するための機能的なインスタンスである。
(拡大画面:111KB)
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図3.2.4 AP227 2nd Editionの概要
AP227 2nd Edition(Plant Spatial Configuration: Plant/Ship配管情報)の概要 |
(拡大画面:57KB)
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(Fig3.2.4_AP227_2nd_Ed.ppt)
3.2.5 Ship Mechanical Systemsの扱い
3.2.5.1 Ship Mechanical SystemsとAP227の経緯
AP226 Ship Mechanical Systemsは、英国LRのZabi Bazar氏を中心に開発が進められ2002年4月にCD投票に入ったが、この1〜2年位前からLRによる資源の供給がままならぬ状態になり、非常に苦戦していた。結果としてCDドキュメント、特にディクショナリの完成度は甚だ良くなく、またCDの時点ではDIS、ISと継続していけるだけのファイナンスの裏付けがない状態に陥った。
一方、我が国は船舶のAPの中でも機関部が尤も現実のビジネス現場に近いという判断から、ここ数年力を入れて来た。初期よりマッピングの開発ワークショップへの参加やプロトタイプの開発などに取り組み、ドキュメントの解読も最も進んでいた。その様な背景からCD投票に当たっては、ディクショナリの部分が現実にそぐわないことを指摘し、この個所をformativeからinformativeにすべきと主張した。
これに対してヨーロッパ勢は、(ファイナンスの枯渇を最大の原因として)これ以上現行のAP226の開発を継続する事は出来ないという判断やRDLを使いたいという半ば政治的な判断注1から、AP226開発の中止とPLiBからRDLへの変更を持ち掛けてきた。そしてその解決策としてAP227 Plant spatial configurationの一部として組み込むことを主張し、結果的に米国がこれに応じたことで、方向性は決定的なものとなった。日本は規格開発に直接関与するだけの人・資金的な裏付けを持たない現実に基づいてこの方向転換に従わざるを得ない状況になった。
ところで、Ship Mechanical Systemsの要件をAP227 2nd Editionに組み入れる作業は難航を続け(技術的かつ資金的な両面で)、当初の思想であったライブラリの明示的な組み込みは断念され、AP227の最終版では、緩やかな形で外部のライブラリと連携が取れる口を設けるだけの方向に向かった。予定では今年度中にその新しいドキュメントが発行される事になっていたが、2004年2月現在では未だ公開されていない。その意味において、Ship Mechanical Systemsを的確に表現するShip APは未だ完成してない状態である。ただ2nd Editionで実現される内容が上記の程度であれば、船舶のビジネスとしては大きな影響は受けないものと判断される。そもそもライブラリを用いた機器表現は電子機器を筆頭に既にいろんな先進事例があり、その規格及び利用体系はほぼ確立されていると思われるからである。なお、AP227におけるShip Mechanical Systemsの位置付けは、AP226のフルスペックをカバーする方向で示されていた(SMS = Ship Mechanical Systemsと呼ばれていた)が、途中でこれをSimple Mechanical Systemと呼びなおすなどの策も講じられていた。最終ドキュメントではこの呼び名が使われるはずである。
3.2.5.2 AP227におけるライブラリの利用
AP227でShip Mechanical Systemsを実現するに当たって、問題になったのはAP226が骨格として持っていたパーツライブラリ(PLiB)による表現形式の扱いであった。ライブラリによる表現方法を取るのは当然として、その方法を、AP226を継承してPLiBによるか、Oil&Gasなどの流れをくむRDLにするかの議論が華々しく展開されたのは記憶に新しい。しかしながら開発リソースという観点から見ればこれらのライブラリの開発は極めて問題が多いというか、多大な労力と時間を要するものであり、未だにOil&GasやAP221で完了していない事実からみても自明である。
その結果、AP227の最終版では、ライブラリを限定することなく、またそのコンテンツは棚上げにして、いわば玉虫色の解決策が取られようとしている。その問題をどう考えるかは極めて難しいが、規格としては大きな構造を表現して、実際の利用のストーリには、自由度を持たせているという考えもありうるものとも思える。
外部参照によるライブラリ利用の例
#15= (EQUIPMENT($,'pump','steam',$,$,'98.6
degrees','A','B')INLINE_EQUIPMENT()PIPING_SYSTEM_COMPONENT('ASTMG11-88','ECTFE','steam',MEASURE_WITH_UNIT('.125
inches'), ()) PLANNED_PHYSICAL_PLANT_ITEM($, 'PMP-00500',$) PLANT_ITEM ($,$, 'PP1-
1','resolved',(),(),()) PLANT_ITEM_INSTANCE());
#16= PHYSICAL_DESIGN_VIEW(#15);
#17= PLANT_ITEM_SHAPE(.IGNORE.,$,#15);
#18=(DETAIL_SHAPE()PLANT_CSG_SHAPE_REPRESENTATION()SHAPE_REPRESENTATION(#17));
/* External classification */
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1 3次元空間中の概略あるいは詳細な形状あるいはパラメトリック表現による形状を扱う
2 例)材質と溶接の要求がもつ物理的な特性ISO-10303-221およびISO13584参照
3 例)P&IDあるいは「プロセスフローダイアグラム」(PFDs)などを含む表現
注1: RDL (Reference Data Library) は、POSC/CAESARのプロジェクトに源を発し、ISO 15926 Oil and Gasのプロトコルの主体を成すものである。この開発に当たってはノルウェーが中心になり、多くの資源を投下してきている。これらの理由もあって、DNVの社内システムでは、RDLを用いた開発が進められていると聞く。
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