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●情報収集事業
調査団名:欧州 A班
対象国:ユーゴスラビア連邦共和国
調査分野:運輸セクター(鉄道、道路、内陸水運、空路)
調査期間(日数):14.12.10〜12.24(15)
 
【調査の概要】
 
背景
 ユーゴスラビア連邦共和国(以下ユーゴスラビア)は東ヨーロッパの中心に位置し、北部平野地域は肥沃な穀倉地帯が広がり、南部山岳地域は恵まれた鉱物資源が点在している。このため産業活動は活発であったが、チトー大統領死去後の民族紛争激化により経済は停滞してしまった。さらに1999年のNATO攻撃により主要な社会資本は甚大な被害を受け、経済再生の道は閉ざされてしまった。当国は西ヨーロッパと中・東欧の接点にあるため、全ヨーロッパの経済発展の観点から経済復旧の必要性は高く、また近隣諸国からは円滑で安全な物流促進に資する運輸インフラ整備・復興が強く求められている。
 我が国との関係は、2001年支援国会議において総額6,000万ドルの資金協力及び研修員受入等を内容とする支援が表明されている。
 
調査事項
 本調査は、ユーゴスラビアを構成する2共和国(セルビア共和国とモンテネグロ共和国)のうちセルビア共和国(首都ベオグラード)を対象国とし、当国の鉄道、道路、内航水運、航空に関する運輸セクターを対象分野とした。
 
現状と問題点
・鉄道
 鉄道網の延長は4,058kmであり、鉄道システムにおける施設・設備は旧式で老朽化が進み、約65%は未電化、約90%以上は単線である。支援状況はCorridor10の開発計画に伴って、路線の複線化、電化改善事業、近代化整備事業、維持管理体制強化等がEIB、EBRDの支援で実施されている。Ostruznica橋を含むBatajuica-Beograd(ベオグラードバイパスの併行線)およびBeograd Junctionの戦災復旧・改善計画は当国の経済発展にとって急務である。
・道路
 国道と地方道の道路延長は48,423kmであり、舗装道路はそのうちの62%である。道路密度は国土の43.9km/100km2である。支援状況はEBRD、EIB等の国際金融機関支援、ギリシャ、トルコの2カ国支援、南東ヨーロッパ支援(Stability Pact)、欧州18ヶ国共同開発計画によるアクションプランがそれぞれ実施されている。しかしながら現在の支援状況は将来の輸送量増大に対応した適切な整備内容とはなっていない。
・内航水運
 国際河川ドナウ川はCorridor7に位置付けられ、現在年間4,000万トン以上の貨物が運搬されており、当国河川港の年間貨物取扱量は約930万トン(2000年)である。堆積砂による浚渫対策、年間通じて安定した喫水深の確保、NATO攻撃による被災橋部分でのナビゲーションクリアランスの確保が今後の重要課題である。
・航空
 80年代経済安定期には年間最大350万人の利用があったベオグラード空港の年間利用客数は150万人(2001年)であり、1999年以降増加傾向にある。本空港改善計画は中・東欧近隣諸国のハブ空港として整備するばかりでなく、物流のための年間貨物取扱量500,000t規模の施設建設を含んでいる。地方空港では復旧整備事業が小規模ながら開始されている。各空港とも管制設備の近代化が必要とされている。
 
今後の見通し
 当国の運輸セクター開発については、短期計画(2006年)、中期計画(2015年)、長期計画の段階計画により、着実かつ効率的に実施されることが望まれる。短期計画では戦災復旧対策並びに欧州回廊(Corridor10、7)整備が中心にあることから、Corridor10に関わるインフラ整備の推進を始め、現在頓挫しているベオグラードバイパス整備事業の再開は必須である。また、和平定着の観点からのプロジェクト、欧州回廊・ベオグラードバイパスを基軸とした運輸インターモーダル推進、環境保全の視点に立ったプロジェクトの形成は、我が国の「顔の見える援助」として技術支援参画の可能性があるものと思料する。
 
爆撃により落橋したOstruznica橋(Sava川横断鉄道橋)
 
○案件形成事業
調査件名:ヴィエトナム国 ハイバン峠鉄道トンネル建設計画
対象国:ヴィエトナム
調査分野:鉄道
調査期間(日数):14.7.3〜8.3(32)
 
【調査の概要】
 
背景と現状
 ヴィエトナム国の鉄道路線の約2/3を占める南北線(ハノイ〜ホーチミン)は、全路線の人キロの83%、トンキロの60%を占め、かつ首都ハノイと最大都市ホーチミンを結ぶ同国鉄道の最重要幹線である。その南北線上の最大隘路であるハイバン峠区間(既存線長:約23km、所要時間:1〜1.5時間)は、現在以下のような問題を抱えている。
(1)R=100mかつ勾配15%。程度の急カーブ急勾配が延々と連続しているため、15〜30km/hの低速運行を余儀なくされている(走行速度の問題)。
(2)雨期には斜面崩壊等により頻繁に線路が寸断され、そのたびに南北間を結ぶ交通が停滞している(安全上の問題)。
(3)中央部約11kmの間に行き違いできる待避線が無く、このことが運転本数の制約条件となっている(2010年で限界に達する)。なお断崖上の路線のため、新規に待避線を建設することは困難である上、高い工事費をかけて信号場を設けても60本/日が限界であり将来に対する十分な容量が得られない。(運転本数上の問題)。
(4)現在建設中であるハイバン道路トンネルの完成により、同区間における鉄道の市場競争力の著しい低下が予想される。
 この様な現状にもかかわらず、過去のM/P等では本事業の優先順位を上位としつつも最重要事業とはしていない。それは本事業にフエ〜ダナン間の電化・複線化も含めたため、事業費が他の上位事業に比べ高額となっていることが1つの原因と考えられた。このため、非電化単線でハイバントンネルのみを建設した場合の事業化可能性を検討するため本調査を実施した。
 
調査事項
 本事業の実施可能性を確認するため、既存資料を基にした交通需要予測、現地踏査、代替案の設定と評価、設計基準の選定、予備設計及び積算、経済分析を実施するとともに、ヴィエトナム運輸省(MOT)及びヴィエトナム国鉄(VR)に対するヒアリング等を通じて事業の位置付けや実施に際する留意点等を抽出した。
 
問題点と今後の見通し
 現在の同国鉄道は、全体交通網の中での位置付けの明確化、整備方針の明確化及びVRの効率的な組織への転換という先行課題を有している。これら問題点はMOT/VR側も認識しており、鉄道の位置付け及び整備方針に関しては、現在MOTの大臣が中心となって、今後は都市間の旅客輸送と中長距離の貨物輸送を鉄道に分担させるという方向で議論を進めている。また、VRの組織改善についても2003年に公社化することを含めたアクシヨンプランが作成されている。
 さらに、今回の調査により、フエ〜ダナン間の電化・複線化をハイバン鉄道トンネルと同時に実施しなくても最大の隘路が解消でき、かつ少なくとも2035年までの需要に対応できることが判明したため、当面必要な事業費が大幅に削減され、本事業を実施することにより充分な費用対効果が見込まれることとなった。一方、本事業により、経済面以外の有効な便益、即ち生命・財産の安全性の飛躍的向上、モーダルシフトの推進によるCO2・NOx(窒素酸化物)・SPM(浮遊粒子状物質)削減効果等が見込まれる。
 今後は、ヴィエトナム国としての確固たる鉄道整備方針の決定、VRの独立採算性を目標とした組織形態への移行を推進するよう提言していくとともに、本格F/S等を実施して本事業実施の妥当性をより詳細に検討するよう働きかけていく必要がある。
 
現在のハイバン峠区間
 
南側坑口候補地







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