【調査の概要】
背景
ユーゴスラビア連邦共和国(以下ユーゴスラビア)は東ヨーロッパの中心に位置し、北部平野地域は肥沃な穀倉地帯が広がり、南部山岳地域は恵まれた鉱物資源が点在している。このため産業活動は活発であったが、チトー大統領死去後の民族紛争激化により経済は停滞してしまった。さらに1999年のNATO攻撃により主要な社会資本は甚大な被害を受け、経済再生の道は閉ざされてしまった。当国は西ヨーロッパと中・東欧の接点にあるため、全ヨーロッパの経済発展の観点から経済復旧の必要性は高く、また近隣諸国からは円滑で安全な物流促進に資する運輸インフラ整備・復興が強く求められている。
我が国との関係は、2001年支援国会議において総額6,000万ドルの資金協力及び研修員受入等を内容とする支援が表明されている。
調査事項
本調査は、ユーゴスラビアを構成する2共和国(セルビア共和国とモンテネグロ共和国)のうちセルビア共和国(首都ベオグラード)を対象国とし、当国の鉄道、道路、内航水運、航空に関する運輸セクターを対象分野とした。
現状と問題点
・鉄道
鉄道網の延長は4,058kmであり、鉄道システムにおける施設・設備は旧式で老朽化が進み、約65%は未電化、約90%以上は単線である。支援状況はCorridor10の開発計画に伴って、路線の複線化、電化改善事業、近代化整備事業、維持管理体制強化等がEIB、EBRDの支援で実施されている。Ostruznica橋を含むBatajuica-Beograd(ベオグラードバイパスの併行線)およびBeograd Junctionの戦災復旧・改善計画は当国の経済発展にとって急務である。
・道路
国道と地方道の道路延長は48,423kmであり、舗装道路はそのうちの62%である。道路密度は国土の43.9km/100km2である。支援状況はEBRD、EIB等の国際金融機関支援、ギリシャ、トルコの2カ国支援、南東ヨーロッパ支援(Stability Pact)、欧州18ヶ国共同開発計画によるアクションプランがそれぞれ実施されている。しかしながら現在の支援状況は将来の輸送量増大に対応した適切な整備内容とはなっていない。
・内航水運
国際河川ドナウ川はCorridor7に位置付けられ、現在年間4,000万トン以上の貨物が運搬されており、当国河川港の年間貨物取扱量は約930万トン(2000年)である。堆積砂による浚渫対策、年間通じて安定した喫水深の確保、NATO攻撃による被災橋部分でのナビゲーションクリアランスの確保が今後の重要課題である。
・航空
80年代経済安定期には年間最大350万人の利用があったベオグラード空港の年間利用客数は150万人(2001年)であり、1999年以降増加傾向にある。本空港改善計画は中・東欧近隣諸国のハブ空港として整備するばかりでなく、物流のための年間貨物取扱量500,000t規模の施設建設を含んでいる。地方空港では復旧整備事業が小規模ながら開始されている。各空港とも管制設備の近代化が必要とされている。
今後の見通し
当国の運輸セクター開発については、短期計画(2006年)、中期計画(2015年)、長期計画の段階計画により、着実かつ効率的に実施されることが望まれる。短期計画では戦災復旧対策並びに欧州回廊(Corridor10、7)整備が中心にあることから、Corridor10に関わるインフラ整備の推進を始め、現在頓挫しているベオグラードバイパス整備事業の再開は必須である。また、和平定着の観点からのプロジェクト、欧州回廊・ベオグラードバイパスを基軸とした運輸インターモーダル推進、環境保全の視点に立ったプロジェクトの形成は、我が国の「顔の見える援助」として技術支援参画の可能性があるものと思料する。
爆撃により落橋したOstruznica橋(Sava川横断鉄道橋)
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