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22. 援助方針策定事業
 ODAを効果的かつ効率的に推進していくためには、開発途上国の国情の違いやインフラ整備に伴う分野ごとの特性の違いに応じた援助方針を作成しておく必要があった。
 
【平成9年度】
 モンゴルを対象に援助方針策定調査を実施した。この調査は、市場経済体制への体制転換の最中であるモンゴルに対し、同国全体の開発動向等を勘案しつつ、経済開発動向・運輸インフラの整備状況、先進各国からの援助動向を整理・分析することにより、わが国のモンゴルに対する運輸分野国際協力のあり方をとりまとめたものである。
 
鉄道分野
 鉄道分野においては、JICAの「鉄道線路基盤改修計画」の開発調査及び円借款による「鉄道輸送力整備計画」が進行中であった。これらの進捗状況を把握しながら、豊富な鉱物資源を有効に活用し、外貨獲得のためにもモンゴル国の鉄道関連施設を近代化することは、同国の発展に不可欠と考えられた。しかし、モンゴル鉄道における経営の改革及び職員教育等のソフト部分の協力、老朽化した施設の改良、通信システムの改善、貨物取扱施設の新設・整備、新線の開設問題等多くの問題を抱えており、これらに対する協力が必要であった。
 
物流分野
 経済改革が始まる以前の物流及び流通は、計画経済システムとそれを支える国家調達制度、統制価格制度等によって統制されていた。しかし何十年も続いた国家調達制度は1991年に基本的に終わり、石油燃料やパンなどいくつかの消費財を除き多くの消費物資の統制を解除し、自由契約、自由価格による市場経済が始まった。
 わが国の協力の方向性と課題としては、市場経済に対応した物流システムの構築、安定した貨物輸送体制の確立等が実施できるよう適切な運用のできる人材の養成・モンゴル国内の道路は大部分が未舗装・未整備であるためでトラックの損傷も早く、また燃料費の高騰もあり、輸送コストを含め効率的な輸送が求められているため道路の整備、その他、輸送機材の整備、保管倉庫の整備、荷物積み替え場の整備等が考えられた。
 
自動車・都市交通分野
 モンゴルは、わが国の約4倍の広大な国土を有しているが、道路は日本の約26分の1(42,000キロメートル)しかなかった。建設資材・機械等が不足しているため、道路建設は進まず、舗装率等の道路水準は改善されていなかった。また冬季には凍土の影響を受け舗装面の亀裂、陥没が著しく、これらの整備が急がれた。更に、木橋も多く、重量制限等の運行規制が実施されており、永久橋への改築も緊急課題となっていた。また、自家用車、トラックともに登録台数は増加していた。
 自家用車保有率の低いモンゴルでは、都市交通においてバスが最も重要な手段となっており、首都ウランバートルではバスの他、トロリーバスも公共交通機関として旅客輸送に重要な役割を担っていた。
 短期・緊急の課題として、(1)トロリーバスの定時性の確保(2)自動車の排気ガス対策(3)市場経済移行に伴う都市交通システムの改修(4)既存舗装道路の維持補修に必要とされる建設資材の調達(5)既存南北幹線道路の維持補修等が考えられた。
 中長期的な課題としては、(1)交通輸送機関の役割分担等の総合マスタープラン策定(2)車検制度及び検査センターの導入(3)周辺諸国との交通モード政策対話等が考えられた。
 その後の協力としては、(1)トロリーバス整備工場改善計画(2)自動車車検場開発計画(3)トロリーバス改修・増強計画(4)市内・近郊バスステーション整備計画等が挙げられた。
 
航空分野
 モンゴルの航空輸送は、首都のウランバートル国際空港及び18の地方空港を拠点に行われていた。わが国の航空会社は就航していなかったが、モンゴル航空が関西国際空港との間に週2便、また名古屋、福岡空港等にチャーター便を運行していた。
 モンゴルにおいては、他の運輸施設同様、航空分野においても資金不足であり、施設の老朽化、安全性の確保が問題となっていた。その他、滑走路の延長、管制塔の修理、ターミナル施設の改良等の基本施設については、整備されつつあった。また、(1)地方空港整備拡充計画(2)新ダランザドガド空港建設計画及び(3)モンゴル航空の機材拡充等の協力が考えられた。
 
観光分野
 モンゴルにおける観光ツアーは、豊かな自然と歴史的な遺跡を基盤とするもので、多種多様なツアーが各地に展開されていた。しかし、モンゴル国内ツアーにあっては、宿泊施設、通訳ガイド等のほか、停電、上下水道施設などインフラ整備上にも問題が多かった。観光については、外貨獲得収入として直接収入が得られるため、開発途上国においては、産業として支援していくことが望まれた。従って、市場経済についての経験の乏しいモンゴルに、わが国の民間利用のノウハウを伴う投資による観光インフラの整備やモンゴル政府内及び民間の観光推進部門を確立させるとともに、環境保全を考慮しつつ観光開発マスタープランを作成することが望まれた。
 
気象分野
 モンゴルにおいては、その地形等から、夏の集中豪雨、洪水害、春秋の吹雪、寒冷害、強風、砂嵐等様々な気象災害に悩まされていた。しかるに、過去に供与された気象観測装置、自動観測所、通信設備等はその老朽化が著しく、早急な更新・整備が求められていた。またモンゴルにおける気象業務の向上のため組織全体の物的及び人的開発が急務となっていた。
 
【平成10年度】
 内陸国で日本人観光客も多いネパールの運輸分野及び巨大な隣国である中国の運輸分野に係る援助方針をとりまとめた。また分野別には、開発途上国の自動車交通及び航空分野についてそれぞれ援助方針をとりまとめた。
 
(ネパール)
 ネパールは、最貧国に位置づけられているため、二国間援助の大部分は無償中心に行われており、わが国最大の無償援助国となっていた。これまでの主な援助内容は、カトマンズ都市圏のバス輸送力の向上、トリブバン国際空港の管制施設の整備等であった。カトマンズの都市活動の拡大、地方圏の交通体系の整備、国際交流・交易窓口の整備等生活基盤及び生産基盤整備の両面から見ても、運輸交通分野はその後もネパールにおける援助の重点分野の一つであると考えられた。
 
航空分野
 航空輸送は、道路建設の困難な山岳、丘陵地帯の僻地への唯一のアクセス手段であるほか、観光開発にも大きく寄与していた。空港数は、トリブバン国際空港を含めて44空港あり、6空港が建設中であった。他にヘリコプター基地が97箇所存在していた。航空会社は、ロイヤルネパール航空の他、多くの民間会社が営業しており、1999年1月より、航空局及びトリブバン国際空港は国の組織からそれぞれ公社に改組された。
 わが国の主な援助としては、1992年に発生した2度の航空機事故を契機に、無償援助として空港レーダーの導入及びレーダー訓練所の整備が行われた。更に、離着陸時の航空機の安全性の向上を図るためには、航空路用レーダーの早急な整備が必要であった。
 
自動車交通分野
 ネパールの道路総延長は約1万キロメートルで、内舗装道路は1/3となっていた。地形的制約から全国75群のうち、自動車道路が通じていない地域が19群残っており、道路整備がインフラ整備の重点課題となっていた。信号機があるのは日本の援助で導入された箇所を含めてわずかであった。鉄道は、インドとの国境地帯近くに短い2路線があるのみで、バスが主要な交通手段となっていた。わが国はこれまでバスを供与したり、専門家を派遣したりして援助を行ってきたが、日常め整備が不十分であったり、育成した技術者が根付かなかった等の問題が指摘されていた。
 
気象分野
 ネパールの気象は、亜熱帯モンスーン地帯に属し、年平均雨量は1,500〜5,000ミリとなっていた。毎年洪水被害が多発していることから、わが国のプロジェクト方式技術協力で1991年から進められている「治水砂防技術センター」はネパール政府から高い評価を受けていた。気象観測については、要員の能力向上が緊急の課題となっていた。また使用されている観測機材、通信機材の老朽化が著しく、毎年のようにわが国に対して無償援助の要請が出されていたが、ネパール政府内の優先順位は必ずしも高くなかった。
 
観光分野
 8,000メートルを越すヒマラヤ山脈、多様な野生生物など豊富な観光資源を有するネパールには、毎年日本人を含む多くの観光客が訪れていた。内陸国であるため、輸出競争力のある産業立地を促すことが困難なネパールにとって観光産業は着実に外貨獲得が可能な産業であった。従って、航空、国内道路の整備、同国の玄関口であるカトマンズの環境、景観の保全、観光施設の整備、また自然環境、生態系への配慮等が必要であった。
 平成10年度に実施されたこの調査では、運輸分野は生活基盤、経済基盤の充実確保の観点から、最も基本的なインフラであるとして、ネパール政府関係者との意見交換をふまえて、航空、都市交通問題、観光基盤整備及び気象の4つに分類して援助方針をとりまとめた。
 
(中国)
 中国は、わが国として経済・文化等様々な分野で相互に密着な関係のある重要な国である。中国国内でも国民生活の重要な基礎インフラである運輸分野において今後も支援要請があるものと思われることから、中国の運輸分野における効率的かつ効果的な支援を実施するため、援助の方向づけに関する検討を行った。
 中国の運輸分野における課題としては、(1)輸送力増強(2)経営改善(3)災害防止(4)地域間格差の解消(5)収益性の確保等があげられた。
 
鉄道分野
 中国の鉄道は、主要な都市間の増大する需要に追いつかない路線の増強・拡充が問題となっていた。重点課題としては、「北京−上海間の高速鉄道建設計画」が挙げられた。この路線については、都市構成がわが国の東海道新幹線沿線と類似していることからわが国の積極的な協力が望まれた。
 
港湾・水運分野
 中国では、沿岸と内陸を結ぶ長江の輸送が問題であった。長江流域の港湾については、一部を除いて殆どが上海からのフィーダー輸送であった。大型コンテナ船が入港できない理由として、大型船舶の不足、施設の未整備、安全上の問題、外国船への規制等があげられた。これらを解決し、複合一貫輸送体制の整備を目的としたわが国の開発調査が望まれた。
 
航空分野
 北京、上海をはじめとする主要空港では拡張及び新設等の事業が行われていたが、その他の空港については小規模の整備に留まっていた。航空機については、欧米の新型機を導入したが、それに伴う航行援助システムの近代化については、二次レーダーしか設置されていない空港が多く、安全航行に問題があった。そのため全国的な航空保安施設の近代化が望まれた。
 
都市交通分野
 中国には100万人以上の都市が30以上存在していた。都心部においては、平面的な土地利用から立体的な土地利用へと移行させ、大量公共交通機関の導入計画が多数検討されていた。わが国の支援方策としては、モデル都市を選定し、順次各都市の計画実現のためのF/S調査が期待されていた。
 
観光分野
 数多くの歴史的な遺跡や文化遺産を有する中国では、観光は有力な外貨獲得の手段であり、海外からの観光客誘致に極めて積極的であった。課題として、アクセス交通と宿泊施設等の観光インフラがあげられた。また、サービスレベルが低いことから観光分野の専門家派遣や研修員受入れ等で観光産業全般の発展に対する協力が望まれた。
 
気象分野
 中国における気象観測や予報は、ほぼ毎日各地で実施されており、かなりの高精度の観測ができる体制にあった。課題としては、老朽機材の更新と高度な数値予報システムの確立が望まれていた。また、大気汚染等環境問題や自然災害に係る業務体制の整備も望まれた。
 中国に対する援助のあり方については、多方面で議論が行われ、大規模なハードインフラ整備よりソフト面での協力(政策・制度・組織等の改革支援)が求められていた。これに上記の環境、貧困等を組み合わせた協力が最も有力な支援の方向性であった。運輸プロジェクトは、多額の資金を必要とするものの、「環境に優しく」、「貧困・雇用対策」、「輸送の安全性・定時性がもたらす新たな産業構造の構築」等を促進する有効な支援分野の一つであることは否定できないことから、以後も中国支援の主要分野として協力を推進すべきであると思料された。
 
(分野別)
自動車交通
 開発途上国における都市交通分野の問題は、都市の発展段階によって対処すべき問題が異なってくる。都市の経済活動が活発になり、都市規模が大きくなると、経済活動の中心地域の商業地域と住宅地域に分かれ、郊外に都市が拡大し、都心部への輸送手段は、バス、自家用車に依存しはじめる。自動車交通量が増加すると、交通渋滞が発生し、バスの定時性、迅速性も低下し、バスの輸送力が落ちる。また、排気ガスによる交通公害も発生する。総合的な都市交通問題を解決するためには、発生している交通問題を的確かつ経済的・技術的な視点からより効果的な対策を段階的に実施する必要があった。
 これからの自動車分野の援助方向は、総合的な視点で都市交通問題を解決することが要求され効果的で効率的な交通体系の整備が望まれた。援助方向としては、(1)都市計画、道路計画、物流計画等の策定(2)ターミナルの整備、駅前ターミナルと輸送網の整備、バス優先道路の整備等(3)バス停の整備、車両整備工場の整備、バス運行システム・料金システムの改善等(4)物流ネットワークの整備、物流機材の整備、物流事業者の育成、物流情報ネットワークの整備等が考えられた。
 
航空
 開発途上国の首都圏国際空港の整備は、わが国のODAに限らず、他の先進諸国や国際機関の援助により、ほぼ完了していた。地方空港については、その整備が計画され、また実施されていた。また中所得開発途上国にあっては、首都圏の第2国際空港や地方の幹線空港又は国際空港整備が進められていた。空港建設事業は、莫大な資金を要する事業であり、その一部をわが国の資金協力で援助することが求められていた。更に航行安全に欠かせない航空管制、航空保安施設の整備援助についてもわが国の援助が求められていた。
 具体的な援助基本方針にはいくつか考えられるが、まず物の提供(ハード型)から方法論(ソフト型)を提供するよう軸足を移していくことが重要であった。従って、これまで以上に、途上国の開発担当者、新しい航法システムヘの対応などに従事する計画分野の人材の育成に重点を置き、専門家の派遣、技術者研修制度等を積極的に活用していく必要があった。







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