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第3章 地方税財政の今後の方向
1 「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」について
(1)「基本方針2003」のとりまとめの経緯
 平成15年6月26日の経済財政諮問会議において「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(以下「基本方針2003」という。)が取りまとめられ、翌27日に閣議決定された。
 経済財政諮問会議が、経済財政運営と構造改革に関する基本方針を取りまとめるのは「基本方針2003」で3回目となる。以下に、これまでの経済財政諮問会議の足取りと「基本方針2003」の位置づけを述べる。
 経済財政諮問会議は、13年1月の中央省庁再編に伴い、経済財政政策に関して、有識者の意見を十分に反映させつつ、内閣総理大臣のリーダーシップを十分に発揮することを目的とする機関として、内閣府に設置された。13年度中は、6月に「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」(いわゆる「骨太の方針」)を取りまとめ、経済財政全般の構造改革を推進するとともに、12月には「平成14年度予算編成の基本方針」によって改革断行予算の考え方を明らかにした。さらに14年1月には「構造改革と経済財政の中期的展望」(以下「改革と展望」という。)を策定し、中期的に実現を目指す経済社会の姿と財政健全化の道筋を示している。14年度に入り、6月に「骨太の方針」第2弾として「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」を、11月に「平成15年度予算編成の基本方針」を取りまとめるとともに、15年1月には「改革と展望」の改訂を行った。
 「基本方針2003」は、過去2回の基本方針で示された構造改革の基本的な考えを踏まえつつ、3月に行われた「構造改革レビュー」等における構造改革の点検・評価や現下の経済状況を踏まえ、デフレの克服を目指しながら構造改革を推進するとの考え方の下、取りまとめられた。
 
(2)「基本方針2003」の構成
 「基本方針2003」は、第一部から第三部で構成されている(図表2-3-1)。
 「第一部日本経済の課題」においては、「骨太の方針」策定以降の2年間の構造改革の成果を振り返り、デフレ克服に向けた取組を強調した後、今後の構造改革の基本方針として、「3つの宣言」と「7つの改革」を示している。
 次に「第二部構造改革への具体的な取組」では、「3つの宣言」を実現するため、7つの分野における構造改革にどのように取り組むべきかについて、「改革のポイント」と「具体的手段」を記述している。
 最後に「第三部16年度経済財政運営と予算のあり方」では、今後の経済動向と当面の経済財政運営の考え方、中期的な経済財政運営の考え方を述べた後、平成16年度予算における基本的な考え方を示している。
 
図表2-3-1 経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003
第1部 日本経済の課題
1. 日本経済の体質強化
2. デフレの克服
3. 「3つの宣言」と「7つの改革」
(1)経済活性化
(2)国民の「安心」の確保
(3)将来世代に責任が持てる財政の確立
 
第2部 構造改革への具体的な取組
1. 規制改革・構造改革特区
2. 資金の流れと金融・産業再生
3. 税制改革
4. 雇用・人間力の強化
5. 社会保障制度改革
6. 「国と地方」の改革
7. 予算編成プロセス改革
 
第3部 16年度経済財政運営と予算のあり方
1. 経済財政運営の考え方
(1)今後の経済動向と当面の経済財政運営の考え方
(2)中期的な経済財政運営の考え方
2. 平成16年度予算における基本的な考え方
(1)歳出改革路線の堅持と財政の持続可能性の確保
(2)予算編成に当たっての重点と抑制の考え方
(3)主要予算の改革
 
(別紙1)「530万人雇用創出プログラム」の具体的な施策
(別紙2)「国庫補助負担金等整理合理化方針」
 
(3)「第一部日本経済の課題」について
ア 日本経済の体質強化
 政府は、「骨太の方針」策定以降の2年間、「改革なくして成長なし」、「民間でできることは民間に」、「地方でできることは地方に」との方針の下、構造改革を進めてきたが、これをさらに本格的に推進するために、「基本方針2003」においては、構造改革の基本方針を「3つの宣言」と「7つの改革」として新たに示すこととした。
 なお、構造改革と短期的な景気対策の関係について、「基本方針2003」は、持続的な経済成長・景気拡大を実現するためには、構造改革を推進して、日本経済の体質を改善し、「元気な日本経済」を実現するしかないとしている。
 
イ デフレの克服
 我が国の経済におけるデフレ傾向は根強く、これを早期に克服することが大きな課題である。「基本方針2003」では、デフレ克服に向けて、不良債権問題への対応、証券市場の構造改革、不動産市場の活性化、金融税制等の軽減措置などを実施してきたことにより、「改革と展望」で示した集中調整機関(2004年度まで)の後にはデフレが克服できると見られるとしている。
 
ウ 「3つの宣言」と「7つの改革」
 構造改革の新たな基本方針である「3つの宣言」と「7つの改革」の概要と位置づけを次に述べる。
 第一の宣言である「経済活性化」については、「日本経済の体質を強化して、内需主導の元気ある経済を創造するために、環境と経済の両立を図りつつ、未来への投資を通じて民間経済が持つ創意工夫を十分に発揮できる環境を整備する。」とされ、その実現のために、(1)規制改革・構造改革特区、(2)資金の流れと金融・産業再生、(3)税制改革、(4)雇用・人間力の強化に取り組むものとされている。
 次に、第二の宣言である「国民の『安心』の確保」については、「世代間・世代内の公平を図り、持続可能で信頼できる『社会保障制度』に改革する。年金・医療・介護・生活保護を一体的にとらえ、制度設計を相互に関連づけて行う。」とされ、その実現のために、(5)社会保障制度改革にとり組むものとされている。
 第三の改革の宣言である「持続可能な財政」については、「歳出全体の改革を引き続き強力に推進するとともに、地方自治の本来の姿を実現する観点や国民への説明責任を果たす観点を踏まえつつ、以下の改革にとり組む。」とされ、その実現のために、(6)「国と地方」の改革、(7)予算編成プロセス改革に取り組むものとされている。
 
(4)「第二部構造改革への具体的な取組」について
ア 規制改革・構造改革特区
 規制改革に関しては、医療・福祉・教育・農業など、官の関与の強いサービス分野の民間開放を促進することにより、消費者・利用者の選択肢の拡大を通じた多様なサービス提供を可能とするとともに、新規需要と雇用の創出を加速化するものとされ、「規制改革推進のためのアクションプラン」(平成15年2月17日総合規制改革会議)で指摘された12の重点検討項目について、それぞれの改革の方向性が示されている。
 また、構造改革特区に関しては、地方や民間から定期的に全国規模の要望及び構造改革特区の提案を受け、全国又は特区での規制改革を強力に推進するとともに、特区においては、規制の特例措置の効果等を評価し、特段の問題のないものは速やかに全国規模の規制改革につなげるものとされている。
 
イ 資金の流れと金融・産業再生
 この改革は、資金の面でも、「官から民へ」流れが戻り、家計の豊富な金融資産が民間の成長分野に円滑に投資されるよう改革するものである。
 具体的には、不良債権問題を解決し、金融機関の仲介能力を再生させ金融システムの強化を進めること、証券市場の構造改革・活性化により、直接金融の拡大・充実を図ること、郵便貯金・簡易保険等の資金の調達・運用やリスク管理のあり方等について引き続き検討すること、産業再生機構等を活用して企業の事業再構築や産業再編等を促進することなどが掲げられている。
 
ウ 税制改革
 この改革は、持続的な経済社会の活性化を目指し、将来にわたる国民の安心を確保する税制への改革を進めるものである。
 具体的には、「基本方針2002」の考え方を踏まえ、「改革と展望」で掲げた、持続的な経済社会の活性化のための財政改革、税負担と社会保障負担の総合的な検討、国庫補助負担金・地方交付税・税源移譲を含む税源配分のあり方、を中心に引き続き税制改革に取り組むことなどが示されている。
 
エ 雇用・人間力の強化
 この改革は、雇用について、年齢を問わず能力を開発し、拡大するサービス産業などで仕事の機会が得られる労働市場を作ることを目指し、特に若年者の職業的自立や女性の能力発揮のための取組、高齢者の活用を図るとともに教育については、義務教育から大学までの教育の質を高めようとするものである。
 雇用制度改革に関しては、個別総合的な職業相談・紹介体制の整備や、自治体と地域の企業・学校・ハローワーク・民間事業者等の連携に基づくワンストップ・センターの整備等が、また、雇用機会の創造に関しては、「530万人雇用創出プログラム」の推進や起業による就業機会の拡大等が挙げられている。
 教育改革等に関しては、「確かな学力」の向上を目指す義務教育改革や、国立大学の法人化を通じた大学改革等が示されている。
 
オ 社会保障制度改革
 社会保障制度については、現状の制度を将来にわたって維持すれば、高齢化に伴い若年世代の負担が増加し、若年層の負担の重圧により経済の活力が阻害される懸念があること、また、少子高齢化の進行を背景として度重なる年金制度の改正が行われたことや世代間の不公平があることによって国民の年金不信が強まっていることなどが指摘されていることから、世代間・世代内の公平を図り、持続可能で信頼できる「社会保障制度」に改革しようとするものである。
 社会保障給付費に関しては、持続可能な社会保障制度の確立のため、その伸びを抑制することが示され、年金制度に関しては、給付・負担水準の見直しや国庫負担のあり方等の基本方針に沿って、恒久的な改革を実施すべきことが記されている。また、医療制度改革や介護保険制度に関しても指針が示され、社会保障サービスの一体的な設計の必要性が指摘されている。
 
カ 「国と地方」の改革
 「国と地方」の改革については、「2 三位一体の改革の動向」のなかで述べる。
 
キ 予算編成プロセス改革
 この改革は、財政構造改革を進めるに当たり、予算の質の改善・透明性の向上を図るため、事前の目標設定と事後の厳格な評価の実施により、税金がどのような成果を上げたかについて、国民に説明責任を果たす予算編成プロセスを構築しようとするものである。
 
(5)「第三部 16年度経済財政運営と予算のあり方」について
ア 経済財政運営の考え方
 「基本方針2003」においては、景気の現状に係る認識について、概ね横ばいで推移しており、企業部門は持ち直しつつあるが、株価の動向や米国経済等、引き続き不透明感が見られ、また、デフレについては、依然厳しい状況が続いているとしている。
 その上で、平成15年度については、構造改革の推進や補正予算の実施、税制改革による減税、さらには世界経済の回復などから、民間需要中心の緩やかに回復していくと見込まれ、デフレについては、物価の下落は継続するものの、需要等の回復により、デフレ圧力は徐々に低下していくと見込んでいる。平成16年度については、「基本方針2003」で示す構造改革を強力に進め、不良債権問題を集結させることを目指しつつ、デフレ克服に向けた総合的な取組を進めることで、デフレは改善され、緩やかな回復過程をたどると考えられるとしている。
 こうした状況の下、当面の経済財政運営の考え方として、「改革と展望」に則し、日本銀行と一体となって、デフレ克服に向け、強力かつ総合的な取組を実施するとともに、経済情勢によっては、大胆かつ柔軟な政策対応を行うとしている。
 具体的には、(1)規制面については、構造改革特区を突破口としながら、国民生活に直結した分野での改革を徹底し、成長分野における潜在需要を喚起すること、(2)金融面については、平成16年度における不良債権問題の終結を目指し、「金融再生プログラム」に基づく諸施策を着実に実施することにより、金融仲介機能の回復を図り、資源の新たな成長分野への円滑な移行を可能にすること、(3)税制面については、引き続き、持続的な経済社会の活性化を目指し、将来にわたる国民の安心を確保する税制への改革を進めること、(4)歳出面については、民間需要に力点を置いた大胆な重点化を行うとともに、社会保障制度改革等と併せ、持続可能な財政構造を構築することを通じて、国民の将来不安を払拭し消費や投資を喚起することが掲げられている。
 さらに、中期的な経済財政運営の考え方として、経済活性とデフレの克服に向け、政府・日本銀行一体となって早期のプラスの物価上昇率の実現に向けて取り組むこととされている。また、「改革と展望」に沿って、2006年度までの政府の大きさが2002年度の水準を上回らない程度とすることを目指すとともに、国と地方を合わせたプライマリーバランスを、2010年度初頭に黒字化することを目指すとされている。
 
イ 平成16年度予算における基本的な考え方
 「基本方針2003」では、平成16年度における基本的な考え方として、「官から民へ」、「国から地方へ」といった改革を全面的に推進するとともに、財政規律を維持しながら民間需要や雇用を創出するために、予算を「根元」から見直し、大胆なメリハリをつけ、将来のために活用し、さらに、持続可能な財政の構築に向け、簡素で効率的な政府を実現するとしている。
 その、実現に向けて、具体的には、まず「財政改革路線の堅持と財政の持続可能性の確保」として、「改革と展望」に示された「政府の大きさは現在の水準を上回らないことを目指す」との方針を踏まえ、一般会計歳出及び一般歳出ともに平成14年度水準を下回るものとなった平成15年度予算同様に、平成16年度予算においても歳出改革路線を堅持し、国債発行額についても極力抑制することとしている。
 次に、「予算編成に当たっての重点と抑制の考え方」では、予算の配分に当たっては、民間の潜在力を最大限引き出す政策を重視するとともに、「基本方針2003」の「第二部構造改革への具体的な取組」を促進しつつ、「活力ある社会・経済の実現に向けた重点4分野」(「基本方針2002」)の考え方に沿い、施策を集中することとしている。
 一方で、抑制の考え方として、予算全体についての単価の引き下げ、総人件費の抑制、「三位一体の改革」を推進する中での地方向け補助金等の廃止・縮減等の改革、組織の整理合理化等の推進、特殊法人等向け財政支出の抑制、独立行政法人の業務実績評価の予算への反映などが示されている。
 また、「主要予算の改革」として、歳出の聖域なき見直しのためには、緊要性・政策効果等について「根元」から洗い直し、「官から民へ」、「国から地方へ」、「利用者選択の拡大へ」、「ハードからソフトへ」といった基本的な考え方に沿って、効率化・削減を強力に推進する必要があるため、(1)社会保障、(2)雇用関連、(3)科学技術、(4)教育・文化、(5)社会資本整備、(6)農林水産関連、(7)地方財政、(8)環境関連・その他、の8分野についての概算要求段階からの取組について示されている。







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