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3 まちづくり事例調査
岐阜県恵那郡山岡町―「全戸加入」の特定非営利活動法人まちづくり山岡−
 
(1)山岡町の概要等
 人口5,512人、1,603戸(平成12年国勢調査)、面積60.96km2
 明治時代の合併により、馬場山田村、久保原村、上手向村が遠山村に、下手向村、釜屋村、原村、田代村が鶴岡村に合併。昭和30年町村合併法により両村が合併して、山岡町が誕生。
 古くから三大産業として「寒天」「陶土」「農業」として栄える。特に「天然細寒天」製造は全国一の生産量。
 現在、恵那市、岩村町、明智町、上矢作町、串原村と合併協議中であり、平成15年2月に法定協議会に移行、平成16年10月合併予定であり、5万人規模の市へ昇格予定。
 
資料:町政要覧より
 山岡町は、岐阜県の南寮部に位置し、東は恵那郎岩村町、西は瑞浪市、南は恵那都明智町、北は恵那市に境している。
 面積は60.96km2、東西14.2km、南北9.2km、海抜最高843.5m、最低281.6mで中央部を東から西へ小里川が貫流。これに沿って盆地を形成している。
 
(2)設立経緯・理由
 「自分達の地域は自分達の手で」という自治の観点から、合併後の山岡町のあり方をにらみ、山岡町の良さ(区長と行政との関係、町独自事業及び住民が一同に交流できる機会であった村祭りなどのイベントなど)が、合併をすることにより無くなってしまわないようにという思い、また、これまで山岡町が育んできた住民主体の独自事業(45事業)の継続性も危ぶまれるため、新市に引き継げないものを住民が行なう、住民が中心となった事業の受け皿をつくろうという思いから、一つの手段として「全戸加入のNPO法人化」が検討された。
 一戸も欠けないことこそ意味あるとして、町長を始め関係者が熱心に住民に働きかけ、2003年3月に全戸の合意が成立し、平成15年3月26日設立総会、4月30日設立認証申請、7月29日付(30日受付)岐阜県より認証、8月5日法人登記、9月1日発会式が行なわれた。
 現在、町内にNPO法人は「まちづくり山岡」のみである。
 
特徴的な独自事業として
○区長制度 すでに確立されており、毎月2回区長会議を行っている。また副区長に女性を置いている。
○町営バス運行 山岡駅〜瑞浪駅を二台、無料で運行している。企業に事業委託すると4,500万円程度かかるが、運転手をチラシ等で募集し、臨時職員として7、8名を採用し、町は賃金として支払っている。ガソリン代込みで総額2,000万円程の支出となる。一人7日(日給22,000円)くらい従事することで、約20万円程度の収入になり雇用の場の創出となっている。現在、合併後の事業の摺り合わせでこの事業を継続するように話し合っている。
○町営駐車場の借り上げ名古屋などの町外へ勤務するものも少なくないため、瑞浪駅裏の民有地に50台分を確保し、45台を月5,000円のうち2,000円を町が助成している。5台分は時間貸しをしている。
○夢のカップル制度 結婚相手の紹介を行っている。この制度で町職員2人が結婚している。
○コミママ子育て支援制度 県の100%補助(50万円)により、主に専業主婦が中心(保育士などの有資格者もいる)となって、公民館で保育をしている。学童保育も行っている。
○沖縄短期移住制度 今年の1月から実施。長寿の村沖縄県大宜味村に短期移住(2週間程)し、公民館に寝泊まりし、料理教室、さとうきびの収穫手伝いなどを実施。当初は現地でアルバイトをしながら過ごして欲しかったが、現地に職がないため断念。第1回目は老人クラブにお願いしたので、参加年齢層は高い。町からの持ち出しは、食材代、風呂の設置費用、移動バスの借上げ、現地での講演会の費用等。県から50万円の補助を得ている。
 
(3)まちづくり山岡組織構成
 組織内グループとして、まちづくりを担う16委員会を設置し、役員や各委員会の委員は公募によって、約220人の町民が選ばれている。NPO組織内での委員会を構成する委員は、主にその種の活動を行なっていた団体から選出し、一人で数種の委員会を兼ねる者もいる。
 顧問は町長、町議会議長であり、運営の助言を行なう。収入役と教育長、議員は参与。理事(任期2年)は現在の各区長からなり、その中から互選で理事長が選ばれている。設立時の理事者である前年度までの各区長は会長、副会長、委員として実質的な決定権を持ち、また幹事としてそのうちの2名が引き続き監査を行なっている。有給職員は事務職員一名。
 
組織構成図
資料:山岡町資料より
 
ア 活動内容
定款に掲げる活動分野は、
(ア)保健、医療又は福祉の増進を図る活動
(イ)社会教育の推進を図る活動
(ウ)まちづくりの推進を図る活動
(エ)文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
(オ)環境の保全を図る活動
(カ)前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動
 
イ 非営利活動事業
(ア)各種イベントの推進事業
(イ)各種保険、福祉サービスの提供に関する事業
(ウ)一斉清掃等環境の保全事業
(エ)社会教育の推進に関する事業
(オ)まちづくり活動活性化のための調整、助言及び支援に関する事業
 
ウ 収益事業
(ア)受託事業
(イ)バザーの開催
(ただし、特定非営利活動に係る事業に支障がない限り行なうものとし、その収益は特定非営利活動に係る事業にあてるものとする。)
 練習期間と位置づけられた今年一年の取組として、各種祭典(夏のふるさと祭、秋の文化祭、産業祭、健康祭、体育祭など)の主催を担っている。また、マネジメントを向上させるため、先進団体への視察を予定している。
 
(4)財政面
 会員である各世帯より2,000円ずつ年会費を徴収している。この会費は、財源というよりは、参加意識を高める手段といえる。結果的に、従来行政が担っていた業務をNPO法人が担うことにより、基本的に行政は補助金のみの支出であるので、負担は軽くなっている。
 
(5)全戸参加の背景
ア 強固な地域自治組織
 明治以降の合併により7村から現在の山岡町に至る(旧7村は現在も8区として残っている)。各区長が地域のまとめ役となっており(現町長就任以降、各副区長に女性を置いている)、区長の下に組長(組数はおよそ55)が置かれている。町長−区長−組長−住民の関係が築かれており、地区からの要望は区長を通して町役場へ、地区で実施する事業は町役場から区長を通して行なうことが確立されている。区長には事務委託者として年間17万円ほど支払われているが、かなりの事務量となっている。
 
イ 女性政策の充実
 従来、まちづくり活動の中心は高齢の男性を中心に行なわれ、女性や若者の声が反映されにくい状況であった。このような状況下で、主だった取組は、
(ア)女性政策室
 1995年、女性政策室が新設される。行政職員(役職者)や各機関の女性比率も県内では高い。
(イ)おばあちゃん市
 1995年夏より、自家消費のために作っていた野菜を持ち寄っての朝市「おばあちゃん市」がスタート。その後、直売所を整備、加工品づくりを始め、食堂経営など活動を拡大している。
※平成14年度農林水産大臣賞受賞、平成10年農林水産省農村高齢者対策優良活動地域表彰事業「優良賞 全国農業協同組合中央会会長賞」受賞
(ウ)子育て支援グループ「コミママクラブ」
 元保育士、保育サポーターなどの子育て経験が豊かな女性を中心に、公民館の一室を「なかよし広場」として運営。乳幼児や放課後の小学生を預かっている。
(エ)婦人会
 町内を巡視し、ゴミの不法投棄や空き缶回収、ごみの分別収集の指導を行なう総合環境整備事業(2000年から町の補助を受けている)を行なっている。2004年度より全戸加入の地域婦人部として新たなスタートをする予定。
(オ)副区長制の導入
 2000年より、区長会に副区長制を導入し、婦人会の役員が務めることとなったため、女性が行政に関心をもつようになってきている。
 住民主体による活動のほとんどは、女性が中心となった活動である。
 
ウ テーマ型住民参加組織
 町長の諮問機関として「21世紀委員会」が設置され、その下にテーマ毎に部会が置かれた。部会のメンバーは公募され、各テーマ部会を総称して「1000人委員会」と呼ばれた。
 初年度事業としては、「福祉ネットワーク」「山岡の農業を考える」「新教育の町」など18の部会が発足し提言を行なった。そこでの集まりが発展して、地区ごとのボランティアにより介護予防拠点施設を運営する宅老所「ふれあいサロン」が開所するなどの波及効果も出ている。また、第4次総合開発計画(2001年度からスタート)は1000人委員会の提言をベースに策定された。
 基本的には、伝統的地縁組織(区長会)、テーマ型住民参加組織(21世紀委員会・1000人委員会)、女性グループ(婦人会など)の三者連携により、活発な住民主体のまちづくりが進められてきていることが、全戸加入のNPO法人設立へつながっている。
 地域としては区長制度が残り、似ている部分もあるが、法人格をもったNPOが併存していくような形を作り出そうとしている。
 そして、行政に依存しすぎない、主体的な活動を通じて「自分達の地域は自分達で」という意識の下、山岡町の独自性・良さを維持・発展していこうとしているとともに、地域の結束力の強化、新たな雇用の創出を模索している。
 
(6)課題・展望
ア 事業について
・NPOで何でもできるわけではないので、今まで住民がやってきたことに対するNPO山岡としての関与の仕方はこれからの課題である。また、新市に引き継げる独自事業と、NPOが受け皿となる独自事業の振り分けも必要である。
・イベントなどは、これまでは行政主導でマニュアル化されていたが、今後は住民主導でやっていかなくてはならないため、独自にマニュアル化していかなくてはいけない。
・現在、委員会委員・長は既存組織のメンバーがなっているが、今後は委員会に入るにあたって資格・条件などの整備が必要となってくるだろう。また、町民全員に活動分野を登録してもらうことも検討しており、会員の管理業務が大変になってくるのではないかと予想される。
 
イ 運営・財政面
・今後は単なる受け皿ではなく、積極的に行政に政策提言していくための政策形成能力、NPO法人を維持していくためのマネジメント能力が必要となってくる。
・次年度以降の財政的裏付けがとれていないため、予測がつかない。
・合併後には、旧山岡町庁舎は支所となる可能性が強いため、支所機能の充実度によって、活動に影響が予想される。また、合併特例法による地域審議会、地方制度調査会による地域自治組織の実現の有無によって活動に影響を受ける。
 
(1)海外の動向
 
 海外の事例をみると、アメリカやフランス、ドイツ、スイスなどでは、基礎自治体は小規模できわめて数が多い。これらの国では、人口数百の村でも自立的に生きているところも少なくない。もともと住民自治の意識が極めて強いこと、医療や交通網整備など基本的な事業は国や州が行っていること、辺境の小村も国防上や環境保全のため重要であるという認識から、直接給付が行われていることなどがその理由である。一方、イギリスやスウェーデンでは、行財政改革や福祉の拡充のため、過去にきわめて強く合併を推進してきた経緯があり、基礎自治体の規模は大きく数は少なくなっている。
 
アメリカ スウェーデン
約3万6千の基礎的自治体があり、平均人口は約7千人。州の下部組織である郡(カウンティ)が基本的なサービスを担っているが、住民自らの負担でより高いサービスを望む場合は市町村をつくることができる。市町村が採択した「ホームルール」や憲章は、州憲法に違反しない限り認められる。このため多種多様な自治体が存在している。 福祉国家を実現するためには自治体の能力を強化する必要があるとして、52年に最低2千人をめどに境界線を引き直した。自治体の数は約2,500から千に減ったが、59年にはさらに、最少人口を8千人とする勧告が出された。自主合併から強制合併への政策転換が図られ、74年までに自治体の数は約280に減った。その一方で自治体への分権は進み、地方自治は根付いている。
フランス イギリス
フランスの基礎自治体は「コミューン」と呼ばれ、その数は3万6千とフランス革命前からほとんど変わっていない。平均人口は1,500人。一方、地方行政を担う中央政府の出先機関が整備され、サービスを提供する責任はコミューンではなく、出先事務所や県にある。コミューンを合併して規模や能力を強化することはもともと期待されていない。 基礎自治体の平均人口は約12万人で、各国に比べても格段に多い。財政危機を背景にサッチャー政権が自治体の再編や歳出削減に取り組んだ結果だ。日本の「平成の大合併」と事情が重なる。80年代に欧州各国の中で唯一、地方分権とは逆行する改革だった。その結果、50年代には2千以上あった自治体は、92年には約480まで減った。
資料)朝日新聞 平成14年11月25日







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