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4 県内事例にみる工夫点
 今回、観光レク関連事業者等アンケートに協力していただいた事業所や団体より、港湾の立地、観光レクリエーション機能の種類及び運営主体の特色から見て、港湾利用のタイプ別に幾つかの事業所又は団体を抽出し、現地調査(一部電話インタビューを含む)を実施した。
 その結果、調査対象となった事業所や団体が、民間の立揚にありながら、海域の利活用・保全に対して極めて公共的な機能を担っている様子が把握でき、(自然環境の調査研究、環境保全、資源管理、マリンスポーツ振興、離島観光振興等)。これらの事業・活動については、国・県・地元市町村行政、観光協会等の地元団体と様々な形で協力・補完しあい、あるいは干渉しあう関係にあることもわかった。事業所や団体は、漁業者との利用調整、港湾やその他海域の利用に関わる様々な制度について、行政の柔軟な対応を希求する姿勢をもっている。
 その一方で、「活動者自身がより主体的に海を楽しみ、守る」態勢づくり、マリンレジャーへの理解促進、魅力的なサービスの提供、スポーツ・文化の振興に向けて、民間ならではの力を発揮していきたいとの意向もみられる。このように、港湾や海域の利用については、民間の知恵やセンス、ネットワークとの連携が大きなポイントになると考えられる。
 以上の事項に共通して、行政とのコミュニケーションがまだ不足しがちであることが指摘された。公民がそれぞれの立場をより具体的に理解しあい、それぞれの役割を発揮していくことで、港湾・海域利用の魅力は一層高まることが展望されている。そのためには、地元地域がそれぞれの港湾及び地元の海とより主体的に関わり、様々な立場をつないでいくことが先決と考えられる。
 以下には、県内事例調査の結果概要をケースごとに整理しておく。
 
(1)自然環境を守り、漁業と共生する海のレクリエーション拠点〜西海パールシーリゾート〜
 港湾利用タイプ:本土重要港湾(市管理)に位置する複合的な観光レクリエーション施設(第三セクター)
地域概況
観光
佐世保市=JR・松浦鉄道佐世保駅、西九州自動車道、佐世保港(至上五島等)
人口約24万人、県北の中核都市。軍港、造船の町
自然資源:西海国立公園(九十九島)など
人文資源:戦争遺跡等
観光施設:ハウステンボス、西海パールシーリゾート、アルカス等
利用港湾 重要港湾佐世保港(鹿子前地区=市管理)
事業概要 ○事業開始時期:平成6年
○事業内容:博物展示施設管理運営受託、観光船ターミナル、物販飲食施設(自社直営・テナント貸)、園地管理受託、マリーナ、九十九島遊覧、ヨット・シーカヤック、修学旅行、イベント、佐世保地区小型船舶安全協会事務局、九十九島調査室(自社)あり
○主なプログラム(売りにしているもの) 九十九島遊覧、体験型プログラム(生ガキ、真珠玉出し、ヨット・シーカヤック、九十九島の調査・情報発信等)
○利用者の状況(施設全体)
H11:824000人 H12:836400人 H13:877300人 H14:1216600人
H14遊覧船新造効果あり。体験型の修学旅行(ヨット・シーカヤック体験等)が増えてきたなどの傾向もみられる。駐車場が広いこともあり、散歩やピクニック的な利用も多い。マリーナ利用は、145隻分中現在142隻係留。
○主なPR方法
マスコミの活用、エージェントヘの売り込み、イベント開催、地元と連携したPR
女性船長起用などによる話題づくり、ハウステンボス等周辺とのタイアップ
○タイアップ機関
*市が50%(株)所有の第三セクター
市経済部観光課九十九島係、佐世保市漁協・相浦漁協、ホテル、佐世保観光コンベンション協会等
特性
問題点
○重要港湾内×国立公園内という条件
九十九島の自然環境は、県及び地元の共有財産。ここに立地し、かつ海を楽しむ観光港になっていることが固有性ある施設魅力の核であり、自然環境保全の砦でもある。また、車で10分程度のところに米軍基地・自衛隊基地があること、県内唯一の市管理重要港湾という点も大きな特徴。自然と産業が共存し、イメージの統一が図りにくい面もある。
○漁業との調整問題
漁業者との調整は計画当初から大きな課題であり、現在は理解を得ているが、マリンレジャーを楽しむ人のマナーの向上など、配慮も要する。
○通過型観光地としての問題
宿泊施設を設けない方針でスタート。貸切の観光バスでハウステンボスや平戸への周遊観光で立ち寄り、遊覧船乗船のみで、滞留・消費がない点が悩み。ハウステンボス不振の余波もある(佐世保のイメージダウン、ハウステンボスからの流入減少等)
工夫点 ○公民の二人三脚体制の確立
事業の本源は市観光課九十九島係(九十九島の活用と保全を遂行)。市有地に市が施設整備→第三セクターに運営管理(一部自社施設あり)。自社物販施設をテナントに貸すなど運営体制が市・地元と密接で、経営面だけでなく、漁協、国や県、地元企業等との連絡、自然環境の保全や海洋文化の形成など公益的にも有効な体制としている。
○漁業等地元産業との調整の工夫
次のような工夫をしており、参考になる点も多い。
・海面使用料+遊覧船収入の一部(客数当たり歩合)を両漁協に支払い
・定例会(懇親会)を年1〜2回主催
・営業面でのタイアップ(いけす餌やり体験、カキ祭り、真珠玉だし体験、無人島瀬渡し等)
また、次のような配慮もみられる。
・ホールやチャータークルーズ時の弁当に周辺の商店を斡旋
・マリーナは係留のみで修理などのサービスはしない(近隣のマリーナを利用)
○自然環境の保全活用 社内に「九十九島調査室」を置いて生態調査を実施(国県委託調査を含む)。これは水族館運営にもメリットであり、観光資源の保全、施設のイメージアップにも貢献している。
○ユニーバーサルな施設づくり
施設及び新遊覧船は、バリアフリーで高齢者・障害者も利用できる。また、英・中・韓国語のパンフレットを用意するなど、国際観光にも対応している(*韓国、台湾からのツアー客などがみられる)。
将来に向けての
課題やアイディア
○自然体験型プログラムの本格展開
国・県の「ダイヤモンド計画」の対象地である点も活かし、九十九島に関する調査研究や自然環境・水産物の保全活用、漁業との一層の円滑なタイアップに力を入れる方向。体験は今後のキーワード。亀の子島での自然観察、ヨット・シーカヤック、真珠体験などが目玉になると考えている。自社ではイルカセラピー等も検討中。
○パールシーを核に、多様な楽しみの拡大による滞留性の向上 通過観光地からの脱却を狙うには、佐世保市全体の楽しみ方の開発が重要。夜の楽しみ、グルメなどには米軍基地のある環境を活かし(ジュークボックス、ハンバーガー、海軍シチューなど)、周辺観光には近代化遺産(レンガ倉庫群)なども活かしたい。
 
(2)民活で海の楽しみを広がる基地づくり 〜長崎サンセットマリーナ〜
 港湾利用タイプ:本土重要港湾に位置するマリーナ(第三セクター)
地域概況
観光
長崎市=JR長崎駅、長崎港(至五島列島等)
人口約42万人、県都。
観光資源・施設:原爆資料館、日本26聖人等
利用港湾 重要港湾長崎港(福田地区)マリーナ港
事業概要
H5〜
○事業目的:マリーナ機能を核に集客機能を持つ多機能マリンタウンの経営
マリンスポーツの振興とマリンライフの大衆化を通じ地域社会に貢献
○施設内容:ヨットハーバー・陸上舟艇保管ヤード、クラブハウス、サービス工場、飲食・研修施設、グラウンド、多目的広場、芝生公園、駐車場(210台分)
○主な事業:マリーナ事業(会員は100人)、舟艇及び船舶用品販売・メンテナンス、スキューバダイビング(港湾内で教習)、ブライダル・レストラン(テナント)
*このほか出島ハーバーの経営があるが、ここではサンセットマリーナについて
○利用者の状況(施設全体)
H11:21000人 H12:20000人 H13:25000人 H14:28000人 H15:30000人
施設全体の入込は5万人程度。利用料引き下げ、レストラン・ブライダル等の人気向上で増加中。
○主なPR方法
ホームページ、マスコミの活用、エージェントへの売り込み、イベント開催、地元と連携したPR等
○タイアップ機関
トヨタ自動車関連企業、地元有力企業、長崎県、長崎市
特性
問題点
○民間主導へ
第三セクターの見直し、県内の大型観光施設が次々と危機を迎える中、民間企業が主体となって、企業の社会貢献事業の一環として経営再構築を図り、サンセットマリーナの総合的な施設の利用活性化に向けて取り組んでいる。
○マリンレジャー対策の遅れ
長崎港は観光港でありながら、プレジャーボート(釣り船が多い)放置艇問題をみても、出島ゲストバースの利用の低さをみても、未だ遅れている(行政の対応の遅れ、マリンレジャーは高価なものとのイメージがあること、漁業権との調整等々)。
工夫点 ○マリーナを身近なものにする工夫
一般客が利用しやすくなることは、施設経営面からも、マリンレジャー振興にも有効という視点から、東京で人気のハウスブライダル業者をテナントとして導入した。レストランもお酒落に改造し、市民から好評。
○体験学習の推進
〜市とのつながりを強化〜
隣接する小学校と今年初めてタイアップし、5年生の総合学習の時間にペーロンとカヌー体験学習を実施予定。予算は国土交通省の支援を獲得。体験学習事業では、「修学旅行でペーロンをやってみよう」と推進したいが、実現には市の支援が必要(学校との橋渡し、予算面等で)。
○マリンレジャー普及の工夫
〜ニーズの顕在化に向けて〜
マリンレジャーは高コストというイメージだったが、小型船舶は180〜200万円(中古なら100万円程度)で入手でき、マリーナの保管料(20フィート18万円/年〜)も併せてもマイカー所有より安いような時代になってきた。「3台目のクルマはボート&ヨットに」をスローガンに、普及を進めている。今年は35隻の保管艇が増えたが、ほとんど一般庶民。定年退職者が港近くに越してきて夫婦で中古のヨットを購入してマリーナに保管し、マリンライフを楽しむことも現実となってきた。ニーズは確実に変化しており、試乗会などにも一般客が殺到するようになってきた。一層の普及に向けて、釣りやダイビングなど、海の楽しみを広げる教習活動に力をいれている。
○多角的な事業の結集でマリンレジャーを推進
マリンレジャーの普及と施設経営の2大目標に力を結集するため、極めて多角的な努力がなされている。整理すると、
・種々のイベントの開催
・長崎港のマリンレジャースポット告知の提案ツールの作成
・海の楽しみの教習事業(釣り、ダイビング、カヌー等々)
・価格の大衆化(マリーナ使用料等)
・小型船メーカーとのタイアップ
・周辺事業の充実(貸ホール、レストラン、学校と提携した体験学習等)
多角的な事業を統合化し、地域に根ざした事業展開としていくためにも、最も身近な自治体である市とのタイアップが有効との認識がみられる。
将来に向けての
課題やアイディア
○「マリンレジャースポット長崎」構想の推進
サンセットマリーナと出島ハーバーを起点に、伊王島、高島、軍艦島を回る海洋レジャーコースの告知強化を県民・市民及び県外の観光客にPRしている。
○長崎市クルーザーレースの実施
帆船まつりでの一般客無料体験クルーズが好評。更に小型ヨットレースは8月に県知事杯が実施されているが、帆船まつりのある4月下旬には、初の「市長杯レース」も企画したい(出島ハーバーの利用活性化も狙い)。







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