第4章 マップをWWW経由で維持利用するシステムのあり方
1 実証実験から明らかになった課題と対応策
(1)現地調査のマニュアルの整備
データベースであれば、そのデータの網羅性・均質性・鮮度・信頼性が求められる。本システムは1つのデータベースを分散・協調によって構築・維持していこうとするものであるが、そのためには新たな組織・団体が参加してきたときのためにも、現地調査のマニュアルを整備して、ノウハウの共有化が必要であろう。
その際、調査を安全かつ効率的に実施されるようにすることと、調査者と編集登録者が異なる場合にも、スムーズに必要かつ十分な情報が受け渡しされるようにすることなどに配慮する必要があろう。
また、データの均質性・信頼性を確保するために、マニュアルには登録対象の一覧やその定義、ガイドライン等が用意されていなければならないだろう。
(2)携帯電話等の活用による現地調査の効率化
今回の実証実験において、調査票と写真を整合させる作業負担は軽いものでなく、しかも間違いが生じやすいことがわかった。
GPS機能とデジタルカメラ機能の付いた携帯電話や携帯端末(PDA等)とのシームレスな利用を図るなどの方法により・地図上の位置、内容、写真画像が一括して管理・登録しやすいようにし、現地調査の負担が軽減されるよう検討することが望ましい。
(3)情報の鮮度と情報源の多様化
Web上のバリア(フリー)情報が利活用されるためには、その情報が正確で信頼性があり、有用なものであるとして認識されることが必要である。そのためには、そうした情報の正確性や鮮度を保っていくことが必要であり、住民団体等の継続的な活動が不可欠であるが、アンケート結果等を見ると、人手不足などで必ずしも継続的な活動ができる状態とは言えない状態にある。行政は、住民団体等が自立し、継続的かつ主体的に活動ができるようになることを目指して、一般市民の関心を高めるように活動内容を積極的にPRし環境を整えることや、住民団体等への助成等による側面支援を行うことはもちろんのこと、場合によっては職員を立ち上げの一定期間派遣するなど人的支援も視野に入れて活動を支援していくことが必要である。
また、情報の利活用にあたっては、情報の利用者の視点というものも重要である。つまり、障害者にとっては障害者がバリアに感じる情報、お年寄りにとってはお年寄りがバリアに感じる情報、子どもにとっては子どもがバリアに感じる情報が必要であり、そうした利用者の視点を無視した一般的なバリア情報だけでは、必ずしも活発な利活用にはつながらない。今回の実験ではそのあたりの視点が若干弱くなってしまった。
今後はこうした点を踏まえ、障害者団体や学校、福祉活動団体など地域のあらゆる団体を巻き込んでいくことが必要となる。現在本市には中間支援組織が多くないため、行政はそうした組織の育成を図る一方で、橋渡し役を務めることが求められる。
(4)公開情報の活用度評価
マップを作成する側にとってみれば、自分たちの情報が確実に人の役に立っていると認識することが大切であり、活動を継続していくためにも重要なことである。この点、今回の実証実験のアンケート結果の中で、「この仕組みを利用してより一層楽しく情報を蓄積し、住民みんなで共有していくためにはどうすればよいか」との質問に“自分の情報を見た人の声が届くようにする”、“登録情報を閲覧活用してくれる人を増やす”と回答している人が多いことにも表れている。こうしたことから、今後も住民団体等の主体でバリア(フリー)情報等をWeb上に公開し、住民にみんなで共有化していくためには、情報に対する反応が何らかの形で反映されるような仕組みをつくることが必要である。
また、行政はこうした情報を重要な情報源と位置づけ、可能な限り施策に反映し、マップを作成する住民団体等に活動の重要性を認識してもらう努力が必要である。
(5)情報の整理と多様なマップの形成
今回の実証実験では、バリア情報とバリアフリー情報を同様に扱ってしまったため、マップ上には両方の情報が存在することになり、「バリアマップ」なのか「バリアフリーマップ」なのかわからない状態になってしまった。今後は、マップ自体を区別する、あるいはアイコンを分けるなどして、情報の混乱を防ぐ工夫をする必要がある。
また、(3)でも触れたが、その人それぞれで感じるバリアというものが違うということを考慮して、お年寄りのためのバリアフリーマップ、子どものためのバリアフリーマップ、車椅子の人のためのバリアフリーマップなど様々な利用者を想定した多用なマップを形成していくことが求められる。
地域の情報を共有するためのマップをwww経由で維持利用するシステムは全国的にも例が少なく、一般の人々に対する認知はほとんどないと言うに等しい。
本市は、まちの情報を行政と住民とで自立・分散・協調しながら、維持管理・共有し、行政=住民間および住民=住民間の合意形成、パートナーシップ、コラボレーションなどによる「まちづくり」に結びつけてゆくとの考えから、このシステムの開発を推進しているが、ここでは今後の利用普及及び活動の展開について整理を行う。
(1)利用普及及び活動展開にあたっての目標体系
今後の利用普及及び活動の展開に関する目標体系は以下の通りである。
○利用普及の推進(地域住民による地域住民のための地域の情報共有の推進)
第1段階:体験の機会づくりなどを通じた受動的参加
第2段階:住民団体等の能動的参加
○住民団体等の自立
第1段階:本市による育成・支援下における住民団体等の活動
第2段階:住民団体等の自立
○住民団体の関係づくり
第1段階:
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各住民団体等の活動におけるデータの網羅性・均質性・鮮度・信頼性の実現
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第2段階:
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同一テーマの活動の組織化(テーマ別連絡協議会の形成)
と同一テーマの活動におけるデータの網羅性・均質性・鮮度・信頼性の実現
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○行政=住民間の関係づくり(本市の行政運営・施策への反映)
第1段階:本市が地域情報の中から活用できるものだけを活用する
第2段階:本市にとっても使い勝手の良い地域情報のあり方を住民団体等と調整する
(2)施策体系と施策例
施策体系と施策例は以下の通りである。
目標のうち「利用普及の推進」に関しては「接点の多様化による体験機会の充実」と「テーマの多様化」により実現を図り、残りの目標のうち、「住民団体等同士の関係づくり(第2段階)」を除いては、「リーディングプロジェクトの実施」の中で知見を獲得し、実現を図るものとする。
○接点の多様化による体験機会の充実
・学校教育における学習・参加体験の推進
・社会教育における学習・参加体験の推進
・イベントにおける活用の推進
・熱意ある住民団体等の公募
○柔軟なテーマ設定
・展開(例:バリアフリーマップから安全・防災マップヘ)
・専門化(例:一般的なバリアフリーマップから高齢者あるいは障害者など利用対象者を具体的に限定したバリアフリー)
○リーディングプロジェクトの実施
・まちづくり協議会そね21の会及び原田校区福祉委員会との協働開発の継続的な実施
・小中学パイロット校との総合学習における活用カリキュラムの共同開発または開発支援
(3)施策
(1)接点の多様化による体験機会の充実
一般住民に対する本システムの認知を広げるため、さまざまな方法で体験機会を提供する。
ア 学校教育における学習・参加体験の推進
総合学習やクラブ活動で本システムの活用を推進する。活動の成果を保護者や、活動の際にお世話になった地域住民の方々にお知らせする。また、成果を学級間や学年間、あるいは学校間で紹介しあうことで、多様な状況やものの見方があることを知り、相互理解の機会づくり等に役立てることも考えられる。
なお、この活動を通じて、地域住民との共同学習を進めることは、地域教育力のいっそうの強化にもつながるものと考えられる。
イ 社会教育における学習・参加体験の推進
生涯学習講座やITリーダー・ITボランティア講習などでの活用を推進し、受講者への認知・啓蒙を推進する。
ウ イベントにおける活用の推進
本市及びその外郭団体等が主催する場合はもちろんのこと、市域内で行われるイベントの際に、活用されるようにして、住民が自然に触れる機会を提供する。具体的には、例えば「落とし物マップ」「屋台マップ」「暫定駐車場マップ」「御神輿ルートマップ」などである。「御神輿写真マップ」などと題してほぼリアルタイムで写真を掲載することも考えられる。
エ 熱意ある住民団体等の公募
本システムの登録編集利用の利用約款を策定したのち、本システムを試用したい住民団体等を公募する。場合によっては、リーディングプロジェクトに加えることも検討する。
なお、公募に関しては、住民団体等の志気・気運に配慮するため、随時受け付けを行い、できる限り速やかに試用できるようにし、テーマに関しても柔軟に対応することが望ましいと考えられる。
(2)柔軟なテーマ設定
柔軟なテーマ設定を認めることにより、興味関心を持つ層の拡大が期待される。
当面はバリアフリー関連情報を含む地域情報を軸にすることが適当であると考えられるが、地域によって最優先課題が異なることも予想される。また、小中学校での活用に関しても、学年等により取り上げやすいテーマがあるものと考えられる。
(3)リーディングプロジェクトの実施
先述の通り、マニュアルや各種ガイドライン、利用約款等の基本的ルールに加え、責任分界を明確にするための手続の内容とその方法など、本格的な展開のためには多方面に渡る基盤整備が必要である。また、携帯電話等の活用など、機能の追加や改善も必要と考えられるため、以下のリーディングプロジェクトを通じて、登録編集利用者と設計者等との協働の場を設け、いっそう登録編集利用者が行おうとする活動のニーズに適し、使い勝手も良いシステムの構築と環境を整えていくことが望ましい。
また、これらリーディングプロジェクトは、情報技術面の向上や支援を行うボランティア団体・NPOや、各種主体間の橋渡しや人材・資材・資金・ノウハウ・情報・機会等の提供を行う中間支援組織などに協力を求め、いっそう大規模な協働と助け合いのネットワークを構築する機会としても重要なものであるため、そのような機会となるよう意識的に実施されるべきであると考えられる。
ア まちづくり協議会そね21の会及び原田校区福祉委員会との協働開発の継続的な実施
本研究において実証実験の協力を得たまちづくり協議会そね21の会及び原田校区福祉委員会とは、今後も継続的に登録編集利用者と設計者等との協働の場として、開発への協力を依頼する。
また、あわせて「住民団体の関係づくり(第1段階)」や「住民団体等の自立(第2段階)」「行政=住民間の関係づくり(第2段階)」に関する推進方法検討のパートナーとして、協力を依頼する。
イ 小中学パイロット校との総合学習における活用カリキュラムの共同開発または開発支援
「学校教育における学習・参加体験の推進」のためにはモデルとなるカリキュラムの開発が必要である。いくつかの小中学パイロット校の協力を得て、総合学習において活用されるカリキュラムを共同で開発、あるいはそのための各種支援を行っていく。
また、小中学校においていっそう使い勝手の良いシステムとなるよう、設計者等とともに開発あるいは改善への協力を得る。
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