2003/10/17 産経新聞朝刊
【社説検証】(下)教育基本法 朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞
【社説検証】(下)教育基本法 朝日新聞
■理念もてあそぶ暇はない
基本法に盛り込もうとする項目は、ひとつひとつをみれば、うなずけるものがほとんどだ。生まれ育った土地の伝統や文化を大切にするのはだれにも異論はあるまい。郷土や国を愛するのも自然な心だろう。
理念だけの話なら改正しても害はないという意見もあるかもしれない。だが、報告は国家至上主義的になってはならないとしつつも、「日本人」や「心」が強調されていることが気になる。ほかの理念に比べて均衡を欠くほど突出すれば、行きすぎになりかねない。
文部科学省の主導で報告はこのまま答申に変わり、改正基本法案づくりに進みかねない。それはやがて指導要領の改訂や、これまで以上の教育現場への徹底となる。理念は理念にとどまらず、場合によってはゆがみを生ずることもある。
教育の現状を打開するのに、有効な処方箋(せん)とはいえない。理念をもてあそんではいけない。(14年11月15日)
■改正論議は不毛だ
基本法は教育の理念をうたっているものだ。理念をいじっても、いじめや学力低下への処方箋にはならない。基本法を変えれば解決できるほど、問題は簡単ではない。
今回の答申も現行法の理念を否定しているわけではない。現行法に加え、「公共への参画」や「伝統・文化の尊重」「郷土や国を愛する心」を入れたいというのだ。
教育基本法は、国家のためが主眼だった戦前の教育を反省して、つくられた。しかし、単純に個人の尊厳をうたっているわけではない。
一人ひとりの人格の完成をめざす。同時に、国家と社会の形成者としての国民を育成する。そういう目的を掲げて、個人と国家の関係に目配りをしているのだ。
これ以上、あえて法律に書き込む必要があるのだろうか。理念がことさらに強調されれば、学校が窮屈になる恐れもある。
哲学者の梅原猛氏は、いまの教育基本法について、世界に通用する理念だと評価している。そのうえで、現実を法律に近づける努力がされてこなかったと指摘する。
遠山文科相は基本法改正よりも、足が地についた改革を進めていくべきだ。(15年3月23日)
【社説検証】(下)教育基本法 毎日新聞
■中教審報告こそ見直しを
中間報告は基本法について「個人の尊厳」「真理と平和」「人格の完成」など憲法の精神にのっとった普遍的理念は大切にしつつ、「重要な教育の理念がなお不十分」だから見直しが必要とする。
そして不十分なものとして「家庭の教育力の回復」「『公共』に関する国民共通の規範の再構築」「日本人のアイデンティティー(伝統、文化の尊重、郷土や国を愛する心)の視点、国際性の視点」などを掲げる。
しかし、基本法に規定がなければできないことは何もない。多くは随分前から取り組まれている。この1年の議論は広がりも深まりもしなかった。各委員の言いっぱなしに終わった印象が否めない。熱意に欠けた。(14年11月15日)
■視野広げ、果敢に動こう
今の日本には旧態依然の内向きの対応が目に付く。その一例が中央教育審議会の中間報告だ。
問題なのは「日本人のアイデンティティー(伝統、文化の尊重、郷土や国を愛する心)の視点」を教育基本法に書き込むことに解決を求めていることだ。安易であり、本質から目をそらす。
愛国心や公共心は、普遍的な原理であり、身につけるのが望ましい。しかし法律に規定すればはぐくまれるものではない。危ういのは、スローガンとしての愛国心が容易に偏狭なナショナリズム、排外主義に転ずることだ。それが閉塞状況下で生じやすいことは、古今東西の歴史が示しており、戦前の日本も痛い目にあっている。(14年12月31日)
■改正は喫緊の課題ではない
教育現場は、「学力」低下、いじめ、不登校など深刻な危機に直面しているが、基本法に特定の規定があるために、あるいはないために起きているわけではない。新たに加える理念もそれぞれ大事なことだが、基本法に明記しなければできないことはない。
答申は、中間報告同様、なお説得力に欠け、改正の積極的意義は、認め難い。
文部科学省は改正法案作りを進め、今国会に提案したい意向だ。しかし改正論にも濃淡があり、与党内にも慎重論が聞かれるなど議論は煮詰まっていない。ここは十分に時間をかけるべきだろう。
教育荒廃の今、基本法改正のみに血道をあげることは、政治に引き回され、結果的に問題を拡散し隠ぺいする恐れがある。改正が喫緊の課題とは言えない。(15年3月23日)
【社説検証】(下)教育基本法 読売新聞
■改正を「再生」への一歩としたい
文部科学相の諮問機関である中教審が、教育基本法改正案の中間報告を答申した。
戦後、タブー視されることの多かった、愛国心や伝統の尊重、家族の役割重視などを打ち出しているのが、最大の特徴だ。日本人のアイデンティティー形成を意識したものと言っていい。
基本的に、賛成できる方向だ。
愛国心や伝統の尊重、家族の重視などは、国による価値観の押しつけだとする反対意見も、依然根強い。
しかし、社会が目指す方向性を国が示すことは必要だ。それを否定すると、今の基本法すら成り立たなくなる。(14年11月15日)
■戦後思潮のゆがみを正す時だ
中教審が昨年末、同法改正に向けた中間まとめを発表した。抜け落ちていた要素を取り入れ、子供に愛国心や伝統を尊重する心を植え付けようとしている。遅きに失した感は否めないが、歓迎すべき動きである。
日本人としてのアイデンティティー形成なくして、子供たちは、自らの判断基準を持ちようがない。それこそ自信と誇りのない根無し草になってしまう。
土台のないところに抽象的な個人を打ち立てようとした、砂上の楼閣とも言うべき構造こそ、戦後教育にゆがみをもたらした根本原因である。
基本法の改正が、急務だ。早急に法を改正し、しっかりしたバックボーンを持つ個人を育成していく手だてをつくすことである。(15年1月14日)
■答申生かし改正案の提出急げ
新たに法に規定する理念として、「公共の精神」や「国を愛する心」の涵養、伝統の尊重などを盛り込んだ。
いずれも、これまで欠けていた理念である。その点では前進だ。答申を生かして基本法を改正し、戦後教育のゆがみを是正せねばならない。
基本法改正には、「全体主義につながる」との批判もある。民主主義が保証されていない国における愛国心の強調は危険だが、日本の民主主義は十分成熟している。イデオロギー重視の立場からの批判としか、言いようがない。(15年3月23日)
■次期通常国会で改正を目指せ
たなざらしにしては三年間の論議の意味が失われる。
最大の対立点は、「国を愛する心の涵養」を、教育の新たな理念として改正基本法に盛り込むかどうかだった。
公明党は、「戦前の国家主義への回帰を連想させる」「統治機構を愛せ、ということになる」として、新理念の導入に慎重な姿勢を崩さなかった。愛国心と言えばすなわち軍国主義の復活ととらえる日教組などにも通じる見解である。(15年8月3日)
【社説検証】(下)教育基本法 産経新聞
■日本らしい法の形へ前進
中央教育審議会は教育基本法の改正に向け、「国や郷土を愛する心」「伝統文化の尊重」などを盛り込んだ中間報告をまとめた。日本らしい教育の根本法規としての形を整えつつある。
家庭教育に関する規定を新たに設けるべきだという提言も、歓迎したい。現行憲法もそうだが、現行の教育基本法にも、家庭や家族についての文言がほとんどない。
家庭は社会を構成する最小単位であり、まず、そこで親子愛や兄弟愛がはぐくまれなくてはならない。やがて社会に出て、友情や隣人愛、郷土愛が芽生え、それらが自然な形で国を愛する心や伝統文化を尊重する心につながっていくような教育が望ましい。(14年11月16日)
■「戦後」の歪みを正そう
普遍的とされる現行規定についても、欠陥が露呈している。例えば、第一〇条の「教育は不当な支配に屈してはならない」とする規定は、一部に「国は教育に介入できない」「国の学習指導要領に法的拘束力はない」などという一方的な解釈を生み、逆に、過激な教師集団などによる“不当な支配”を招いた。
改正法案に新たに盛り込まれようとしている「国を愛する心」は、子供たちが尊敬される日本人として国際社会で生きていくために欠かせないものである。(15年1月4日)
■大筋で評価できる答申だ
昨年十一月の中間報告に比べ、方向性がさらに明確になった。大筋で評価したい内容である。
「宗教的情操の涵養(かんよう)」について、中間報告は賛否両論を併記するにとどめていたが、答申は「大変重要」としたうえで、道徳の授業などで一層の充実を図ることを求めた。 教育への「不当な支配の排除」を定めた現行法十条についても、国と地方自治体の責務を明確化するという法改正の方向性が答申で示されたことは、大きな前進である。
「男女共同参画」など一部に論議が不徹底な部分もあるが、全体として、現行法の欠陥や問題点にかなり踏み込み、戦後教育のゆがみを正そうという姿勢がうかがえる。今後、与党間協議や法案づくりに焦点が移る。国民世論の一層の盛り上がりを期待したい。(15年3月22日)
■与党は法案提出に全力を
自民党と保守新党が今国会提出を念頭に改正案の検討に入るべきだと主張したのに対し、公明党は答申の「国を愛する心」と「宗教的情操教育」に異議を唱え、プロジェクトチームの設置にも反対した。
公明党は、一部野党のような「教育基本法改正に絶対反対」の立場ではないはずだ。そうであるのなら、プロジェクトチームを設置したうえで、異論のある部分については、そこで意見を言うべきではないか。(15年5月19日)
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