2001/09/30 産経新聞朝刊
【第二部 学力低下は誰のせい】いま学校は(14)道徳・しつけ軽視
◆あいさつできない子供に
大阪・豊中市の市立小学校に子供を通わせる保護者が、ある「あぜんとした」体験を話した。
毎朝校門前に教員らが立ち、登校してくる子供たちを見守っている。子供らの多くは、「おはようございます」の一言もなく教員の前を通り過ぎ、校内に入っていく。教員も気にしていない様子だ。
「先生が校門の前に立っているのは、あいさつの指導をするためではないのか」。疑問に思ったその保護者は、立っていた教員に頼んだ。
「あいさつを教えてやってください」
返ってきた答えはこうだった。
「あいさつは強制するものではありません。子供たちが自発的にするものです」
別の豊中市立小学校の校長は「『あいさつを強制してはいけない』からと、通知表に『きちんとあいさつできる』という評価項目を入れることに反対する教員もいる」と話す。始業・終業時に昔は恒例だった「起立・礼」についても「教師へのあいさつを強制するのか」と反対するという。
強制…。そんな言葉のルーツになっているような記述が、豊中市の平成十一年の小学校「生活科」教科書(一、二年生対象)選定調査基準にある。
《「道徳」・「しつけ」を押し付ける内容になっていないか》
採択された教科書は今でも使われている。
採択記録を調査した市議は「小学一、二年生の子供たちには押し付けてでも教えないと身につかないのではないか」と批判する。
昭和三十三年三月、教育課程審議会の答申の中で、小、中学校の「道徳教育の徹底」が打ち出された。これに対して日教組は「戦前の修身科の復活」として、対決姿勢を鮮明にした。『日教組二十年史』に反対闘争の様子がつづられている。
旧文部省は同年九月六日から四日間、東京都内で校長や教諭らを対象に、道徳の指導者講習会を開いた。連日、千人を超える警察官が護衛した会場周辺では、日教組の組合員や応援に駆けつけた学生運動のメンバーらが「官製道徳教育反対」とスピーカーでまくしたてた。
最終日には、会場入りするバスの前に身を投げてまで阻止しようとする女子学生もいた。その後も、全国各地の講習会で同じような反対闘争が繰り広げられた。
いまではこんな激しい反対闘争が行われることはない。ただ、日教組に加盟する教職員組合の影響が強い豊中市や広島県内では、平成九年から十年にかけ、道徳の授業を「M」「人権」などと呼びかえていた公立学校が複数あることが明らかになった。
大阪府南部の公立中学校の男性教諭も「ほとんどの教員は道徳の学習指導要領の内容を知らないし、道徳に指導要領があることすら知らない教員もいる」と話す。道徳を軽視する風潮はいまだに根強いのである。
道徳やしつけだけではない。運動会での入場行進や「回れ右」など整列の練習をしただけで批判する。「訓練」という言葉すら嫌う。
「『軍隊のようだ』というのがその理由。修身が戦争につながったという理屈で道徳・しつけを否定するのと同じ」と府北部の公立中学校の体育教諭は話す。
「しつけが身についていない」「集団生活のルールを守らない」「集中力がない」「教師や親に反抗的」−。
こんな子供たちが増えていることを示す調査にはことかかない。それが、学校の荒れや学級崩壊の一因となり、授業が成り立ちにくくなっているという指摘もある。(教育問題取材班)
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