だが、ここ数年、文部省当局から矢継ぎ早に打ち出された施策への認識では、行政側と実践現場でかなりの違いがある。このほど盛岡市で開かれた日教組の教育研究全国集会からも、そのことが痛感された。とりわけ高校改革をめぐって、現場の不協和音が強い。
推薦入試は「基準があいまいで、生徒や父母の不信感を招いている」「推薦を意識した生徒会活動や部活動が目立つ」「成績のよい生徒を早く確保する青田買いに利用されている」などの弊害が指摘された。廃止した方がよいという意見が出る一方で、学力試験一本でよいのか、と反論もあり、明確な答えは導き出せなかった。
改革の目玉とされる総合学科制についても、現場の評価は定まらない。多様なメニューを用意し、基礎基本と適性や興味・関心に合った系統的な学習を保障するこの制度は望ましい高校像に近い。だが、各県に一、二校程度の設置では、成果は期待薄だ。それどころか「新たな学校格差の一因になる」という指摘も否定できない。専門高校(職業科)、普通科を問わず、すべての高校を巻き込んだ総合学科への改編を急ぐべきだろう。
中央教育審議会で審議されている公立の「中高一貫教育」にしても、限られた設置では、受験競争や学校格差に拍車がかかる恐れがある。及び腰での中途半端な改革は新たな問題を生む。高校改革では「適格者主義」の撤廃や希望者全員入学という問題についても論議を煮詰める必要がある。
現行五日制での教育内容をどうするかも現場の大きな悩みだ。六日制学習指導要領の授業時間数にこだわっていては、学校スリム化は程遠い。古い学力観に基づいた学力向上運動に血道を上げる自治体の過密授業は論外だが、つじつま合わせの削減型「薄められた六日制」も安易すぎる。新しい学校像をイメージした教育課程の弾力化が欠かせない。教科の枠を超えた総合学習や部活動の地域への移行などの実践報告が増えたのはよい傾向だ。その上、「総合学習で系統立った知識の習得は大丈夫か、戦後一時期の『はい回る経験主義』に陥ってはならない」と、要所を押さえた発言もあり、心強い。
教育改革は橋本政権の重要政策課題に加えられた。その手順の明確化はもちろん、いま進行中の施策の総点検が急務だ。そのためにも、教育現場と行政側による詰めの論議がほしい。
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