2003/08/03 読売新聞朝刊
[社説]教育基本法 次期通常国会で改正を目指せ
問われているのは、戦後教育のゆがみをどう正すのかということだ。根本から目をそらしてはならない。
教育基本法改正案の前国会提出が見送られた。与党三党で協議会を設け論議したが、改正案の提出に公明党が反対したためだ。
残念な結果である。妥協を排した論議を尽くし、次期通常国会での成立を目指すべきである。
基本法改正は二〇〇〇年三月、当時の小渕首相の私的諮問機関として発足した教育改革国民会議が提案し、文部科学省の中教審が、今年三月の答申で具体的な改正内容をまとめた。たなざらしにしては三年間の論議の意味が失われる。
最大の対立点は、「国を愛する心の涵養(かんよう)」を、教育の新たな理念として改正基本法に織り込むかどうかだった。
公明党は、「戦前の国家主義への回帰を連想させる」「統治機構を愛せ、ということになる」として、新理念の導入に慎重な姿勢を崩さなかった。愛国心と言えばすなわち軍国主義の復活ととらえる日教組などにも通じる見解である。
戦前、統帥権の独立を盾に軍部が暴走した経緯に見られるように、軍国主義的状況における愛国心の強調は、いびつなナショナリズムを招く。だが、今の日本に軍国主義に向かう要素など皆無だ。議会制民主主義が定着し、国の統治機構のあり方も、国民の総意で決まる。
偏狭なナショナリズムを鼓吹する諸国が近隣に存在する東アジアにあって、今ほど、日本が均整のとれた愛国心を必要とするときはない。
複雑化の度を増す国際社会で生きていくためにも、日本人としてのアイデンティティーの確立が不可欠だ。愛国心を育てることは、軍国主義とはまったく別の問題だ。そのことをはっきりと認識し、日本人としての歴史感覚と国際的な視野を持つ国民を育てることが大切だ。
連合国軍総司令部(GHQ)の強い影響下で制定され、「個人」の偏重によって「公」の喪失を招いた現行の教育基本法は、結果として、日本人のアイデンティティー形成を妨げてきた。
公明党は、「不登校、いじめなどの緊急の教育問題を先に論議すべきだ」と主張してもいる。
だが、よりどころのない人間は、自分を律することができない。子供たちに日本人としての誇りを取り戻すことこそ、いじめなどの問題に対する根源的な解決への基盤である。
戦後教育のゆがみを総括し、教育基本法を改正することで、今後の明確な道しるべとしなければならない。
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