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2002/07/19 読売新聞朝刊
[社説]新指導要領 混沌もたらした文科省の揺らぎ
 
 模索と戸惑いの目立つスタートだった。
 多くの小中高校できょう、一学期の終業式を迎えるが、今学期は、小中学校で教科内容を大幅に削減した新学習指導要領が実施され、体験学習などを重視する総合的学習も導入された。
 学校完全週五日制も公立の学校で一斉に実施された。
 教育現場がこれほどの変化に直面したことは、あまり例がない。
 学校では、授業内容の上限だった新指導要領が、学力低下論議を受けて「最低基準」と変更されたため、指導要領を超える発展的な学習をどう展開するかが大きな問題となり、混乱を招いた。
 文部科学省は算数(数学)、理科の発展学習事例集を作成することを表明していたが、いまだに完成していない。最低基準化は、学力低下論議をかわすための弥縫(びぼう)策として行われた。準備体制の遅れがそれを示している。
 歴史的な変化を迎え、「ゆとり」教育推進による学力低下の恐れに対し、学力維持・向上のための試行錯誤が各地で続けられた。自治体や学校による、独自で多様な取り組みが目立った。
 授業時間を確保するため、仙台市では四月から、全小中学校で三学期制を二学期制に切り替え、定期考査や始・終業式の回数を減らした。広島県では学校管理規則を改正して休み期間の決定を校長に委ね、今年の夏休みを短縮する高校は公立百校中二十八校にのぼる。
 様々な形で土曜日や夏休みに補習を行う学校も、増えている。自治体独自の教員採用も増加傾向にある。
 教育行政の地方分権化、学校の自主的判断の尊重は以前、旧文部省の統制に反対する日教組系の教員によって主張されることが多かった。それが、学力向上策の一環として一気に進んだ。歴史の皮肉と言えるだろう。その方式について賛否はあるにせよ、自主的な取り組みの進展は、率直に評価したい。
 ただ、それによって今後、教育体制の地域差が拡大することも懸念される。学校教育を地域で見守り、住民参加で作り上げていくことが大切だ。
 一学期の模索を通じて、新しい芽も生まれた。
 それでも多くの学校では、少ない授業時間への対応に苦悩したといえる。
 文科省は、混乱をもたらした教育施策の揺らぎについて、なぜそれが起きたのか、誰が責めを負うべきなのか、原因と責任を明確にしなければならない。
 その上で、混沌(こんとん)とした現状にすっきりとした道筋を示す必要がある。

 
 
 
 
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