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1990/06/30 読売新聞朝刊
[社説]「現実路線」に転じた日教組だが
 
 日教組は、ようやく、現実的な路線へとゆるやかながら転換しつつある−−高知市で開かれていた定期大会から受けた印象だった。
 反主流派(共産党系)との分裂後初めての今大会で問われた課題は、従来の「何でも反対」組合から、どう抜け出していくか、の一点に集約される。
 その「処方せん」として執行部が打ち出したのが、「参加・提言・改革」というスローガンだった。
 この基本姿勢に合わせる形で、運動方針からは、これまでの決まり文句である「対決」「粉砕」「阻止」といった言葉がほとんど消えた。論議全体を通じてイデオロギー色が薄らいできてもいる。
 このざっと十年間、日教組は、硬直的でひとりよがりの物言いを続けてきた。それが、父母どころか、身近な教師仲間にすらそっぽを向かれる結果となった。新任教員の組合加入率が二割を切るまでになっているのも、それを裏付けている。
 このままでは組織のジリ貧傾向に歯止めをかけられないという内部事情も働いたにせよ、柔軟姿勢への転換は当然である。むしろ、遅きに失した感が強い。
 大会会場からも「(行政に)取り込まれるのを恐れて何でも反対し、負けたらいつも、相手が悪いばかりではもう通用しない。被害を受けるのは子どもたちだ」、「学ぶべきところは学び、言うべきことは言う姿勢が必要だ」という発言もあった。
 その通りだと思う。こうした幅広く、建設的な姿勢を目指してもらいたい。
 これからは、教育についてあらゆる場で提言し、政府や文部省の審議会にも積極的に参加しようとする方向も出された。
 それはそれでいいのだが、問題は、何を提言し、どう改革していこうとするのか、その理念と具体的方向が一向に見えてこないことだ。大会で最後まで論議されずじまいだったのは残念と言うほかない。
 いまは、学校教育を大きく変えようとしている時期に当たる。教え・覚え込ませる知識伝達型から、自ら学び取る体験重視の授業を、効率優先から個性重視と選択の自由を広げる教育を目指している。
 この背景を踏まえたうえで、例えば、新学習指導要領について、評価できる部分、できない部分、条件つきで進めるべきものなどに仕分け、問題のありかを指摘する。そうした手続きを欠いたままでは、「参加」も「提言」も宙に浮いてしまうだろう。
 学校五日制、初任者研修、登校拒否、高校中退、子どもの人権。大会では、数多くの教育課題が討論された。その一つひとつは、いずれも大切なことではある。
 けれども、これらをばらばらに議論するのでは実りあるものにならない。もっと総合的にとらえる視点が必要だろう。
 日教組は、少なくともスローガンの上では、現実的な姿勢に転換した。だが、これが、日ごろの活動でどう具体化されるのか。力量を試されるのはこれからだ。大場委員長をはじめとする新執行部の大きな課題である。

 
 
 
 
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