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1986/11/27 読売新聞朝刊
[社説]学校五日制をどう考えるか
 
 週休二日制は、いまや時代の流れと言ってよい。だが、ことが学校の週五日制となるとその様相は、がらりと変わる。
 総理府の世論調査によると「現在どおり六日制がよい」と答えた人が、小、中、高について六割、幼稚園でも五割を超えた。一方、五日制の賛成派は「月に一、二回実施」を含めて、ようやく二割を上回るに過ぎない。
 学校の五日制は、臨教審の第二次答申に織り込まれ、教育課程審議会の中間まとめでも「導入の可能性について検討するのが適当」としている。こうした姿勢に、今回の調査結果はどのように響くのだろうか。
 教育の改革に国民の合意が欠かせないことは言うまでもない。従って、この調査結果は十分吟味しなければなるまいが、だからといって両審議会、とりわけ来年の答申を目指して、このテーマの審議を続けている教育課程審議会は、この数字によって必要以上に及び腰になる必要はないように思う。
 この結果は、あくまでも現状についての認識だし、審議会は将来の姿をにらんでのものだからだ。また、調査結果でも、状況の変化あるいは意識の変革によっては、今後、回答が変わると見られる点も少なくないと思う。
 現状の六日制を肯定する理由は「現在程度の休日で十分」「学校へ行った方が手がかからない」「休日の場合、社会の受け皿が不十分」「学力の低下が心配」「家庭では十分教育ができない」「塾などに行くことが多くなる」「社会での週休二日制が完全実施されているわけでない」などだ。
 このうち、塾通いや社会の受け皿の問題はもっともな心配で、確かにさまざまな条件、環境の整備が必要だと思う。
 五日制の導入について、臨教審は「週休二日制に向かう社会のすう勢を考慮しつつ」と言い、教課審は「社会のすう勢に従う方向で検討」と言う。だが、ここで言う「社会のすう勢」は、単に「一般社会における週休二日制の普及」を言い換えているに過ぎない感がある。
 週休二日制の普及は、学校五日制を考えるうえで、もちろん極めて大きな要素だが、こうしたとらえ方だけから学校五日制を推進するならば、どうしても無理が生じるだろう。たとえば「塾通い」も近年の社会のすう勢と言えるし、六日制の現状支持者が多い「共働き」も、またひとつのすう勢だからだ。
 こうしたいくつかの「すう勢」のぶつかり合いを克服し、五日制への移行を検討するには、「社会のすう勢」とはもうひとつ別の視点が必要になる。それは、臨教審答申の記述を借りれば、「子供の立場を中心に、家庭、学校、地域の役割を改めて整理し、見直す」という視点ではないだろうか。
 六日制の現状を肯定する理由のうち「手がかからないから」を代表とするいくつかには「学校にやっておきさえすれば安心」といった親や社会の意識がうかがわれる。重い学校依存症に根ざした安易な管理思想といったら言い過ぎだろうか。
 このテーマには、管理のストレス過剰といわれる子供たちの現状に、もっと目を据えた論議が大切だと考える。五日制に反対の多かった今回の世論調査でも「子供の自由時間は少ないか」という第一問については、六割に近い人が「少ないと思う」と答えている。

 
 
 
 
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