1986/09/16 読売新聞朝刊
[社説]日教組はどこへ行くのか
十三日から開かれる予定だった日教組の定期大会が延期された。三年に一度の役員改選期を迎えて、田中委員長の続投か、中小路書記長の委員長昇格かをめぐるもつれが解けないためだが、外部から見ると、何とも理解に苦しむ派閥抗争にしか映らない。
日教組の組織率は、年々低下して、いまや五〇%を割ろうかというところまできた。だが、依然として最大の教職員集団である組織が、このようなことでいいのか。教育の改革が大きな課題とされているとき、悲しむべき状況というほかはない。
日教組には、社会党系の主流派と共産党系の反主流派があり、両者の勢力比は二対一ほどだ。さらに、主流派が左右の二派に分かれている。同じ主流派だが、田中委員長は右、中小路書記長は左という構図だ。
これまでの役員人事では、主流両派が話し合いで候補者を一本化、反主流派を抑えて、執行部を握ってきた。今回は、それがまとまらない。主流派内では、右派が過半数を占めるが、左派が反主流派と結べば多数を制することになる。
大会に先立って開かれた臨時中央委員会は対立を一気に表面化させるものだった。
この臨時中央委は、主流左派と反主流派が田中委員長の責任を追及するかたちで招集された。田中委員長が今春、自民党文教族の西岡武夫氏のパーティーに出席したのは、「反自民の運動方針に反する」のだという。
これに対して、主流右派は、「そんなことをいうなら、中小路書記長だって」と、四年前、文部省と日教組のトラブルがあった際、同書記長が中執、三役会議にはからずに釈明書を出したことをむしかえした。この紛糾が決着しないまま、定期大会は延期になった。
役員改選は、話し合い、一本化が何もベストとは限るまいが、こんな次元のドロ仕合は情けない。日教組の委員長が、自民党の文教族と接触することは、「問責」されなければならないことなのか。外部の目には、いかにも視野の狭いかたちで、角突き合わせているとしか見えない。
もちろん「西岡問題」には、背景もある。事実上ストなしの現実路線をとってきた主流右派、自民党や臨教審との対決という原則重視の主流左派、それに反主流派と三派の運動路線の違いが、労働戦線統一問題もからみ、役員改選期を迎えて、こんなかたちで噴出したのだろう。
しかし、これまでの路線の違いがあるにしても、いま日教組は、そのような派閥抗争で揺れていていいときだろうか。過去数年、日教組は、運動方針の前面に教育改革問題を打ち出すかたちをとってきた。教員の自己変革も提唱した。それは、派閥抗争の次元から見れば、小異を捨てて、大同につくことではなかったのか。
とかく組織内部の争いが起きると、近視眼的になり、外に開かれた目が失われがちなものだ。リーダーの座を争うならば、これからの日教組をどうするのか、教育改革をどう進めるのか、外部にもわかりやすい主張のぶつかり合いが筋だと思う。大会延期の冷却期間に、いま日教組が置かれている状況を冷静に見つめ直してもらいたい。
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