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1996/06/28 毎日新聞朝刊
[特集]教科書検定 来春の中学校社会科教科書、こう変わる(その2止)主な検定例
 
<自衛権・自衛隊>
 ◆検定前(申請本)
【公民】自衛隊が憲法9条にいう「戦力」にあたり、憲法違反ではないかという問題は激しく議論された。政府は、独立国には自衛権があり、自衛のための必要最小限度の実力を持つことは憲法で禁止されていないと説明している
 ◆検定意見
 「……わが国の安全と防衛問題について考えさせる」という学習指導要領の内容に照らして記述が不十分
 ◆検定後(見本本)
 独立国には自衛権があり、世界各国は防衛力を持っている。日本国憲法は「戦力」の不保持を定めているので、自衛のための軍隊を保持できるかどうかが問題となる。政府は、自衛のための必要最小限度の実力を持つことは憲法で禁止されていないと説明している
 
<従軍慰安婦>
 ◆検定前(申請本)
【公民】(従軍慰安婦の)大半は当時日本の植民地であった朝鮮半島から連れてこられた未婚の女性であり、そのほか日本に占領されていた地域の女性も含まれていた。日本政府は1993年、公式に謝罪したが、元慰安婦に対する補償問題はまだ解決されていない
 ◆検定意見
 国家間における賠償は解決済みとされており、問題となっているのは個人の請求権に基づいての主張である点に配慮してほしい。従軍慰安婦の人数については現時点での研究状況を考慮してほしい
 ◆検定後(見本本)
 中には(中略)朝鮮半島から連れてこられた女性をはじめ、日本に占領されていた地域の女性も含まれていた。日本政府は1993年、公式に謝罪した。しかし政府間の賠償とは別に従軍慰安婦にされた人々に与えた心と体の痛みに対する個人への謝罪や補償が新たに求められている
 
<国旗・国家>
 ◆検定前(申請本)
【公民】私たちは外国の国旗や国歌に対して敬意をはらう必要があります
 ◆検定意見
 学習指導要領の内容の取り扱いに照らして記述が不十分
 ◆検定後(見本本)
 私たちは自分の国や外国の国旗や国歌に対して敬意をはらう必要があります
 
<南京大虐殺>
 ◆検定前(申請本)
【歴史】兵士とそれ以外をあわせて、十数万人以上も殺したため、諸外国は強く非難した
 ◆検定意見
 南京事件の犠牲者数については種々の議論がなされていることを踏まえて記述を再考してほしい
 ◆検定後(見本本)
 死者の数は、兵士をあわせて十数万人以上といわれ、中国では30万人以上と推計されている
 
<日本占領下の東南アジア>
 ◆検定前(申請本)
【歴史】(インドシナは南方に送られた日本軍兵士の食料の補給基地とされたため)日本軍に大量の米を奪われ、多くの人が餓死しました
 ◆検定意見
 当時のインドシナの人々の餓死の原因について誤解を招く恐れがある
 ◆検定後(見本本)
 日本軍に大量の米を奪われたうえに、冷害などの災害が重なり、多くの人が餓死しました
 
<ODA>
 ◆検定前(申請本)
【地理】援助の多くは後発発展途上国の集中するアフリカよりもすでにある程度の発展をみている東南アジアに向けられることが多い。また援助が日本の輸出品の購入にあてられることが多く、発展途上国の経済の自立に役だたないという問題もある
 ◆検定意見
 日本のODAの特徴について誤解を招く恐れがある
 ◆検定後(見本本)
 日本のODAの特徴は、他の先進国に比べて贈与の比率が低く、借款の割合が高いことである。これは資金の返済を求める借款のほうが、長期の援助が可能であることや発展途上国の自助努力と自立を支援することができるという考えからである
 
<原子力>
 ◆検定前(申請本)
【公民】原子力の利用は、すでに日本の発電量の4分の1をまかなっています。しかし、原子力発電は事故が起きれば深刻な被害をおよぼす可能性があり、また廃棄物の処理をどうするかなどの問題点も残されています
 ◆検定意見
 原子力発電の問題点を記述するのであれば、それが利用されている理由についても触れてほしい
 ◆検定後(見本本)
 「電力の安定供給のためには、原子力の利用は重要であり」と加筆した


 
 
 
 
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