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1995/09/05 毎日新聞朝刊
[社説]日教組大会 「協調」の行方みつめよう
 
 日教組大会が難産の末、文部省との「歴史的和解」を図るための運動方針を採択して終わった。
 私たちはまず、大会で激しい論戦が行われたことを評価しなければならない。このような大きな転換を図る際に激論となるのは当然であり、組織が健全であることを示すものでもある。
 しかし、論議の内容が生産的だったかどうかは、おのずと別問題である。最大の焦点は「日の丸・君が代」であった。これまでの運動方針で文部省の強制に「反対」の記述が盛り込まれていたのが、今回の方針案で姿を消したからだ。
 「なぜなんだ」と執行部を追及した地方教組も、この問題を国民運動として展開する展望を持っていたわけではない。すでに総評は一九八九年に解散した。社会党も昨年六月の村山内閣成立とともに、日の丸・君が代を含む自民党政権の施策をほとんど認める驚くべき「柔軟性」を発揮したのである。
 「強制反対」が日教組の運動方針に書かれても、その記述が削除されても、その運動が国民運動とならない点では同じという重い現実があった。だからこそ、討論では「反対」の声が強い中で、運動方針案の採択はさしたる混乱もなしに行われたのである。
 だが、日の丸・君が代問題ばかりに論議が集中することが果たして望ましかったのだろうか。いま学校教育の世界は不登校、いじめ、教師の暴力などの問題が噴出している。現実の教育問題について活発な論議が行われるべきだっただろう。
 学校教育の混迷の背景にあるのは文部省の管理主義だといわれている。とすれば、なぜいま日教組が文部省と手を握るのか、という論議こそ必要だったはずだ。この議論は、文部省と手を結んで何をやるのかという未来志向とも結びつく。
 県教委と日教組傘下の地方教組が仲良くしている例はすでにある。その典型例が愛知県である。しかし、同県の教育は、千葉県とならんで「管理教育の権化」と厳しい批判を受けている。
 昨年末大きな社会問題となった愛知県西尾市立東部中学二年の大河内清輝君のいじめによる自殺事件は、その中で起きた。
 そして、この事件をきっかけに文部省が実施した「いじめ総点検」で、愛知県内では千五百八十三件のいじめが把握され、うち小学校は九百四十七件、中学校は五百八十三件を占めたのである。
 全体の件数、小学校の件数とも全国で最多だった。協調路線の未来が必ずしも明るくないことを示す実例であろう。
 日の丸・君が代に例をとれば、国旗・国歌という位置づけが「正しい」とか「誤りだ」とかいう結論を教え込むのは、あるべき教育の姿とはほど遠い。国旗・国歌だという人もいて、それを否定する人もいる。
 適切な年齢に達したら、それはどうしてなのかを考え、自分なりの判断ができる子供を育てることこそ教育なのだ。
 私たちは、異常な対立関係を脱した文部省と日教組が、学校教育を少しでも改善していけるのかどうか見守る必要があろう。そして父母として国民として、この両者に対し、どんどん発言していく必要があろう。学校教育を専門家に任せていたことも混迷の原因だったのだから。


 
 
 
 
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