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1995/02/06 毎日新聞朝刊
[社説]教育改革 まず教室に「ぬくもり」を
 
 学校現場からの教育改革が進み始めているようだ。先月末の四日間、長崎市で開かれた日教組の教育研究全国集会で、創意工夫を凝らした改革の実践が相次いで報告された。
 例えば北海道小樽市のある小学校では、毎月二回、土曜日を「総合学習」にあて、「バナナの旅」「チョコレートの一粒が」「ナタデココブームが去って」などと名付けた学習を行い、子どもたちに平和や人権、環境問題を考えさせたという。
 この総合学習は各教科で学んだ知識を生かして、みんなで一緒に調べたり、考えたり、話し合ったりしながら社会や自然に対する認識を深め、人間としてどう生きるかを学ぶのが狙いで、各分科会で、いくつかの取り組み事例が報告された。
 子ども一人ひとりの「個に応じた教育」が最近、強調されているが、この総合学習のように、子どもたちが自分の考えや個性、能力をお互いに出し合いながら、共に学び、高め合う学習が、これからますます必要になってくるだろう。
 このほか、高校の社会科、理科、家庭科の教師がチームを組んで環境教育に取り組んだ例や、「表現」の授業として音楽や図工のほかに朗読や演劇、ダンスを取り入れた実践も披露された。
 また第三土曜日を「自己学習の日」として、家庭、学校、図書館など学びの場を自由に選んで勉強させたり、親や地域の人たちが講師になり、木工や料理など二十のコースを設けて子どもに選択学習させるなどの試みも報告された。
 「学校の中だけが学びの場ではない」と、教室を飛び出して、地域の自然や文化、歴史を学ぶ授業の報告も相次いだ。
 こうした新しいスタイルの学習によって「子どもたちは生き生きと楽しく学んでいる」と教師たちは口をそろえた。それは結構なことだ。詰め込み中心の息苦しい授業から、子どもが全身を使って学ぶ開放的な学習への転換が、学校の再生につながるはずだ。
 しかし、集会では「いくら新しい試みをしようと思っても教育委員会が標準授業時数を逸脱するな、と現場の手を縛ろうとする」との声が何人かから聞かれた。
 文部省は学校現場の創意工夫を求めているのだから、教育委員会も、もっと規制緩和して柔軟に現場に対応すべきだ。そうしないと、せっかくの現場教師たちの意欲をそぐことになろう。
 さまざまな授業改革への取り組みが報告された一方で、「まず、日常的に改めるべきことがあるのではないか」との指摘も相次いだ。
 「私たち教師は行政の末端の人間の目で子どもを見ていないか。まず、はみ出した子にどう寄り添っていくかが私たちの課題ではないか」と、ある教師。
 別の教師は「失敗を認める教育、分からないところが分かる教育を心掛けている」と述べた。
 また、子ども同士、子どもと教師が人間的に触れ合う「ぬくもりのある教室にしよう」と呼びかける教師もいた。
 日常の教室をまず、ぬくもりのあるものにすることこそ、子どもや親が第一に望んでいることだろう。
 そうした教師と子ども・親との信頼関係があって、初めて新しい学習の試みが生きてくるのではないか。


 
 
 
 
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