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1990/12/19 毎日新聞朝刊
高校をゆがめる大学受験競争の過熱 学力偏重の改革を――中教審小委中間報告
 
◇一校からの入学制限検討 「数学」で低年齢入学も
 高校教育の改革を検討している文相の諮問機関・中央教育審議会学校制度小委員会(座長、河野重男・お茶の水女子大学長)は十八日、大学受験競争の緩和、「英才」生徒への例外措置などを柱にした審議経過報告(中間報告)をまとめた。報告は方策として(1)有力大学へ特定の進学校出身者が集中しない方法の検討(2)入試改革の大学・高校協議機関設置(3)数学のできる生徒の大学入学年齢引き下げ――などを提言。来春に予定される答申に集約するが「平等」「私学の自由」に踏み込む内容だけに、なお曲折がありそうだ。(3面に報告要旨と解説、社会面に関連記事)
 報告は、現在の高校教育をゆがめている最大の原因は大学受験過熱にあると断言し、エリート受験校化した私立の中高一貫制や「青田買い」の様相が濃い私立大推薦入試を強く批判。改めなければ、高校教育制度をいくら改革してもほとんど効果はないと強調した。
 その打開策をめぐる審議内容を「改革の基本方向」に列記。入試の評価方法を学力と学力以外とに多元化・複数化する必要があるし、具体例に大学と出願者が長期間にわたって面接などを繰り返し多角的に適性を見極める「アドミッション・オフィス入試」などを提唱した。
 また、「A大学」として今年度の東大を挙げ、合格者の三四%を上位十五校(五十人以上の合格者を出した高校)が占めている現状を提示。その多くが私立の六年制一貫校と一部の国立大付属校であることを突き、事実上「受験技術の特訓を重ね、主として大都市圏に住む一定収入以上の家庭の子供」が有力大学に偏ることは「公正の理念に反し、人材開発にもならず、日本の指導者層の衰弱を引き起こしかねない」と警告した。
 このため「各大学の自主判断による」としながらも分散入学させている米国ハーバード大の例を引き「一高校から一大学に一定数以上の入学者が出ることを防止する」よう提言、「数字上の上限を定めることを考慮するのも案の一つ」とした。
 しかし「改革の具体的方策」の項では「大学審議会で検討されることを期待する」と付言。最終的な結論には高等教育改革の文相諮問機関である大学審との調整が必要との考えを示す一方、一連の入試改革を話し合う国公私立大学間、大学高校間に協議機関の設置を提案した。
 「特定の分野で特に能力の伸長著しい生徒」の例外扱いについては、「個性に応じてそれぞれ異なるものを目指す実質的な平等を実現していく」方法として数学の特に優秀な生徒に限って大学入学資格年齢(現行十八歳)前でも進学できるよう提言。さらに数学と物理は、中学の段階からでも大学レベルの教育研究に触れる機会を与える方途を考慮すべきだとした。しかし、同一学校内での「飛び級」は、今の日本の「年功序列社会」では心理的、精神的条件が整っていないとして否定した。
 高校教育の多様化案では、普通科、職業科の二元区分を改め、幅広い選択を可能にするため両科とは別に普通・職業の総合学科を創設。学年制に代わる単位制の積極活用や複数高校間の移動、併修システムの開発などを提唱した。


 
 
 
 
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