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1987/05/09 毎日新聞夕刊
算数のわからない高校生ふえる
 
 「小学校一、二年生レベルの算数でつまずいたまま、高校に入ってくる生徒が増えている」−−東京で開かれている日教組・日高教の教育研究全国集会で、基本的な四則計算や九九ができない高校生が珍しくなくなっている実態が九日、報告された。低学力対策はいくつかの高校でこれまでも取り組まれていたが、高校間格差が激しくなる中で、「底辺校」のレッテルを張られた高校では、特別授業やマンツーマン指導などさまざま方法が広がっており、集会ではその実践報告も相次ぎ、悩みは深刻だ。
 広島県のある職業高校で入学早々の一年生を対象に基礎計算診断テストをしたところ、単純な整数(三ケタ)の引き算の正答率が八五%、小数を分数に直す問題は四〇%。分析すると、例えば「580−307=273」では、一の位で0から7は引けないから、と勝手に一の位の数字を入れかえ「578−300」として「287」と“解答”。「8−13=−5」では自分の計算力に合わせ、8を十の位にして「80−13」と問題を変造、答えを「73」とするケースも。小数点や分数の意味が全く分からない生徒も少なくなかった。
 このため同校では特につまずきのひどい二十数人の生徒を対象に週一回、放課後五十分、「基礎計算講座」を開講。レベルに応じて数多くのプリントを用意して個別指導した。その結果、生徒は具体的な目標ができ、ほとんどは一応計算力が向上した。しかし同校では「こうしたつまずきは、小学校の比較的初期の段階で遊びや生活の体験を通して形成される数の概念が不完全にしかできなかったため。高校段階での修復にはかなりの時間がかかる」と分析。こうした講座だけでなく、別の場で教材・方法の工夫を加えた特別の指導を模索する必要がある、とした。
 鹿児島県の職業高校では、三年前から常識テスト、漢字テスト、それに一年生の一部を対象とする数学と英語の特別指導を続けてきた。毎年やり方を少しずつ変えるなど工夫を重ねたが、その中心となった教師は「学習の動機づけにはなったが、基礎学力が向上したなどとは絶対に言えない」と報告。「それでも偏差値による輪切りを恨んだり、低学力を嘆くだけでは対応できない。どんな方策でもよいから生徒のためになると思うことをやってみる以外に手だてはない」と結んだ。
 こうした中で、大分県の農業高校の教師は、国、数、英の基礎学力向上のため特設時間(毎朝二十分間)のうち、一年生の数学について習熟度別クラス編成を取り入れた実践例を報告した。習熟度別に対しては、日教組内では「差別教育」と批判する意見も根強いが、同教師は低学力の実態が深刻であることを指摘したうえで、「生徒の実態に応じた学習こそ必要。保護者や生徒にその意義を十分説明して対応すれば、生徒の学習意欲を呼び起こす」と習熟度別を積極的に評価、注目を集めた。


 
 
 
 
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