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1993/03/02 産経新聞朝刊
【憲法ディベート】
小林節(慶大法学部教授)
 
 自民党の小沢調査会(国際社会における日本の役割に関する特別調査会)が発足当時「改憲論議はタブーではない」と繰り返し主張したこと、また産経、読売など新聞が憲法改正を取り上げたことから、この問題に対する国民の関心と議論する環境が生まれた。
 歴史的にも、湾岸戦争で第九条の矛盾を見つめざるを得なくなったのをはじめ、天皇の代替わりや、環境の時代に環境権が憲法に明記されていないことなど、改憲をめぐる課題がそろったことも論議を盛り上げた。
 第九条は侵略戦争の放棄を意味し、自衛戦争を放棄していないと解することは世界の常識だ。条文は自国で単独で守る個別的自衛と、同盟国と共同して守る集団的自衛の区別を明確にしていないが、わが国には自衛権がある。
 日本が世界的な大国になった今、集団的自衛は行わず、個別的自衛の場合も海外派兵は行わないとする政府解釈に基づく自己規制は続けるべきではない。冷戦崩壊後、国連中心に世界平和を維持しようとしている時代に自衛隊が参加できないようにしばるのは無責任だ。
 従って、第九条を改正して、(1)個別的と、集団的と双方の自衛権がある(2)国連が行う集団的自衛と国連軍のような国際的安全保障維持活動に参加する(3)これらの活動のため国軍を保有する−などを明記することが必要だ。同時に、侵略戦争の禁止やシビル・コントロール(国民による軍隊の統制)、良心的兵役拒否も明示する必要がある。
 首相公選制や重要案件に関する国民投票制度も改憲の対象となる課題だ。しかし、首相公選制には反対だ。公選制は事実上の大統領制で、それでは象徴機能を営む元首となるため天皇制とも矛盾する。また日本人には英雄に指導される大統領よりも合議制の議院内閣制が合う。外国の元首と会ったり、国会の開会、法律の公布なども歴史的伝統に支えらた天皇陛下の方が尊厳性がある。
 国民投票制は導入した場合、衆愚政治になる可能性がある。ただし、われわれが主張する憲法改正論議が本当に国民に浸透した場合には、使えるものになるかもしれない。
 今後、内閣か国会にあらゆる階層を公平に網羅した人たちで構成される機関をつくり、そこで議論して中間報告をどんどんプレスリリースすべきだ。世論が動けば政治家も動く。それをやるべき時だ。(談)
 
◇小林 節(こばやし せつ)
1949年生まれ。
慶応義塾大学大学院修了。法学博士。
ミシガン大学研究員、ハーバード大学研究員を経て、現在、慶応義塾大学法学部教授、弁護士。


 
 
 
 
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