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1993/01/25 産経新聞朝刊
【水平垂直】憲法論議、政局の焦点に
 
 憲法改正問題をめぐって与野党をはじめ、労働・経済界から活発な発言が昨年末から相次いだが、宮沢首相が東南アジア外遊中の記者懇談で改憲論を強くけん制してから後藤田法相、森山文相ら閣内を中心に慎重論が続出するなど「護憲派」の巻き返しも強まっている。その一方、三塚政調会長が二十五日の代表質問で改めて憲法問題を協議するための与野党協議機関設置を主張する意向をみせるなど、政治改革と国際貢献とも連動する憲法問題が政局の焦点としてもクローズアップされてきた。(乾正人)
 政党レベルで憲法改正論議の先頭をきったのは、昨年十二月、政策大綱で憲法改正を打ち出した日本新党の細川護煕代表。それ以降、自民党側から三塚政調会長、中曽根元首相らが積極的な改正論議を繰り広げた。これに対し宮沢首相は「考えれば考えるほどそうやさしい問題ではないことがわかってくるのではないか」(十七日、バンコクでの記者懇談)と沈静化を図るなど、憲法をめぐってさまざまな論議が交錯している。
 憲法見直し論は、政治改革と国際貢献論と密接に結びついているという側面がある。政治改革で小選挙区制を主張する勢力は国際貢献にも積極的で、最終的に憲法見直しを主張するケースも多い。
 これまでの憲法と小選挙区導入に関する発言や姿勢から自民党の実力者を色分けしてみるとこの構図がいっそうはっきりする。
 つまり「改憲・小選挙区推進派」のチャンピオンは「政策フォーラム21」をこのほど結成した小沢元幹事長と羽田前蔵相。小沢氏らと距離を置いているものの、三塚政調会長と小渕元幹事長が同じカテゴリーに入る。「改憲・小選挙区慎重派」が中曽根元首相。梶山幹事長、渡辺外相もこれに近いとみられる。
 一方、「護憲・小選挙区推進派」は後藤田法相、森山文相ら。「護憲・小選挙区慎重派」が河野官房長官、佐藤総務会長といったところ。宮沢首相はこのところ小選挙区制導入に意欲をみせているが、「本来は中選挙区論者のはず」(自民党筋)との観測は強く、「護憲・小選挙区慎重派」の色彩が濃い。
 こうしてみると「護憲派」は宮沢派と河本派に偏っており、仮に政治改革の進め方に不満をもった「改憲派」が宮沢包囲網をひけば一気に宮沢政権は窮地に立つという見方も成り立つ。
 「運命共同体」だったはずの渡辺外相が国際貢献にからむ憲法問題で首相との違いを徐々に明確にしているのもこうした可能性を示唆するものといっていい。現行憲法では国連平和維持活動(PKO)の参加についても「カンボジアがぎりぎりの限度で、それ以上の貢献をしようとすれば憲法問題に踏み込まざるを得ない」(自民党幹部)というのが党の共通認識になりつつあるが、首相が政治改革に加え、国際貢献問題でも慎重な態度をとれば、改憲派の不満を一層加速させよう。
 ただ、党三役の一人が指摘するように「憲法問題といっても参議院の与野党逆転の状況では現実性がない。憲法問題もマスコミが騒ぐだけで、今国会の争点とは言い難く一過性のものだ」との冷めた見方もある。


 
 
 
 
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