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1993/10/08 読売新聞朝刊
[社説]「自衛隊違憲」に苦しむ社会党
 
 細川政権にとって初の予算委員会論戦が、参院でも始まった。衆院段階からの与野党の論戦を通じて、連立政権の基盤が極めて不安定なものであることが、改めて浮き彫りになっている。
 その典型が、自衛隊問題をめぐる自民党と社会党の攻防だ。
 自衛隊の憲法上の位置づけに関する質問に、山花貞夫政治改革担当相をはじめとする社会党閣僚は、「現在の自衛隊の実態は違憲」と答えている。同時に、「国の政策は継承する、との連合政権の合意は守る」とも述べている。
 これに対し、自民党側は、「憲法九九条(閣僚等の憲法擁護義務)違反ではないか」などとして、繰り返し追及している。自民党内には、社会党閣僚に辞任要求を突きつけるべきだ、との声もあるようだ。
 かつては、閣僚に改憲容認発言などがあれば、すぐにそれをとらえて、憲法擁護義務に反すると真っ先に辞任を要求するのが、ほかならぬ社会党の常用戦術だった。
 「国務大臣が一政治家あるいは政党の一員として」見解を述べるのは問題ない、というのが政府の統一見解だ。しかし、「改憲の必要はあるが、現憲法が存在する限りは、閣僚としてそれを守る」というのと、「違憲だと信じるが、閣僚としては違憲の実態に目をつぶる」という論理の間には、大きな違いがあるのではないか。
 それに、社会党閣僚の答弁には、前半部分だけでも問題がある。「現在の自衛隊の実態は違憲」といえば、あたかも、自衛隊の規模や装備を変えれば合憲であるかのように聞こえる。
 だが、どう「実態」を変えれば「合憲」になるのかは語らない。語れないのが社会党内の「実態」だろう。
 社会党は、歴史的に、自衛隊の存在そのものを「違憲」としてきた。規模その他の「実態」を違憲・合憲の判断基準にしてきたわけではない。
 現在にいたるまで、根本のところで自衛隊を「違憲」としたままだから、責任ある安全保障政策の作成どころか、そのための論議さえできないでいる。
 社会党首脳部は、最近、しばしば、「違憲か合憲かの論議は意味がない」といった言い方をする。予算委での自民党質問に、「合憲、違憲の堂々巡りの議論は終わっていい」と答弁した社会党閣僚もいる。
 要するに、違憲、合憲という判断は棚上げしたい、ということだ。党内対立を避けるための内向け論理が、党外にも通用すると思っているのは、“甘えの体質”というしかない。
 今回の予算委では、いわば一般的な憲法論議という形だったが、次期通常国会では、「実態は違憲」である防衛・自衛隊予算案が審議の対象になる。その時は自ら提出した予算案を、「実態は違憲」の予算案と呼ぶことになるのか。
 社会党は、党固有の政策として軍縮を目指すにしても、まず基本的に自衛隊合憲に踏み切るべきだ。でなければ、今後、ますます論理矛盾が深まるばかりだ。


 
 
 
 
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