1993/04/03 読売新聞朝刊
[社説]憲法をすなおに考える時が来た
読売新聞社の「憲法」に関する全国世論調査で、現憲法を「改正する方がよい」と考えている人が過半数になったという画期的な事実が明らかになった。
「国際貢献などいまの憲法では対応できない新たな問題が生じているから」がその主な理由で、最近の憲法論議を「望ましい」とする人も七割近くに達している。
これまで、軍国主義化、軍事大国化の恐れがあるとしてタブー視されてきた改憲論議が、国民意識の成熟によって、大きく変化した。「護憲は善、改憲は悪」という誤った固定観念を離れて、すなおに憲法を考える時代が来たと言ってよい。NHKや日本世論調査会などの最近の調査でも、同様の傾向が明らかになっている。
これは、湾岸危機への対処や国連平和維持活動(PKO)参加問題で明らかになった政治の対応の“遅れ”に、世論が無言の批判を表明したものでもあろう。
宮沢首相はもとより、与野党の政治家はこれら調査結果をしっかり踏まえて、今後の憲法論議を展開してもらいたい。
今回の結果を過去のデータと比較すると、その変化がいかに画期的であるかがわかる。今回初めて50・4%と過半数になった改正派は、八一年一月の時点では13・5%に過ぎなかった。今回33・0%の非改正派は、その時71・2%にも達していた。
NHKの先月の調査は、改正派38・4%に対し、非改正派は34・1%で、改正派が比較多数となったが、一年前の調査では改正派34・7%、非改正派41・6%だった。この一年の間に逆転したことになる。
また、日本世論調査会の調査では、憲法論議の必要性を否定する人はたった4・4%で、九割近くは見直し論議に賛成か容認の考えを示した。論議のタブー視傾向は過去のものになったとみてよかろう。
読売新聞社の調査で注目すべき点は、改正派の年代別分布だ。二十―四十歳代が五割を超えたのに対し、戦中、戦前派の五十歳代以上では五割を切り、高齢になる程、改正派の比率は減少している。
「改憲」という言葉によって、赤紙一枚で徴兵された暗い時代の体験を連想するからだろうか。確かに戦後の一時期までの改憲論には、再軍備や戦前の天皇制復活などを企図した復古主義があった。私たちは、そのような改憲論には反対である。
しかし、最近の改憲論は、それとは質的に全く異なる。軍国主義の暗い時代と、自由で民主的な現代とでは、政治、経済、社会の基盤が一変している。日本が再び戦前のような侵略戦争を起こすことはあり得ない。国際情勢が激変する中で国連も、その平和維持機能を発揮しようとしている。
現憲法が想定していなかったことが、あちこちで起きている。日本は、もはや平和の受益者の立場だけにとどまってはいられなくなった。平和を守るためには、可能な国際的役割を積極的に果たす必要がある。何ができ、何ができないかは、憲法論議を深めることで、合意点を探るべきだ。
それが、二十一世紀へ向けて、日本が平和と繁栄を維持するためのカギとなる。
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