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1993/01/27 読売新聞朝刊
[社説]新しい憲法論議の発展を望む
 
 政治改革、景気対策をはじめ、今国会も重要課題が目白押しだ。だが、長い目で見ると、今国会は、憲法改正論議が、やっとタブーから解放された節目として記憶されることになるだろう。
 二十五日から始まった代表質問で、各党がそろって憲法見直し問題を取り上げた。「護憲」以外は口にしなかった社会党さえも、「創憲」を掲げて、大いに憲法論議をしようと呼びかけた。
 なぜタブーは破れたか。冷戦構造の崩壊と世界の歴史的変化の中で、国際社会におけるわが国の在り方も、改めて考え直さなくてはならなくなったからだ。自民党の三塚政調会長のいうように、敗戦直後に制定された憲法と現実の間に多くのズレが生じている、との認識による。
 今国会で提起されたのは、いわば、「新しい時代」に対応するための「新しい憲法論議」といってよい。
 これに対し宮沢首相は、「国民世論が未成熟でコンセンサスができていないので、私としては憲法改正は考えていない」と繰り返すにとどまった。
 一応、「いろいろ議論があることは悪いことではない」とも述べてはいるものの、これでは、事実上、議論から身をかわしているだけに等しい。
 今回の代表質問に限らず、各方面から提起されている憲法見直し論議の本質は、現状のままで、わが国が国際社会から問われている諸課題に対応していけるのかどうかということにある。
 たとえば、ガリ国連事務総長が提案した平和執行部隊にしても、首相は「わが国が参加できるかどうかは別個の問題」とするにとどめているが、今の憲法のままで参加は可能なのか、もし不可能だとすれば、参加しないとするだけですむのかなど、首相の見解と展望とを具体的に示すべきだ。
 民社党の大内委員長が指摘したように、米クリントン政権は、すでに国連安全保障理事会への日本とドイツの常任理事国入りに支持を表明している。
 政府もこれを歓迎しているが、集団安全保障に立脚する国連憲章下で、いまのままの日本が常任理事国になって、その責任を果たせるのか。いまから、その日に備えた議論をしておかなくていいのか。
 ほかにやることがたくさんあるなどと言って先送りできる問題ではあるまい。
 河野洋平官房長官は、昨今の憲法論議が国内政治的思惑による駆け引きだけであるかのような発言をしている。時代の変化を抜きにして、いたずらに論議の高まりに水を浴びせている形だ。国際貢献の在り方と憲法解釈の不統一という問題をどう考えているのか。
 国民世論が未成熟なのは事実だろう。だが、国民の合意を形成するため積極的に議論を導くのが政治の役割ではないか。
 首相は施政方針演説で、「経済社会システム全体の変革」に向けて、政治が「先導役」を務めると述べている。世論の成熟を待ってなにもしない、というのでは、「先導役」は務まらない。


 
 
 
 
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