3.3.3 結果と考察
3.3.3.1 同定実験
(1)ブロック同定の誤認
観察された誤認を表3・2に示した。点状ブロックを除く全てのブロックにおいて計71件の誤認が見られた。誤認率の全体平均は13.9%であった。
ブロック別に見ると、点状ブロック(0%)と線状ブロック(2.7%)で誤認率が低かった。混合ブロックの中で比較すると、混合ブロックC(32.9%)は全体平均の2倍を上回る高い誤認率を示し、反対に、混合ブロックBは全体平均の半分以下(6.8%)と誤認率が低かった。
誤認の内訳では混合ブロックを点状ブロックと取り違えたケースが誤認全体の9割以上を占めた(66件)。なかでも混合ブロックCで多く(24件)、反対に混合ブロックBで少なかった(5件)。混合ブロックA、D、Eはちょうどその中間であった(それぞれ11件、13件、13件)。混合ブロックCでは識別線を踏まなかった件数が16件と特に多いこと、および、混合ブロックA、D、Eでは識別線を踏まなかった件数がほぼ同じであることから、混合ブロックを点状ブロックとする誤認の発生には識別線と点状突起との間隔が影響したと推測される。つまり、識別線と点状突起の間隔が広すぎると、探索が識別線まで十分に及ばず、仮に探索が及んだとしても一体化したブロックであると認識しにくいものと推測される。逆に、識別線と点状突起の間隔が狭すぎると識別線と点状突起を完全に分離して認識できないものと推測される。混合ブロックDと混合ブロックEの誤認件数とその内訳が大きく異ならないことから、識別線どうしの間隔は誤認には大きく影響しなかったものと考えられる。
表3.2 ブロック同定の誤認
ブロック |
試行数 |
誤認数(件) |
誤認率(%) |
誤認内容(件) |
識別線を踏んだか?(件) |
混合
ブロック |
線状
ブロック |
点状
ブロック |
踏んだ |
踏まなかった |
混合ブロックA |
73 |
12 |
16.4 |
- |
1 |
11 |
9 |
3 |
混合ブロックB |
73 |
5 |
6.8 |
- |
0 |
5 |
4 |
1 |
混合ブロックC |
73 |
24 |
32.9 |
- |
0 |
24 |
8 |
16 |
混合ブロックD |
73 |
13 |
17.8 |
- |
0 |
13 |
9 |
4 |
混合ブロックE |
73 |
15 |
20.5 |
- |
2 |
13 |
13 |
2 |
線状ブロック |
73 |
2 |
2.7 |
2 |
- |
0 |
- |
- |
点状ブロック |
73 |
0 |
0.0 |
0 |
0 |
- |
- |
- |
計 |
511 |
71 |
13.9 |
2 |
3 |
66 |
40 |
29 |
|
その他の誤認には、混合ブロックを線状ブロックと誤認したケース(3件)や、線状ブロックを混合ブロックと誤認したケース(2件)が見られた。これらのケースの発生理由を探るために、実験後にビデオによる解析を行ったが、明確な理由はわからなかった。なお、理屈上では、混合ブロックの識別線を踏まずに、混合ブロックであると「正解」してしまうケースも考えられるが、そのようなケースは本実験では見られなかった。
以上のことから、誤認率の観点では、混合ブロックBが最良と言えるだろう。
(2)ブロック同定の所要時間
制限時間(60秒)を超過した例は1件も見られなかった。
全試行についてブロック同定の所要時間の分布を図3.18に示した。いずれのブロックにおいても所要時間は右方に偏った分布(分布の中心が左方にずれる)となったため、代表値として平均値ではなく中央値を図中に示した。また、参考のため、分布の歪みの尺度である歪度も図中に示した。なお、混合ブロックA、B、C、Eと線状ブロックに各1件ずつみられる所要時間が40秒付近のケースは同一被験者(男性、中途失明者)によるものであった。混合ブロックDでみられる所要時間が35秒付近の事例(3件)はそれ以外の3名の被験者によるものであった。
混合ブロックA
混合ブロックB
混合ブロックC
混合ブロックD
混合ブロックE
線状ブロック
点状ブロック
図3.18ブロック識別の所要時間
ブロックを踏む際の進入方向(X方向、Y方向)によって所要時間に差が見られるかどうかを比較したが、統計学的に有意な差はみられなかった(歪度の大きい2種類のデータに適用可能なウィルコクソン検定を用いた)。また、実験の前半と後半で所要時間に差が見られるかどうかを検討したが、こちらも統計学的に有意な差はみられなかった(ウィルコクソン検定)。そこで、以下においては、各ブロックとも2回の試行の平均所要時間を用いて解析を行った。
ブロック種別によって所要時間に差異が見られるかどうかを検討したところ、統計学的に有意な差がみられた(歪度の大きい3種類以上のデータに適用可能なフリードマン検定を用いた、P<0.001)。そこで、多重比較によってブロック間の差異を検討したところ、線状ブロックが他の全てのブロックよりも所要時間が有意に短いことがわかった(いずれの組合せにおいてもP<0.05)。しかし、それ以外のブロックの間には有意な差は見られなかった。したがって、所要時間の観点から統計学的に混合ブロックの優劣をつけることは難しいと言える。なお、線状ブロックで所要時間が短かったのは、最初の一歩を踏み出してブロックを踏んだ時に点状突起が無ければ、すなわち線状ブロックであると判断できるためと推測できる。逆に、線状ブロック以外では最初の一歩で点状突起を踏んだ後、周囲を探索して識別線の有無を確認しなければならないために、線状ブロックの場合よりも長い時間を要したと推測できる。
ところで、実験後の聞き取り調査における「実用的な観点からの制限時間」に関する質問では、実験準備の都合で質問が出来なかった最初の5名を除く33名の被験者から回答を得た。回答は4秒から60秒まで多岐に渡った。「何秒〜何秒」というふうに幅をもたせた回答例(4件)については、便宜上、中間値を代表値とした(例えば10〜20秒という回答では代表値を15秒とした)。また、「ブロックに乗った瞬間にわかる」という回答(1件)については、便宜上、「1秒」とした。なかには「状況によって異なるため答えられない」と回答した例(1件)や「命がかかっているものだから制限時間という概念はなじまない」という理由で回答を拒否した例(2件)が見られたが、これらは数値化が難しいため、以下の分析対象から除外した。結局、それらの結果を集約すると、10秒以下との回答が多数を占めた。また、累積割合で見ると30秒以下との回答が全体の9割以上を占める結果となった(図3.19)。このため、30秒を“実用上の制限時間”として参考のために図3.18中に点線で示した。
なお、誤認率と所要時間との間に統計学的に有意な相関はみられなかったため、相互の関連は無いものとみられる。
図3.19被験者が回答した「妥当な制限時間」の分布
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