第3章 今後の展開と課題
1. 浜松サポート資源ネットワークシステム(仮称)の設立(=ステップ1)
当初この調査の助成金申請を行った頃、税制改正によるNPO法人への寄付金税制優遇措置が施行され、日本の企業フィランソロピー活動に新たな幕開けをもたらすのではないかと期待された。しかし、社会的に必要とされる活動内容のプライオリティーや人々から必要とされる度合いは視野になく、税制優遇措置を受けようとする企業や個人からの支援は、ごく一部の高度に組織化された団体のみに集中されてしまうのが現状である。
このような事から浜松NPOネットワークセンターでは、地域のニーズを反映した必要不可欠なサービスを地域住民に提供するNPOと企業とを“浜松サポート資源ネットワークシステム(仮称)”でネットワークし、中間支援組織ならではの役割を果たして行きたい。
以下がその概略である。
[図−1]
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浜松サポート資源ネットワークシステム(仮称)設立の目的は、地域の課題に取り組むNPOへの支援を通し、地域の人々が安心して豊かに暮らせる事を目指す。そして何よりも多文化が共生して成り立っている浜松地区らしく、人々の多様性を原動力にコミュニティー・ディベロップメントを実現できればと考える。
まず設立に先立ち、委員会を立ち上げ設立準備室を設ける。企業、団体、個人から提供いただくサポート資源は大きく四つに分類される:(1)物品(中古オフィス備品、家具、空調機器など)、(2)場所(事務所スペースの貸与など)、(3)資金・寄付(企業基金や労働組合からの助成、個人からの寄付、社員給与の端数寄付など)、(4)人材交流・ノウハウ(退職前社員の団体派遣、会計・経理などのノウハウ伝授)。運営方法は、参加企業、団体を募集し企業や個人からの提供・支援内容やNPO法人の活動内容、具体的事業をホームページ上で掲載しマッチメーキングを行う。目標は持続的な支援で、それにより個々の団体が発展的な活動を自立して行えるよう寄与したい。
2. 協働事業(=ステップ2)
浜松サポート資源ネットワークシステムをさらに発展させ、企業とNPOの協働事業を検討している。地域の市民が企画する事業に企業が参加する事によって、間接的に企業や地域社会にもプラス効果が還元される仕組みをこの協働事業で実現したいと考えている。
浜松NPOネットワークセンターでは、過去2年間に、企業との協働事業を行い、以下の成果を挙げている。2
(1)国際ワークキャンプ
ブラジル学校(上島)の校舎と校庭の環境整備に際して、国際的な学生のワークキャンプを2週間開催し、建具の修理、フェンスの修繕、ペンキや、重機の提供を地元の複数企業から受け、立派な校舎に改修した。
(2)ランチオークション
ブラジルコミュニティーとの交流を図る目的で、複数のエスニックレストランから昼食券の提供を受けた。オークションで買い取られた食券は、エスニックレストランで利用されたが、協力レストランは新規顧客を獲得し、食券以上の飲食で利益を得た。また、オークションの売り上げは当センターの運営費に充当されるという循環型協働事業の成功例である。
(3)ダンス・エイド
ブラジル学校の生徒たちと一緒に踊る会を企画。教材費として参加料500円を徴収。また、多数の企業から衣装の布地の提供を受け、東海文化専門学校の学生の協力で立派な衣装が完成し、楽しい催しになった。
(4)外国人無料検診会(MAF)
人口の3%が外国人である浜松市で、ボランティア組織であるMAFが、無保険状態にある外国人を対象に無料検診会を、過去6年間にわたり開催している。浜松中ロータリークラブ、へるすの会、医療関係者有志と通訳ボランティア、一般市民総勢300人が、600人の検診者を支えています。この事業が継続して実施できるのは、遠州病院による会場提供、医療器具・検査関連会社の協力、医療関係者の専門的な協力があるからである。
これらの活動は、市民・企業・専門家の「協働事業の成功例」として、全国的にも高く評価されている。
[図−2]
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この他、地域の環境整備、自然保護、芸術活動や子供の支援など、関心のある分野で、モノや資金の提供だけではなく、専門家としての参加や、共に汗を流し、人と人が交流できる事業を提案し、かつ、計画している。上の図は、その模式図である。3
3. 浜松サポート資源ネットワークシステム(仮称)と平行して行う計画
コミュニティー・シンクタンクの必要性
浜松サポート資源ネットワークシステム(仮称)の設立と平行して、コミュニティー・シンクタンクの役割も担いたい。地域の抱える問題を分析・解明し、地域住民と共に人々が望む方向で解決支援する役割を、このシンクタンクが中間支援組織として果たし、必要とあらば地域住民の生の声として行政への政策提言も行って行きたい。
サービス・ラーニングの必要性
2002年春に新学習指導要綱で総合的学習が導入された。学校も週5日制になり各地では土曜日の子供のイベントが目白押しである。しかし果たして何の理念もポリシーもないままただゆとりの学習を推進して良いのだろうか?このままでは学力低下のみならず生活力、社会力が低下し今の企業フィランソロピーよりさらに社会意識の低下した企業人を排出することになるのではないだろうか?欧米ではすでに約10年程前からサービス・ラーニング(米国)やシチズンシップ・エデュケーション(英国)と称される市民の社会学習が試行錯誤しながらではあるが体系的に行われてきた背景がある。さらにそれ以前にもまだこのような名称もなかった時代から子供達が実際地域の中で(移民問題、人種差別問題、環境問題など)さまざまな問題に取り組む大人達の傍らで自分たちが出来ることを社会で行い、クラスルームに戻り体験・経験したことをフィードバックし発表する機会が私の在米経験でも幾度もあった。小学校低学年の時代から自分で調べ、簡単なレポートをまとめ、クラスで発表する。そういった一連のプロセスの中で論理的な考え方や問題意識を持つこと、そしてそれを解決していく力を備えられたと思う。このように非常に些細な事でもやはりビジョンがなくては子供は正しい方向に導かれないと思う。もちろん日本の総合的学習はまだ始まって数ヶ月で教育関係者も暗中模索の連続ではあると思うが、総合的学習を単発のイベントをこなすだけで終わらせることなく思想がある体系的な総合学習という観点からサービス・ラーニングのようなプログラム導入を今後浜松地域で計画している。
4. 最後に
浜松サポート資源ネットワークシステム(仮称)により、今まで受動的に行われていたと思われる、企業の社会貢献活動も、企業が支援したい分野に支援できるという自発性が生じることにより、お付き合いで行っていた、あるいは形式だけの社会貢献と違い、社会的責任の全うによりその企業の真の存在価値が生まれるのではないかと思う。4
さらにこのシステムを通し企業とNPOの人的交流を図る事により、現在の若い企業経営者にも社会貢献の枠をさらに越え、企業の社会的責任を全うできるような企業経営者に少しでも多くの人がなっていただけたなら日本の企業フィランソロピーも欧米並に成熟する事が期待できるのではないかと考える。
2 “協働事業による参加“、山口祐子
3 “協働事業による参加”、山口祐子
4 “社会貢献資料2002−グッド・カンパニーへの変革(II)”、経団連
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