はじめに
NPO(非営利組織)の活動を支援するため2001年10月から個人・法人による寄付金を税制面で優遇する制度が施行された。この新制度の導入により個人や企業からNPOに対して社会的課題解決の担い手としての期待が今まで以上に高まるとともに寄付金の増加が期待された。今回の制度を享受できる対象となるにはいくつかの条件を満たし、さらに国税庁長官に認定されたNPOでなければならない。その主な条件とは以下の通りである:(1)総事業費の80%以上、寄付金の70%以上をNPO活動に当てている事、(2)総収入に占める寄付金の割合が3分の一以上である事、(3)運営組織や経理、事業内容が適正である事、(4)情報公開が適切である事。寄付をする側の場合、個人では所得税の「特定寄付金」として、年間所得の25%未満を寄付金から一万円差し引いた金額の控除を認めている。法人や企業もその所得や資本金に応じ一定限度内の損金算入が認められるようになった。1
本制度導入前は浜松地域でもさらなる企業フィランソロピーの発達と寄付を受けるNPOの増加が期待され、企業や個人が地域の為に活動するNPOを支援しやすい環境を築く為の調査と位置づけた。しかし全国的に見ても本制度の対象となる認定NPOはわずか5団体しかない。現状のままの税制度や政策ではアメリカやイギリスで見られるような企業とNPOの強力なつながりによって地域社会の課題解決という観点から考えるコミュニティー・デベロップメントにはまだまだ歳月を要すと考えられる。以上のような点を少しでも改善する方向で今回の調査内容は当初計画した内容を一部変更して行った。
平成14年5月
浜松NPOネットワークセンター
調査担当 山田清美
第1章 本調査の概要
1. 調査目的
本調査は2001年10月に施行された税制改正に伴い、非営利組織(NPO)への寄付金控除が認められることにより、浜松地域においても、寄付が的確に必要とする団体に渡るようにする事を目的に計画した。しかしながら、寄付控除対象のNPOとして国税庁の定める認定団体となるには非常に高いハードルがあり、浜松周辺では現在の所認定団体は皆無である。このようなことから、さらに調査の目的及び目標を具体化したが、当初目標としていたドナーと団体のマッチメーキングを行い、企業や個人が寄付をしやすい環境を整備するという点では全く同じである。漠然とした啓蒙活動による環境整備ではなく「浜松サポート資源ネットワークシステム(仮称)」という具体的なシステム作りを行うことにより、企業からのリサイクル品のやりとりにとどまらず人材交流、場所(事務所などの)の貸与、資金・寄付をNPOが享受し、逆にNPOはその後の活動や事業内容を報告するという双方向のやりとりを生み出し、地域生活の質の向上を目指したいと考えた。その後さらにステップ2としてこのシステムを発展させ、企業とNPOの協働事業を地域で展開したいと考える。
このようなグランド・デザインによるフレームワークを元にして今回はNPOに対する税制優遇措置と企業フィランソロピーに関する調査を行った。
2. 調査方法
(1)アンケート調査
浜松商工会議所、浜松経済同友会、浜松経済クラブなどに今回の企業アンケートに関するヒアリングを行った。調査はアンケート方式とし、以下の質問グループにより構成される。(1)NPOに対する認識、(2)社会貢献に対する認識、(3)NPOに寄付を行った場合の税制優遇措置に関する認識、(4)浜松サポート資源ネットワークシステム(仮称)に関する質問。
静岡銀行浜松支店の協力による29社、及び浜松経済クラブの協力による100社にアンケートと資料を配付した。案内を出した129社中回答が得られたのはわずか15社で回答率は11.6%にとどまった。
今回の回答率の低さにはいくつかの点が指摘される。具体化した計画を提出したほうが経営者に分かりやすいとのアドバイスを地元商工会議所、経済同友会からいただいた事により再度調査計画のグランド・デザインを練り直したこと。アンケートを各企業に依頼したのが2月末から3月であった事から、年度末の時期と重なりなかなか返事がいただけなかった。企業業績が芳しくない中でこの様な内容のアンケートに企業側が応えられない。また、本アンケートの回答者を企業経営者か責任のある方にお願いしたが、回答の基準を企業の立場とするか個人の立場とするかにより回答が異なるようであった。例えば、企業経営者個人がこのようなシステムに興味があっても、企業全体で考えた場合には参加が難しい等があった。
今回の調査を教訓に、次回からは講演会などの最後にアンケートに協力戴き高回収率でより正確な調査結果を出せるようにしたいと考えている。又、今回のようにとりまとめを行っている団体や企業の意向もあり提出していない企業に再度アンケートの返送の呼びかけができなかった事から次回は別の方法を検討したい。
(2)ヒアリング調査
商工会議所の名簿から大手企業3社に電話によるヒアリング調査を行った。内容は書面によるアンケート調査と同じ内容の質問を各社に聞いた。感想を述べる質問や具体的な例を記入する質問では書面によるアンケートではあまり積極的な記入は見られなかったが、電話によるヒアリングを行った企業についてはかなり具体的に意見や感想を伺うことができた。
3. 調査内容の予測と結果
質問グループ1:一般的にNPOに関する認識は、最近の新聞やメディアでもよく取り上げられている事から高い認知を得ていると予測したが、3割の回答者がNPOとはどのような活動をする組織なのか分からないと答えた。
質問グループ2:企業の社会貢献活動に関する質問ではあまり活発に行っていないと予測したが、企業側には本業をすることが社会貢献につながっているという認識が高い事が分かった。
質問グループ3:NPOへの寄付金が税制優遇措置を受けられる事に関しては予想通りあまり知られていなかった。
質問グループ4:浜松サポート資源ネットワークシステム(仮称)についてはさまざまな参加レベルがあるので何らかの形で参加してくる企業が多いのではないかと予測したが、まだ設立前の段階なので非常に慎重な回答であった。
4. 調査担当者
本調査は、浜松NPOネットワークセンターが行った。調査を担当したスタッフは以下の通りである。
山口祐子 浜松NPOネットワークセンター 代表
山田清美 浜松NPOネットワークセンター 主任研究員
1 日本経済新聞、“小粒減税実質は負担増”、2000年12月14日
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