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厚生科学研究(結核研究所)
新しい結核対策のあり方に関する総合検討会報告
8月9日〜10日/結核研究所
 
結核研究所対策支援部企画科長
星野 斎之
 
 去る8月9日から10日の2日間に、全国の保健所及び医療機関において結核対策に携わる者が参加し、日本の結核対策の今後のあり方について、総合的な検討会(平成14年度厚生科学研究費補助金再興感染症研究事業「再興感染症としての結核対策確立に関する研究」主任研究者:森亨結核研究所長)が開催された。
 本稿では、検討会の経過と検討された主要な課題について報告する。最終的な検討結果については、同研究班報告書を参照されたい。
結核研究所講堂にて、4班に分かれ熱い討議が繰り広げられた
 
検討会の陣容と討議経緯
 検討会には、先進的に結核対築に取り組んでいる保健所及び医療機関と結核予防会より計35名の保健医療従事者(保健所等の公衆衛生行政機関より21名、医療機関より8名、結核予防会支部より4名、教育機関より2名)、加えて結核研究所より15名が参加した。最初に森結核研究所長より「結核対策の包括的見直しに関する提言」の解説があり、現行結核予防法が制定された当時の結核まん延状況とその状況に基づいた結核対策の枠組み、今日における結核のまん延状況とそれが持つ各種の問題点、そして現行結核対策の見直しの結果が示された。その後4班に分かれて、以下の項目ごとに検討を進めた。
1. 患者発見
2. 予防接種、化学予防
3. 医療、人権の尊重
4. サーベイランス、国・自治体等の責務
 班に分かれてからの検討の進め方は、最初に見直し提言から見た改訂の焦点とその妥当性に関する検討を行い、検討結果を班別に全体報告し総合討議を行って議論を深める。それを受けて再度各班において具体的な方策を検討し、その結果を再び全体会議で班別報告し全体で討議する形式であった。以下に、各班において検討された主要課題を紹介する。
 
 
1. 患者発見(第1班)
<患者の発見方策について>
 (1)特定対象に対する健康診断による患者発見方策、(2)有症状者に対する医療機関における臨床的診断の2つに大別して検討が進められた。患者発見方策を行う特定対象を、ハイリスク層(発病しやすい者)とデインジャー層(発病すると二次感染を起こしやすい職業などに就労している者)の2つに大別し、具体的な対象ごとに、実施主体と、考えられる財源に関する討議を行った。また健診方法については、胸部X線診断が困難な者(寝たきりや脊柱の変形)への対応方法について、検査方法とその利用方法が検討された。
 
第1班 第一健康相談所 増山診療部長による報告
 
 有症状者に対する患者発見方策については、診断の遅れを改善するための方策として、医療従事者教育における結核の位置付けや、医療従事者に対する啓発と喀痰検査の普及の必要性などが話し合われた。また、本班では小中学生に対する定期健診が廃止された場合における同年齢層の結核対策についても、検討が進められた。
2. 予防接種、化学予防(第2班)
<ツ反・BCGについて>
 今回の見直しに関する提言及びその後の厚生科学審議会の検討結果を受けて、(1)乳幼児期におけるツ反検査と、(2)小中学生における定期健康診断及びBCG再接種が廃止された場合の小児結核対策のあり方について検討が進められた。
 
第2班 大阪府羽曳野病院高松参事による報告
 
 生後早期の予防接種を推進するため、生後12ヵ月未満の者についてはツ反検査を省略することが提言されているが、安全に直接接種が行われるための方策が、重要課題として検討された。また、包括的見なおし提言にもあるが、BCG接種技術の確保の方法が検討された。 (3)化学予防については、公費負担の対象とすべきか否かと化学予防の適応基準や治療方法について討議が行われた。また、予防内服の方法(治療薬剤や治療期間の選択について)の普及の仕方についても、議論された。
3. 医療、人権の尊重(第3班)
<結核医療全般について>
 結核診療については、(1)適切な治療方法の周知・徹底、確実な服薬の確認方法、(2)入院治療の確保と結核病床の機能分化、(3)非結核性抗酸菌症や多剤耐性結核症の保険適応の3点が検討され、結核対策と人権の関わりについては、人権を制限する措置の必要性その審議機関の設置について討議された。
 
第3班 国立療養所 千葉東病院 山岸副院長による報告
 
 まず、標準的な治療方法を徹底することを目的として、結核診査協議会や公費負担の活用方法が検討された。確実な服薬を支援するために、入院中の服薬確認と外来治療における確実な受診と服薬確認をいかにして確立するかが検討された。
 結核病床の確保については、合併症を有する結核患者、多剤耐性結核患者、慢性排菌者、住所不定結核患者など、結核患者の状況に応じて病床の機能分化を進めることが包括的見直し提言で示されており、それを受けて議論が進んだ。
 その他、非結核性抗酸菌症の扱いや、多剤耐性結核症にかかわる有効な薬剤の適応症の見直しなどが検討された。診療の確保と結核患者の人権の関わりについては、感染症法における人権への配慮を参考にして討議が進められた。
4.サーベイランス、国・地方自治体の責務(第4班)
 発生動向調査(サーベイランス)は、現在は予算措置だが、法制度上の位置付けを整備することの必要性が検討された。サーベイランスにかかわる国及び都道府県知事等の責務、保健所の果たすべき役割などが議論された。同調査の質的課題(届出の漏れや遅れ、治療経過に関する情報収集、情報の還元方法、患者発生情報の関係保健所との共有)についても検討が進められた。日本の将来の結核対策における国、都道府県、市町村、保健所の役割も討議された。
 
第4班 山形県村山保健所 阿彦所長による報告
 
 以上が、各班が検討した課題である。2日間という限られた期間に、日本の結核予防体系という多方面の保健医療分野(小児保健医療、学校保健、成人保健医療、老人保健医療、国際保健医療など)及び人権に関わる課題について、効率的にしかも熱心に議論が進められたと思う。将来の結核対策の大幅な見直しに向けて、結核研究所の積極的な支援体制の下にサービスを行う側や新しい規定を運用する側に位置する者による検討準備が進められている。将来の日本において結核が特定の社会層に集中していく可能性や、日本及び世界の貧富の差の拡大傾向を考えると、今回のような検討会や、サービスを受ける側にいる者や規制される側にいる者の視点から見た対策のあり方の検討(例えば、社会の結核に対する偏見の再興の予防、特定の社会層に属する者の一般医療機関や健診の利用のしやすさなど)が、今後ますます重要になってくるのではないかと思った。また、このような重要な会議に参加できたことを、大変喜ばしく思った。







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