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(2)犯罪への対応について
(1)犯罪発生の増加
 近年、公共交通機関においても器物破損や暴行・傷害などの犯罪が急激に増加しており、公共交通機関の利用者や職員にとって不安が増大していると言える。
(2)犯罪の抑止
 利用者アンケートでは、安心できる犯罪対策として、職員が巡回することを挙げる回答者が、監視カメラや通報ボタンを挙げる回答者を上回った。(図−(5))
 
・職員や警備員の巡回
 職員や鉄道警察隊による巡回だけでなく、警備会社への委託による巡回を実施している事業者もあるが、コスト面の理由で巡回をほとんど行っていない事業者もある。限られた財源の中で、各事業者が犯罪抑止のための人的な対応についての利用者の要望にどのように答えていくかが課題である。
・監視カメラ
施設内に監視カメラを設置している交通事業者も多い。利用者の目に付く場所に設置することで犯罪を抑止する効果が考えられるが、目立たない所に設置されている場合もあり、効果的な設置・活用方法を検討することが必要である。
(3)マニュアルの策定
 米国サンフランシスコでは、利用者向けに緊急時の状況を想定し、対処方法を分かりやすく説明するマニュアルを策定している(図−(6))。これまで我が国では外国と比較して治安が良かったことから、犯罪への防備に対する意識は高くなかったが、今後は犯罪の発生が増加する可能性も想定し、事業者・利用者・関係者の間で共通認識を持つことが出来るようなマニュアルの整備が必要である。
 
(3)急病人、けが人等への対応について
(1)連絡システムの必要性
 利用者アンケートでは、急病人やけが人が発生した時の連絡手段として、係員呼出ボタンやインターホンが必要であると回答した者が多い。非常時だけの通報システムだけではなく、状況に応じて使い分けることが可能な連絡手段を求めていると言える。
(2)システムの使いやすさ
 連絡システムが設置されていても設置場所がわかりにくかったり、「非常の際はボタンを押してください」といった表現のように使用して構わないのか判断に迷う場合がある。ドイツ・フランクフルト中央駅のように「非常通報」と「係員呼出」のボタンを同じ位置に並べて設置している例(図−(7))もあり、我が国でもシステムの設置だけでなく使いやすさに配慮した設置が必要である。
 
(4)事故、災害への対応について
(1)列車停止・遅延時の情報不足
 利用者アンケートでは、災害や事故の発生による列車の停止・遅延の際の情報提供について、その理由や運行再開への見込み時間などについての情報を要望している。
(2)避難誘導策の検討
 米国ワシントンでは、利用者が自ら避難するための利用者向けマニュアルが作成されており、避難方法が具体的に記載されている。利用者が独自の判断で避難するかどうかは、災害・事故の発生場所や状況によるため基準を設定することは難しいが、事業者・利用者・関係者の間で情報を共有することが重要である。
 
(5)対応策を推進していく上での課題
(1)職員の安全確保
 事業者へのヒアリング調査において、迷惑行為、犯罪などへの対応の際に職員の安全を確保しつつどこまで対応するべきなのかの線引きが難しいとの意見があった。利用者だけでなく職員の安全確保も課題である。
(2)施設整備・人員配置に対する資金不足
 施設の充実や人的対応の強化などの対応策を講じるためには、事業者の資金だけでは不十分であることも課題である。公共交通が地域の公的サービスの一つであることを考慮し、地域の行政および関係者により、支援・協調を検討していく必要がある。
 
5.新たな対応策に向けて
 
 まとめと今後の展望について整理した。
(1)利用者の安心感向上の必要性
・公共交通利用者に不安や不満が存在
・利用者の安心感につながる交通事業者、関係者等の更なる対応策の検討が必要
・利用者自身の参画意識を高める必要性
 
(2)設備・システムによる対応
・利用者に「わかりやすい」「使いやすい」設備、システム設計
・応答型の連絡システムの充実
・平常時からの抑止を考えることが重要
(3)人的な対応の強化
・利用者は、人による対応(例:職員、警備員等の巡回)が安心感・抑止力が高いと感じている
・行政・関係機関・ボランティアとの協調が必要
(4)利用者本位の情報提供
・利用者の属性、場所、状況に応じた適切でわかりやすい情報提供
・携帯電話を活用したシステムの検討
(5)役割分担の明確化(図−(8))
・交通事業者、利用者、関係機関(警察、消防等)、行政機関の責任範囲の明確化
・地域レベルの情報共有や検討
・継続した利用者ニーズの収集
 
報告書名:
「公共交通における緊急事態への対応に関する調査」(資料番号140060)
本文:A4版164ページ
報告書目次:
第1章.調査の概要
1.1調査目的
1.2調査内容
第2章. 調査対象の整理
2.1 対象とする交通機関
2.2 対象となる緊急事態
第3章. 緊急時対応の実態
3.1 分析の視点
3.2 緊急時における対応方策の段階
3.3 緊急時の種類別発生状況
3.4 利用者の不安要素、要望の把握(アンケート)
3.5 交通事業者の取り組み事例(ヒアリング)
3.6 関係者・交通機関以外の対策の把握
3.7 第3章(実態把握)のまとめ
第4章. 海外事例の把握
4.1 分析の視点
4.2 欧州及び北米の事例
4.3 第4章(海外事例)のまとめ
第5章. 現状における諸課題
5.1 緊急時の課題
5.2 対応策推進上の課題
第6章. 新たな対応方策の提案
6.1 対応の基本方針
6.2 対応策メニューの作成
6.3 対応策メニューに基づいたシミュレーション
6.4 新たな対応策の提案と効果
6.5 まとめと今後の展望
参考資料
 
【担当者名:和平好弘、高木晋】
 
【本調査は、日本財団の助成を受けて実施したものである。】







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