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運輸政策研究機構
2003.5 NO.4
研究調査報告書要旨
都市交通統計における新手法の開発研究
1.調査の経緯と目的
 
 本調査は、既往の都市交通統計調査が、その体系及び手法が見直しの時期にきているとの認識のもとに、特に公共交通に関する調査に着目して、ITをはじめとする新技術の活用を前提とした、より効率的で、今後の調査ニーズに応じた都市交通統計調査の調査体系を検討し、従来の都市交通統計調査に替わる「新たな都市交通統計調査」の基本計画を策定することを目的とする。
 なお、本調査は、平成14年度から平成15年度の2ヵ年に渡り実施する予定であり、平成14年度は中間報告書としている。
 
2.既往の都市交通統計調査の整理
 
(1)概要
 我が国で実施されている代表的な4つの都市交通統計調査及び公共交通統計の概要を以下に示す。
 
(1)国勢調査
 
・統計法規:指定統計(統計法)
 
・対象機関:全手段
 
・旅行目的:通勤、通学
 
・最新実施年:平成12年
 
・調査周期:10年(大規模調査)
 
・調査方法:悉皆訪問調査
(2)パーソントリップ調査(首都圏)
 
・統計法規:承認統計(統計報告調整法)
 
・対象機関:全手段
 
・旅行目的:全目的
 
・最新実施年:平成10年
 
・調査周期:10年
 
・調査方法:抽出訪問調査
(3)道路交通センサス
 
・統計法規:承認統計(統計報告調整法)
 
・対象機関:自動車
 
・旅行目的:全目的
 
・最新実施年:平成11年
 
・調査周期:5年
 
・調査方法:抽出インタビュー調査(OD)
(4)大都市交通センサス
 
・統計法規:承認統計(統計報告調整法)
 
・対象機関:鉄道、バス
 
・旅行目的:通勤、通学
 
・最新実施年:平成12年
 
・調査周期:5年
 
・調査方法:
抽出アンケート(定期券)
悉皆調査(鉄道普通券)
抽出調査(バスOD)
 
 
(5)都市交通年報
 
・統計法規:なし
 
・対象機関:鉄道、バス(一部)
 
・旅行目的:なし
 
・最新調査年:平成12年
 
・調査周期:毎年
 
・調査方法:交通事業者からの報告
 
 これらの都市交通統計は、おのおのの統計とも、共通調査項目がある一方、他の調査で計測されない独自の調査項目を持っており、相互に補完性がある。例えば、予測年次における公共交通の需要量をみる場合、発生・集中量には、国勢調査が活用され、該当する地域相互間の交通流動量・機関別分担量を推計する場合は東京都市圏パーソントリップ調査(以下PT調査という。)が活用される。さらに、鉄道の経路別流動量を推計する場合には、大都市交通センサスが活用される。
(2)国勢調査と大都市交通センサスの比較(首都圏)
 国勢調査は、平成12年に大規模調査が実施されており、通勤・通学時の利用交通機関を調査している。大都市交通センサスの調査対象範囲における、国勢調査の集計結果と大都市交通センサスの鉄道定期券利用者(通勤・通学目的)を比較する。
 総鉄道利用者数は、ほぼ同程度となっているが、国勢調査では、発生量に比べて集中量がやや多くなる傾向がある。これは、調査対象圏域外から流入する通勤・通学者が対象圏外へ流出する通勤・通学者よりも多いためと考えられる。
(3)PT調査と大都市交通センサスの比較(首都圏)
 平成10年に調査が実施されたPT調査と大都市交通センサス(首都圏)を比較する。
(1)対象圏域の比較
 東京都市圏PT調査の対象圏域は、1都3県と茨城県南部であり、茨城県を除いて都県単位となっている。これに対し、大都市交通センサスの対象圏域は、1都7県におよぶが、圏域設定に際しては、東京駅からの鉄道所要時間に依拠にしていることから、基本ゾーン単位とし、都県単位とはなっていない。
 
PT調査の調査対象園域(市区町村数):
東京都全域、神奈川県全域、千葉県全域、埼玉県全域、茨城県南部(333市区町村)
大都市交通センサスの対象圏域*(市区町村数):
東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県、栃木県、群馬県、山梨県(市区町村数:290)
*大都市交通センサスの場合、対象県の全域が対象とは限らない。
 
(2)ゾーン数の比較
 大都市交通センサスの対象ゾーン数は、1,607ゾーンである。これに対し、PT調査の計画基本ゾーンは595ゾーンであり、センサスが3倍近く多い。ただし、小ゾーン数ではほぼ同程度である。
 
PT調査の対象ゾーン数:
計画基本ゾーン 595、小ゾーン1648
大都市交通センサスの対象ゾーン数:
基本ゾーン 1607
 
(3)公共交通機関交通量の比較
 大都市交通センサスとPT調査の鉄道交通量を比較する。首都圏域全体の通勤・通学目的別鉄道交通量は、大都市交通センサスが855万人/日・片道、PT調査は746万トリップ/日となっており、センサスの方がやや多くなっている。これは、両調査の方法に違いによるものである。すなわち、大都市交通センサスが、通常の通勤行動を調査しているのに対し、PT調査がある1日の通勤行動を調査していることから、実行動を反映しているためである。なお、大都市交通センサスが定期券利用者を対象としているのに対し、PT調査では、利用券種を問わないことから、共通乗車カード利用なども反映しているが、定量的な把握は今後の調査課題である。
(4)地域相互間流動の比較
 まず、東京都心地域の鉄道交通量を比較する。それぞれの調査について、都心3区、副都心3区、東京23区、中核都市である横浜市、さいたま市、八王子市、立川市への鉄道集中量をみると、いずれも大都市交通センサスの集中量の方がやや多くなっている。これに対し、川崎市、千葉市では、PT調査の交通量がやや多くなっている。
 次に、2つの調査の圏域全体相互間の地域ブロック間交通流動量を比較すると、上述と同様、主要な流動パターンはほぼ近似する傾向となっている。
 したがって、地域相互間の流動量の集計結果について、2つの調査データとも相当程度の信頼性を有しているというよう。
 
3.今後の政策課題と調査ニーズの検討
 
(1)検討の視点
 大都市圏における公共交通は、自動車社会の進展とともに、社会・経済情勢の変動に伴う影響から、利用者の減少や利用実態の変化がみられるに至り、特に鉄道交通については、これまで実施してきた輸送力増強施策の成果もあり、重要な社会問題であったピーク時の混雑緩和が相当改善された状況になっている。
 一方、環境問題、経済問題、高齢化問題などへの対応が新たな社会問題としてますます重要視されてきたことに対応して、公共交通に対する利便性・快適性の向上、利用の促進が新しい交通政策課題としてとりあげられるようになり、公共交通に求められるニーズが多様化してきている。
 これらの状況を背景に、今まで都市部への人口集中に起因する交通混雑問題を最優先課題として取り組んできた都市交通政策と、その施策を検討するための基礎資料を提供してきた都市交通統計調査は、政策ニーズ、調査ニーズが大きく変化してきていることから、既成の調査体系を見直す必要性が求められる状況にある。
 このような状況踏まえ、本調査では、今後必要となる都市交通統計調査のニーズを抽出した。
(2)運輸政策審議会答申にみる政策課題
 三大都市圏における公共交通網整備に関する政策課題について、ここ20年の3大都市圏における運輸政策審議会答申を整理すると次のとおりである。
【首都圏】
答申第7号(昭和60年7月)
答申第18号(平成12年1月)
【中京圏】
答申第12号(平成4年1月)
【近畿圏】
答申第10号(平成元年5月)
 これら4つの答申に共通する政策課題として、まず、鉄道の混雑緩和があげられる。各答申では、ピーク時最混雑時間帯における混雑率の目標値を150%としており、答申18号では当面の目標として、180%としている。この目標値に対しては、中京圏・近畿圏において、概ね目標が達成されたと評価できる。しかしながら、首都圏については、依然として目標値を達成できない区間が残っており、継続課題として残されている。
 そのほかの政策課題として、都市開発への対応、大空港へのアクセス等があげられ、新たな施設整備が提唱されていた。また、答申第18号では、新たに、速達性向上、広域高速交通軸の整備、シームレス化の課題が挙げられており、引き続き取り組むべき課題として残されている。
(3)今後の政策課題と調査ニーズ
 最新の運輸政策審議会での答申や、行政ヒアリングの内容から、引き続き検討すべき政策課題と、今後の公共交通に求められる新たな政策課題、ならびに、調査ニーズを、次のように抽出した。
 
i
混雑の緩和
 
路線別の詳細時間帯別(15分〜30分間隔程度)
 
駅間輸送量、輪送力、混雑率の把握
ii
都市開発への対応
 
地域間交通流動の変化、大規模開発地区関連の交通流動の把握
iii
空港等特定施設アクセス
 
特定施設関連交通流動の把握、特定施設への利用交通手段・経路の把握
iv
鉄道サービスの高度化
 
⇒vi〜viii
v
地域発展に対応したネットワーク整備
 
交通手段別の流動状況の把握
vi
交通サービスのバリアフリー化
 
利用者が求める交通サービス内容の把握、利用者が求める交通サービス水準の把握、バリアフリー施設の現状把握、乗換施設の整備状況の把握
vii
交通サービスのシームレス化
 
乗換時間の把握、他モード間乗り継ぎ状況の把握
viii
オフピーク時間の交通サービスの向上
 
時間帯別流動状況の把握、目的別・利用券種別流動状況の把握、平日・休日別利用状況の把握
ix
速達性の向上
 
地域間交通流動の把握、地域間移動時間の把握
x
需要喚起
 
交通手段別交通流動の把握、利用者の利用意向の把握、利用者の改善要望の把握
 
4.新たな調査技術の整理
 
 今後の調査体系のあり方を検討する上で、最新の調査技術の動向について整理する。
 本調査では、公共交通事業者、自動改札機等メーカーに対するヒアリングにより、電子・通信技術を活用したデータ収集方法について調査し、従来の調査方法による調査費用の軽減を目指す視点から、主として以下の視点から検討した。
(1)自動改札機データ
 現在、鉄道事業者に導入されている自動改札機により収集している交通流動に関する情報は次のとおりである。
 
(1)
乗車券への書き込み情報:改札入場時に日付、入場時刻、発駅コード、入場済コードを記録
(2)
出場時の読み取り情報:OD情報に関連するものとして、日付、発駅コード、券種区分
(3)
自動改札機にストックされるデータ:券種別、自線発駅別、連絡駅別の集計データ
(4)
自動改札機データの保存方法:改札機内部のメモリーに保存し、上位システムに送信
(5)
SFカード等の場合の料金決定方法:乗車、乗り継ぎ駅をもとに、運賃算出を行うルートを改札機側で割り出し、運賃を算出
(6)
自動改札機データの転送方法:オンラインにより送信
(7)
集計可能な時間帯区分:10分程度
 
 なお、ここで用いられている駅コードはサイバネコードであること、社内で必要とされるストックデータの内容は事業者において決定し、詳細仕様を決定していること、乗り継ぎ旅客に関し、券種別着時間帯別ODの収集が可能であるが、他社線からの乗り継ぎ利用者に対しては、乗り継ぎ駅からの情報しか把握できないことが課題として整理された。
(2)定期券発売機データ
 一般的に、自動定期券発売機から収集できる情報は、概ね次のとおりである。
 
(1)
定期券発売場所
(2)
定期券種別
(3)
乗車駅
(4)
降車駅
(5)
乗換駅(経由地)
 
したがって、発券べースでの定期券OD情報の収集は可能であるものの、時間帯別の把握が困難である。
 
5.新たな都市交通統計調査の課題
 
(1)新たな調査体系の基本的な方向
 調査体系の見直しに際しては、以下の方針を考慮することとした。
 
(1)
量的データについては、調査精度・費用・効率の点から自動改札機データの利用を想定する。
(2)
自動改札機データで得られない質的な情報(属性、移動地域間、端末情報、利用経路など)については、サンプルを限定した利用実態調査を標本とする。
(3)
基本的には、定期券、普通券の両方を対象とする。
(4)
新たな調査課題やデータ精度の向上に対して、必要に応じて補完調査を実施する。
 
(2)調査の実施に向けた今後の課題
 次回以降の新技術を想定した調査の実施に向けて、今後の課題を整理すると次のようにまとめられる。
 
(1)
調査課題と調査ニーズの精査
(2)
調査対象・圏域の検討
(3)
新技術の動向把握
(4)
関連する交通調査との整合性
 
報告書名:
「平成14年度 都市交通統計における新手法の開発研究報告書」
(資料番号140061)A4版109頁
報告書目次
 
I.
調査目的と調査項目
II.
既往の都市交通統計調査の整理
III.
都市交通調査ニーズの把握
IV.
既往調査の課題整理
V.
新たな調査技術の整理
VI.
新技術を活用した新都市交通調査のあり方の検討
 
【担当者名:山根章彦、深山 剛】
 
【本調査は、日本財団の助成金を受けて実施したものである。】







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