4 フィールドでの油分分解実験
(1)実験の方法
この調査研究により生分解性油吸着材の微生物分解処理技術が確立された場合、実用モデルとして考えられる例は、現場から運搬されてきた使用後の油吸着材を、閉鎖された空間において必要量の微生物、栄養源、および活動に適した環境を与えて、速やかに分解処理を行い、安全基準範囲内に達した残留物を環境に戻す、というものである。その「閉鎖された空間」に、従来のバーク堆肥製造工程をそのまま適用できればコスト面で有利になると考えられる。このモデルの可能性を検証するべく、小型化した環境で実験を行った。
約10m3の堆肥原料をコンクリート基礎上に盛り、その中にC重油、A重油、植物油をそれぞれ800gずつ吸着させた油吸着材(製品版「杉の油取り」45×45cmマット型、乾燥自重約200g)を埋め込んだサンプルセットを2組設置した。1組は1ヶ月経過時、もう1組は5ヶ月経過時において観察を行った。実験は平成14年6月10日〜11月7日まで、ぶんご有機肥料(株)工場内にて行われた。
また、VII−1の2に報告した志布志湾コープ・ベンチャー号重油流出事故での実験において、実際に油回収作業に使用し、C重油を吸着した杉樹皮製油吸着材を用いて同様の実験を行った。実験は、マット型のほか万国旗型(45cm×10m)も対象とし、平成14年8月6日〜11月7日まで、ぶんご有機肥料(株)工場内にて行われた。
図−VII.2.4 実験の概念図
(2)実験の結果
設置後1ヶ月を経過した段階で、被覆堆肥を取り除き観察を行った。写真−VII.2.7に示すとおり、C重油吸着サンプル(中央)は原型をとどめておらず、混入してあるパーライト(黒曜石発泡体)の存在によって、そこが油吸着材本体の場所であったことがわかる状態であった。また、C重油を吸着していた部分は未吸着部分に比べて、吸着材を構成する乾燥杉樹皮繊維の堆肥化が早く進行していた。
C重油吸着サンプルに比べて、A重油吸着サンプル(左)は分解の進行が遅く、油吸着材の外側を構成するコットン不織布が一部原形をとどめていた。また、植物油吸着サンプル(右)はさらに進行が遅く、かなりの部分でコットン不織布が原型を保っている様子が観察された。
また、A重油や植物油吸着サンプルが油の性状を指の感覚や臭気などで感知できたのに対し、C重油吸着サンプルは感知できないレベルであった。あわせて、サンプルを水中に投入して観察したが、油の浮上は認められなかった。
写真−VII.2.7 |
1ヶ月経過時のサンプル(被覆堆肥を除去した状態) |
写真−VII.2.8 1ヶ月経過時のサンプル(C重油吸着の部分)
5ヶ月経過時においては、写真−VII.2.9に示すとおり、C重油吸着サンプル(中央)およびA重油吸着サンプル(左)は原型をとどめず、分解が進行していた。植物油吸着サンプル(右)は、油吸着材の外側を構成するコットン不織布が一部原形をとどめているものの、1ヶ月経過時の状態に比べると格段に分解が進行していた。
また、堆肥内部の温度の推移を図−VII.2.5に示す(2箇所の平均値)。設置から1週間後にかけては酸素供給が十分な状態で、通常のバーク堆肥発酵時の温度とされる70℃に近い高温を保っているが、実験の性質上、攪拌が不可能なため徐々に温度は低下し、活発な好気発酵を示す熱の発生が低下しているものと推測される。一般的なバーク堆肥製造過程でも、本実験と同様に攪拌直後は温度が上がり、その後に徐々に低下する現象が見られることが報告されており、十分な攪拌すなわち酸素供給が活発な好気発酵活動に重要な要素であると考えられる。
写真−VII.2.9 |
5ヶ月経過時のサンプル(被覆堆肥を除去した状態) |
図−VII.2.5 堆肥内温度の推移
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